第28話:帰還と、そして次のテンプレ
「見えてきたぞ! ヴェステンブリッグだ!」
「遂に帰ってきたか……」
騎士の声を聞き、窓から外を見ると見慣れたヴェステンブリッグの外壁が見える。
クムラヴァよりも重厚な外壁は、周囲のモンスターや盗賊程度では破ることは出来ない強固なものだ。
この外壁は、ヴェステンブリッグからそう遠くないところにある【魔の森】からのスタンピードを防ぐために作られたもの。
【魔の森】と呼ばれる魔物たちのテリトリーでは、常に魔物同士が戦い、時に敗れたものが流れてくる。
魔の森のエーテルは濃厚なため、魔物自体が強化されており、その強さはダンジョンとは比べものにならないので、高クラスの冒険者は時折魔の森の魔物を討伐するために駆り出される。
そんな魔物が、時折起こる異常で大量に外に流れ出すという、スタンピードが発生した場合、籠城するために強固にされた外壁は、ヴェステンブリッグの特徴である。
俺たちはそんな外壁の正門を通り、街中に入っていく。
貴族、というより領主の一族の馬車である以上、最優先で通されるのが当然。
俺たちは入門を待つ商人や冒険者たちの視線を浴びながら、入っていくのであった。
* * *
それからしばらくして、馬車は領主邸の前に停車した。
先に俺とフィアが降り、リナに手を差し伸べて彼女が降りるのをサポートする。
領主邸の玄関には辺境伯を筆頭に夫人や子供たちが待っていた。
彼らに向かって、俺とフィア、そして騎士たちは敬礼を取り、リナはカーテシの姿勢を取ると口を開いた。
「リーベルト辺境伯名代として、私リナは務めを果たし、帰還いたしました」
「うむ、よく戻ったぞ!」
そう辺境伯が告げると、リナは家族に駆け寄っていく。
というか、辺境伯の方が駆け寄っていた。余程心配だったのだろう。
俺たちも一緒に行動していた騎士たちと共にお互いを労い、周りに集まっていた他の騎士たちを巻き込んで肩を叩き合う。
少しして辺境伯たちの会話が落ち着いてきた頃に、俺とフィアは辺境伯の元に向かう。
「閣下、戻りました」
「レオニス、フィア殿……娘を守ってくれて感謝する」
「とんでもない。我らは少々離れなければならないときもありましたが……」
「いや、おかげで伯爵にも恩を売ることが出来たのでな。出来れば報告を聞きたいが……」
「はい、大丈夫です」
特に現状疲れは感じていないので、報告のために屋敷にお邪魔することにした。
辺境伯たちと共に屋敷の中に入り、いつもの執務室に通される。
すぐにメイドが紅茶と軽食を持ってきてくれたので、それをいただきながら報告をすることにした。
「では、報告を……その前に、これをお返しします」
俺とフィアはインベントリからメダルを取りだした。
辺境伯家の従属官を示すメダルを辺境伯に返却する。
「別に持っていてもらっても構わんのだが……まあいい。それで、だ」
辺境伯はメダルを受け取ると、それを懐にしまい、紅茶を口にして深くソファーに腰を掛ける。
「クムラヴァのギルドから報告が来ているのと、オスワルドがこちらに手紙を寄越してくれているので大体は理解している。だが念のためにな……」
「ええ、それでは……」
俺とフィアはクムラヴァでの出来事を、時系列順に話していくことにした。
* * *
「……成る程な。それでドラゴンか……」
「ええ、そうなります。しかもそれを持ち去ったのが貴族という可能性が問題ですね」
「ふぅむ……お前たち二人はそのドワーフのところに向かうと?」
「ええ、それがまず先決でしょう。あくまで情報があれば……ですが」
竜たちと友人になった、という話で非常に驚いた辺境伯だったが、それよりも目下の問題である【炎魂の楔】の方が気になるようで、そこの報告を重点的に行う。
「紋章便覧を見ても分かりませんでしたしね……およその形から絞っていたのはありますが」
「そうだな……パレチェク侯爵家が一番怪しい、か」
実は今回、火竜から見せられた紋章の形が、怪しいと感じていたパレチェク侯爵家の家紋と似ていたのだ。
とはいえ、似たような形状は他にも沢山あるので、絶対とはいえないのも事実。
「しかし、元々怪しんでいたことでそう見えているという可能性もありますし……」
「それもそうなんだよなあ……」
思い込み、という言葉がある。
元から怪しいなと思っていたパレチェク侯爵であるが故に、俺たちは決めつけていないだろうか。
今のところ辺境伯としても手を出すわけにはいかず、腕を組んで悩んでいる。
「絶対的な証拠があれば、辺境伯なら
「……辺境伯位の持つ、アレか」
「ええ、ご存じでしょう? パレチェク侯爵領も範囲内ですからね」
「……否定は出来んが……」
辺境伯というのは侯爵と同格に位置する爵位だが、異なる点がある。
辺境伯は国境の防衛に当たる、独自の軍事力を持つ存在で、つまりそれだけ国からの信頼が大きい存在。
そのため、王都から離れた場所で何らかの暴動や謀反が起きた場合、その地区を担当する辺境伯はその貴族を捕縛し、その領地を占領出来るという許可を与えられている。
だが、もしそれが誤りの場合は自身が反逆の責を負わなければならない。
だから普通使われないものなのだが、今回のような状況では使ってもおかしくはないのだ。
そのため辺境伯としては、国、あるいは王族からの命令という形を取るのが良いのだろう。
国の命令であれば責任は国にあるし、王族というのは王族令という特別な命令権を持っており、それによって命令されたことの責任はその王族に帰される。
「まあ、あくまでそう言う手段もあるという程度で考えておくと良いかもしれません。まあ、私からの報告は以上ですね」
「うむ、ご苦労だった。おお、そうだ少し待て」
辺境伯は俺たちに待つように言い、1つの手紙を渡してきた。
「これは?」
「オスワルドからのも受け取ったのだろう? Bクラスへの推薦状だ。我々2人分のものがあれば間違いなく昇格できる」
「……ありがとうございます。使わせていただきます」
「ああ。報酬はすまないがギルドに行ってもらってくれ。頼むぞ」
「ええ、それでは」
俺とフィアは2通目の推薦状をもらい、領主邸をでたのであった。
* * *
俺とフィアは一旦春風亭に立ち寄り、部屋を確保した上で冒険者ギルドにやってきた。
お昼間のこの時間ではギルドにいる冒険者も少ないので、受付に向かうのも楽である。
「あ、レオニスくん!」
そう言って手を振ってくるのは受付嬢のキャシーだ。
俺たちがキャシーのところに行くと、キャシーは嬉しそうにこちらに笑顔を向けてきた。
「お帰りなさい二人とも。無事で良かった! 今日はどうしたの?」
「ああ、少しギルドマスターに報告に来たが、いいか?」
「分かったわ、少し待ってて」
そう言うとキャシーは他の受付嬢に声を掛け、受付を任せると2階に上がっていった。
しばらくすると戻って来て、手招きしてくれたので、そちらに向かう。
2階に上がり、ギルドマスターの執務室に入ると、そこでは書類に判を押しているギルドマスターの姿があった。
俺たちが入ってきたのを見て、顔を上げるとこちらに笑いかけてくる。
「お疲れ様でしたお二人とも。クムラヴァはいかがでしたか?」
「いや、楽しかったですよ。色々ありましたが、良い出会いもありましたし」
「……アレを良い出会いと言える君は凄いですね」
今回の流れをかいつまんで話しながら、紅茶をいただく。
相変わらずここのお茶は美味く淹れられている。
「しかし、ヴィンから希望されたとはいえ、君たちをDクラスに上げたのは間違いではなかった……あの時の自分に感謝したいですね」
ドラゴン騒動の話は当然聞いていたのだろう。
もし俺たちが今回の護衛依頼を受けられる状況でなかったら、被害は広がったかも知れない。そういうことを言いたいのであろう。
「さて、間違いなくお二人はCクラス昇格しますが……何か貰ったでしょう? あの二人から」
「……流石ですね」
「いや、二人から連絡は来ていたので……見せて頂けますか?」
「どうぞ」
そう言って俺は2つの推薦状を手渡す。
封を解いて中を改めるギルドマスターだったが、何度か頷くと、こう口を開いた。
「……まあ、妥当ですよね。私としてはAクラスへの推薦が来てもおかしくないと思っていましたから……少しは彼らが常識を持ってくれたようで良かったです。しかし舞踏会にも参加したのですね……」
「ええ、久々に楽しかったですね。腕が錆び付いていないか心配でしたが」
「誰と踊りました?」
「フィアとリナは2回、あと数人と1回ずつですね」
「……分かっていますねぇ」
そんな話をしつつ苦笑していたギルドマスターは、推薦状をテーブルに置くと1枚紙に走り書きをし、ベルを鳴らした。
するといつもの秘書が入って来る。
「さ、お二人ともギルドカードをこちらに」
「はい」「うむ」
秘書の持っていた銀のトレイにギルドカードを載せると、彼女はお辞儀をして出て行った。
それを見送ってギルドマスターが言葉を続ける。
「今回、推薦状が2通ありますし、私としても今回試験の話をしようかと思っていたくらいですからちょうど良いでしょう。お二人をBクラス冒険者へ昇格とします。おめでとうございます」
「ありがとうございます」「感謝する」
そう言って手を差し伸べてくるギルドマスターと握手をすると、ギルドマスターは破顔した。
「まさかこんなスピードで上がるなんて思ってもみませんでした……しかし、こうなると色々あるかと思いますが、頑張ってくださいね。私からも色々依頼させて頂きますし」
「……お手柔らかに」
「ええ、適度に依頼させて頂きますね……お、戻って来ましたか」
そうギルドマスターが言うと、先程の秘書が戻ってきていた。
その手に持つ銀のトレイの上に、俺たちのギルドカードが載っている。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
「ありがとうなのじゃ」
見ると、ギルドカードのクラスがBと表示されている。
「さて、これでお二人をBクラス冒険者として正式にお迎えします」
「今後もよろしくお願いします」
そう言い、俺たちは下りて報酬を貰ってからギルドから出て行った。
* * *
半年後。
「結局例のドワーフも詳しく見ておらんとのことじゃったな」
「ああ、そうなんだよな」
俺は12歳となり、Bクラス冒険者として依頼を受けつつ、【炎魂の楔】についての情報を集めていた。
だが、その犯人についてはあれ以来めぼしい情報がなく、頼りのドワーフも流石に詳しく見ていなかったので分からないとのことだった。
ちなみに関係ない話だが、そのドワーフは鍛冶師だったので包丁について作れるか聞いてみると、二つ返事で頷き、寝る間も惜しんで作り出していた。
おかげで最近野営時の料理では打ってもらった包丁を使うことが出来ている。
このドワーフは腕の良い職人のようで、以前は刀鍛冶もしていたそうだ。
『最近人間共が、刀じゃなくて材料の金属を寄越せってうるさくてよぉ。ふざけんなって話なんだがな』
そんな話を聞きつつ、酒を飲んだりもした。
玉鋼の話を振ったら、よく知っていて、刀鍛冶には必須の鉄らしい。
『まあ、作れる奴ぁそうそういないんだがよぉ! 俺は作れるがな、がっはっはっ!』
かなり仲良くなったので、また近々向かうつもりである。
他にも色々なドワーフと出会い、火竜の加護を持っているためか友好的に受け入れられたので、ドワーフに会いに行くのは楽である。
「……さて、どうするか」
とはいえ、いい加減どうにかしなければいけない時期でもあり、手詰まり感を覚えつつも次にどのようなアクションを起こすか考えなければいけない。
「しばらくネイメノス火山に張り込むかのう?」
「いや、赤竜も言っていたが、あれ以降来ていないらしいからな」
「うむむ……」
二人で頭を悩ませながらギルドに入る。
すると……
「ちょうど良いところに! レオニスさんとプエラリフィアさん、ギルドマスターが呼んでいますよ!」
「……何だって?」
そう言われて受付嬢に付いていくと、珍しく応接室に連れて行かれた。
「ここか?」
「ええ……ギルドマスター、レオニスさんたちをお連れしました」
『どうぞ』
促されるままに応接室に入ると、そこには2人の人物がソファーに座っていた。
1人はギルドマスター、そしてもう1人は初めて見る人物だ。
中肉中背というのがぴったりの言葉だろう、頭がバーコードになっており、いかにも中間管理職のような雰囲気を醸し出している人物。
「よく来てくれました二人とも。どうぞこちらに」
「失礼します」
そう言ってギルドマスターの隣に座る。
すると、正面の男が早々に口を開いた。
「ふむ、平民の冒険者如きが同席するとは些か不快ではあるが……我が主の命である。しかと聞け」
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