第25話:報告と驚愕
「そんな事が……」
「ああ、これは赤竜から直接聞いた話だからな。間違いないだろう」
「どうしたものか……」
俺とフィアは騎士に今回の状況、原因を伝えた。
まさか誰かがその貴重なアーティファクトを奪っていったとなると、単なる一領地で収まる話ではなくなる。
「……だが、まさか竜鱗を頂けるとはな……ふーむ」
「だがこれは村に対して渡されたものだ。下手な扱いは出来ないだろうな」
「分かっているさ。おっと、忘れていた」
そう言って騎士は懐から1枚の用紙を取り出す。
「これは……依頼書か」
「ああ、伯爵がギルドに話して、指名依頼という形になっている。詳細としてはドラゴンの撃退が主目標だが、可能であれば原因究明も求めるものとなっている。その分の報酬は追加報酬が払われることになっている」
成る程。
伯爵なら、そこまで含めて今回の依頼に対する報酬にすると言ってくると思っていたが。
わざわざ分けてくれたのか……あるいはこちらの心象を考えたか。
「分かった。この依頼は完了ということで良いか?」
「ああ。実際原因も分かったことだし……出来れば報告と合わせて、竜鱗を伯爵に届けて欲しいんだが……」
「それは構わない。だが、村長は何と?」
「いや、村長も構わないと言っていた。というより、そんな貴重なものをここに残されても……って恐縮しまくりだったからな」
「分かった、承ろう」
俺はそう言うとテントから出た。
ここから走れば、日付が変わるまでにはクムラヴァに戻れるだろう。
そんな事を考えていたら、村長である老人が近付いてきた。
尊重だけでなく、数人の男性もともに近付いてくる。
「村長、いかがされた?」
俺がそう聞くと、村長が頭を深く垂れ、周りの男性たちは跪いた。
「レオニス殿……この度は儂らのために駆けつけてくれて、本当に感謝しておる。儂らの村は焼かれてしまったし、亡くなった者もおる。じゃが、それでもこれだけ生き残れたのは、貴方様のおかげじゃ。礼を言う」
深くお辞儀したままの村長たちに、俺は声を掛けた。
「そうかしこまらないで欲しい。あくまで私たちは依頼を受けてここにきたのみ。生き残れたのも、ギリギリ間に合ったのも偶然だ。それよりも、これから頑張って生き抜いてくれ。それが私たちにとって、何よりの感謝だ」
「……レオニス殿」
「それに、伯爵には確実に報告して、支援をするよう伝えておく。すぐにとはいかないが、必ず行動を起こすはずだ。だから、それまで頑張ってくれ」
「うむ……儂らは必ず生き抜くぞ。……ありがとう」
「では、私たちはクムラヴァに帰還する。ではな」
そう言って俺とフィアは踵を返し、クムラヴァへ歩き出す。
村長たちは俺たちが遠くに見えなくなるまで、頭を下げていた。
* * *
村から十分離れた場所まで来て。
「……さて」
「うむ、走るぞ」
俺とフィアはまたもや風になり、一気に駆けていく。
途中にも村があるのだが、それも通り過ぎてひたすらに走る。
もちろんこれは【玉響】の時の高速移動ほどではないが、大体時速で50キロ程度は出ているのではないだろうか。
魔力消費とエーテルでの回復が等しくなるように調整した移動法のため、実質消費無しで走り続けていることになる。
「見えたぞ」
「うむ」
既に周囲は真っ暗で、どうにか門の辺りだけが明かりを灯しているのが分かる。
ギリギリまで近付き、ちょうど明かりで見える辺りで歩きに変え、門に近付く。
すると、警備兵たちが現れた俺たちに緊張の視線を向け、一人が誰何してくる。
「何者だ!」
「リーベルト辺境伯家従属官のレオニス・ペンドラゴンだ! バルリエント伯爵からの要請を受け出ていたが、今帰還した!」
そう俺が叫ぶと、誰何した警備兵が近付いてくるので、俺も辺境伯家のメダルを出して見せる。
メダルの家紋を確認すると、ホッとした表情になった警備兵がこちらに敬礼を向けてきた。
「お疲れ様であります! 確認いたしましたのでこちらへお願いいたします!」
「ああ、ご苦労」
俺が返礼をすると、門の一部が扉として開かれ、その両脇に警備兵が前で槍を立てて構えた。
俺はその警備兵たちにも返礼をし、フィアと共に中に入る。
「お疲れ様です、馬車がこちらにありますのでお送りいたします」
中に入ると、別の警備兵が馬車を牽いてきて乗せてくれた。
馬車はそのまま領主邸に向かって動き出す。
「……ふう」
「……少しは気疲れしたのう」
「まあな」
やはり問題ないと感じていたとはいえ、ドラゴンを相手にするというのは大なり小なり影響があったようだ。
「ま、赤竜と友人……竜? になれたのは良かったが」
「……ふふっ、そうじゃの」
あの人間くさい竜との会話を思い出す。
同時に、出来るだけの力になれるようにしておかねば、とも思う。
『このような無駄な犠牲を……!』
赤竜の表情は分からなかったが、明らかに彼は心を痛め、怒りと後悔を必死に抑えていたのが分かる。
人を人と見ないような傲慢さもなく、1つの命に対しあのような表情が出来る存在を、俺は必ず助けようと思う。
「……とにかく、情報収集も必要だな」
「うむ」
今後の予定と作戦を考えつつ、俺たちは領主邸に到着するのであった。
* * *
「お戻りに……ではなく、戻ったのか、レオニス君!」
「伯爵、無事に戻ったぞ。これを」
そう言って俺は依頼書を手渡し、それに伯爵がサインする。
後は冒険者ギルドに持って行けば依頼完了となるが、流石に遅いのでそれは明日だ。
「……本当に、助かったよ。まさかドラゴンなんてね……」
「ああ、そのことで報告をしたいのだが」
「分かった」
伯爵は頷くと、人払いをして、執務室に残ったのは俺とフィア、伯爵だけになった。
出された紅茶を一口飲み、喉を潤してから報告を始める。
「……さて、まず伯爵。リナ嬢を保護してくれて助かった」
「これはホストとしての務めだからねェ。それに辺境伯の騎士も来てくれたからさ」
リナは問題なく保護されており、伯爵家の皆と共に屋敷にいたそうだ。
辺境伯の騎士も共にいたため、問題は全くなかったようである。
「俺への依頼は護衛だからな……本当は離れるのは問題だったんだが。さて、肝心の報告だ」
「ああ」
「まず、ドラゴンは退いた。というよりも、強制的に引き上げさせられたというべきか」
「うん? どういうことだい?」
俺はレッドドラゴンとの戦闘について話をした。
既に村が廃墟になっていたこと、どうにか村人は数人を除いて生き残っていたが、危険だったこと。
「――それで、少し攻めあぐねていたところだったんだが、そこに割り込んだのがいてな」
「それは凄い勇者だね……いや、ちょっと待って」
伯爵は少し予想がついたのか、顔をしかめて考え出した。
そして驚きの表情を俺に向けて「まさか……」と呟いた。
「ああ、上位の竜……【赤竜】が介入してきた」
「……よく生きて帰ってきたね」
「いや、普通に会話したら良い奴だった。友人になったよ」
「……はぁ、凄すぎて言葉がないよ」
赤竜と会話しただけでも普通ではなく、ましてや友人になったというのが驚きだったのだろう。
少々貴族らしからぬ表情になっているようだが。
「……はっ! ゴホン……それで、ドラゴンが退いたと」
「ああ、ついでに襲撃の理由を聞いてきた」
「……何と?」
伯爵は鋭い目つきでこちらを見てきた。
それだけ真剣に考えているのが見て取れる。
「やはり、竜のテリトリーに踏み込んだ馬鹿がいたらしい。だが、盗ったものが問題になった」
「……なにか魔法金属かい?」
「いや、鉱石程度そう大事にはしないといわれた。そうじゃない……もっと重要な、竜の宝に手を出したようだ」
伯爵はより表情を深刻にし、無言で俺に話を続けるよう促してくる。
俺は頷くと、言葉を続ける。
「盗られたのは……【炎魂の楔】だ」
「馬鹿な!?」
俺の一言を聞いた瞬間。
ソファーを蹴倒さんばかりに立ち上がり、伯爵が叫んだ。
「落ち着け」
「これが落ち着いていられるか! あれは……あれはこの国を支えるアーティファクトの一翼だぞ!? それを……!」
立ち上がり、落ち着きなくうろうろして声を荒げる伯爵。
確かに国への影響が直接的に存在するアーティファクトが盗まれたなどという話は、あまりにも大きすぎるものだった。
「あれがなければ、ネイメノス火山はいずれ噴火する! その時の被害を考えればっ! どこの誰だ、そんな事をした愚か者は!? 徹底的に――」
「――黙れ」
騒ぐ伯爵に向けて、俺は一瞬だけ【威圧】を放つ。
それに気付き驚いたのか、伯爵が動きを止めてこちらを見てきた。
「伯爵、君が騒いだところで今変わることはない。今は情報を手に入れ、熟考すべき時だ」
「……レオニス君」
「いいから座れ。話すことはまだある」
俺がそう告げると、伯爵は大人しくソファーに戻った。
「……すまない、見苦しいところを」
「いや、それだけの思いがあることは理解している。それで、だ」
俺は話を続けた。
その【炎魂の楔】の反応を竜は追い、村に来て探し出そうとしたこと。
だがそこにはデコイである魔道具が残されており、実際の宝珠がどこに行ったか不明であることなど、説明していく。
「少なくとも、デコイを調べれば誰とは言わなくてもどこで作られたか位の予想は付くかもしれん。必要であれば【王国魔導師団】に依頼も出来る。王国軍も動く可能性はある。だから、今は情報を集めるときだ」
「……ああ、そうだね。……君はどうする?」
伯爵はどうにか落ち着いたのか、これからどう動くかを考え始めていた。
そして、この状況に絡む俺がどう動くか聞いてくる。
「まず、俺は一旦リナ嬢を送り届けなければいけない。出来ればその前に赤竜に会って、どのような人が来たのか、特徴がないかなど聞いてみた上で伯爵に伝えるつもりだが、どうだ?」
「助かるよ。……これも依頼にした方が良いかい?」
「話が早くて助かるな」
そう俺が言うと伯爵は苦笑いする。
「こうやって僕の財布からどんどんお金が……」
「ああ、そうだった」
愚痴る伯爵に伝えておかなければいけないことがある。
「伯爵、赤竜は村の復興の足しにと、とあるものをくれた。いるか?」
「本当かい!? もちろんだよ、助かる! ……でも、何をくれたんだィ?」
調子が戻って来たのか、普段の話し方に戻る伯爵。
と言うかこの喋り方作ってたんだなと、今更思ってみる。
さて、何をくれたかというと。
俺は口を開いて答えを述べる。
「竜鱗」
「……何だって?」
俺の一言に思わずと言った感じで聞き返す伯爵。
「竜鱗だ」
「……うん、ちょっと待とうか」
改めて俺が口を開くと、伯爵は手のひらをこちらに向けて「待て」のジェスチャーをしてくる。
「……それって、【ドラゴンの鱗】を指す竜の言い回しかな?」
「いや、【竜鱗】だって。ドラゴンじゃない。目の前で剥がしてくれたんだよ」
そう俺が断言すると伯爵は頭を抱えだした。
「どうした?」
「……それさ、普通に国家予算クラスに金が飛ぶじゃん。足しじゃないよね」
「ああ。しかも追加でくれそうだったから、流石に止めたからな」
「…………常識って、なんだろう」
「おい、現実逃避するな」
なんか遠い目をしている伯爵の方を揺すって正気に戻す。
とにかく、竜鱗は伯爵に渡し、上手くお金にするようにお願いしておく。
「とにかく、俺たちからの報告は以上だ。明後日出発だからな、明日の内に出来ることを済ませておきたいからそろそろ休むぞ?」
「うん、そうだね。じゃあ、おやすみ」
「おやすみ、伯爵」
俺たちは伯爵の元を出て、自分たちの部屋に戻る。
それぞれ風呂に入り、上がった段階で限界が来て、そのままベットに倒れ込んで気を失ったように眠るのであった。
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