第13話:試験結果と次のテンプレ
「見えたぞ、ヴェステンブリッグだ」
『『おおー!』』
御者台から俺がそう告げると、皆嬉しそうに声を上げた。
盗賊討伐から2日ほど。遂に本拠地に戻って来ることが出来たため、皆嬉しそうである。
「お疲れ様。ギルドカードを見せてもらえるか?」
「ああ」
門のところに立っていた警備兵にギルドカードを渡す。
基本的に街に入るには必ず身分証明を提出し、通してもらう必要がある。
普通、全員がギルドカードを提出する必要があるが、今回は先に俺たちの話が通っているらしく、俺のカードの確認だけで終わる。
「Dクラス試験だったんだろ? どうだった?」
「まあ、討伐は終わったよ。詳しくはレナードに聞く方が良いんじゃないか?」
「それは面白くないじゃないか。まあいいや、通って良いぞ」
そう言われ俺たちの馬車は門を通過し、ヴェステンブリッグに入ったのであった。
ギルドに到着すると、顔見知りの冒険者が声を掛けてくる。
それに返事をし、挨拶を返しつつギルドの扉をくぐる。
「あ、レオニスくんお疲れ様! 大丈夫だった!?」
「やあキャシー、問題ないよ。それよりレナードが見ているぞ?」
「あっ……」
受付嬢のキャシーと、試験監督でもあるレナードであればレナードの方が上役だ。
なんとなくレナードの笑顔が怖く見えるのは俺だけだろうか。
そう考えつつ、俺は依頼票をキャシーに渡す。
「完了報告だ」
「はい、承ります。……盗賊討伐ですね。お疲れ様でした」
「ああ」
完了報告が済むと、レナードが声を掛けてきた。
「よし、完了報告が終わったので、これで試験は終了だ。結果は明日の午前に分かるので、各自ギルドに来るように。何か質問はあるか?」
「手に入れたものの分配をしたいが、どこか借りられるか?」
「それなら、初日の会議室を使え。というか、まだ決まっていなかったのか……」
少し呆れた表情のレナード。
一緒に数日いる中で、何回かその話し合いをしていたはずだが……と苦笑している。
「ああ、あいつらがな……助かるよ。今からでもいいか?」
「ああ、構わない」
それならば……と、他のメンバーに振り返り、
「行くぞ。せめて今日中には決めてくれ……俺の【アイテムボックス】に入れているんだ、最悪全部俺が取るぞ?」
「そ、それは困る! わ、分かったから、今日には決めるから! な?」
「う、うん。そうするよ」
「り、了解~!」
おや、一人反応がない。
「……私は本貰ったから」
「……早々に一抜けしてたな、クララは」
「……勝ち組。ぶい」
なんだろう。この反応に困る感じ。
こういうタイプはいまいち分かりづらいのだ。
さて、結局彼らの分配は、クララを入れてパーティを組むことでパーティ共用の武器や防具という扱いになり解決したとか。
* * *
「……朝か」
俺は午前9時を知らせる鐘の音で起きた。
この部屋で寝るのも今日が最後と思われる。
Dクラスに昇格すれば、これからは下宿なり家なり探さなければいけない。
そんな事を考えつつ、身だしなみを整えて食堂に下りると、既にフィアが朝食を食べていた。
「おはようレオニス。遅刻じゃぞ」
「いや、何のだよ……」
「妾と一緒に食事をするのは当然じゃ。それを遅刻するとは……」
そう言いながらも俺を待っていてくれたのだろう。
「ごめんな。そしてありがとう」
「……ふん、素直にそう言えば良いのじゃ」
ちょっと拗ねた表情があまりにも可愛くて、無意識のうちに頭から耳にかけて撫でていた。
「にゃ、何を……」
「可愛いから撫でさせろ」
「む、むぅ……」
しばらく耳を揉んだり、頬ずりしてしまったが、まあ時間的には誤差だろう。
本当は尻尾も愛でたかったのだが、それは流石に起こられる。
TPOを弁えるのが紳士である。
さて、朝食を摂り終え、俺たちは冒険者ギルドに向かった。
「あ、おはようございますレオニスさんにプエラリフィアさん。会議室にレナードさんが待っていますよ」
「ああ、分かった」「すぐに行くのじゃ」
今日はキャシーはいないようで、顔見知りの受付嬢がそう教えてくれた。
会議室に向かい、扉をノックする。
『入れ』
「失礼します」
「おお、来たかレオニス、プエラリフィア……これで揃ったな」
どうやら俺たちが最後だったらしい。
ジェスチャーで謝っておく。
「よし、試験の結果を発表する。――全員Dクラス昇格だ。おめでとう!」
『『やった!』』
皆合格だ。
イゾルデも、そして滅多に表情を変えないクララも嬉しそうである。
エミリオに至っては少し涙ぐんでいた。
「さて、これでお前たちは一人前の冒険者として活動するようになる。それにふさわしい態度で、そして後輩たちの模範としてしっかりやるんだぞ」
『『はい!』』
「よし、では少しの時間総評を行う。まずエミリオだが――」
ここからは総評。
それぞれの良かった点、注意すべき点などが話されていく。
「――イゾルデは、荷物の返還時の扱い方に関して少々問題があったな。あれは無償で返すわけにはいかない。レオニスも言っていたが、味を占めた馬鹿が迷惑をかける可能性もあるからな」
「……はい」
「実力に関しては問題ない。これから色々あるだろうが、慣れというのもあるしな。だが、今後躊躇うことのないように、即断即決を心がけろ」
「はい!」
イゾルデが指摘されたのは、商人の荷物をどうするかと言う点と、最初の盗賊に対する躊躇い。
レナードは、今後しっかりと意識を変えて動くようにと告げる。
イゾルデもそれを理解しているので、素直にアドバイスを聞いているようだ。
「……さて、レオニスとプエラリフィアだが」
レナードはそこで言葉を切る。
「……はっきり言って、お前たち二人については指摘することはない。レオニスも荷物の返還についてきちんと買い戻しという形で考えていたしな。だが、なぜ2割にした?」
「相場は5割だ。だが、個人経営なら5割はでかい。それに、日数を考えても、今回の依頼状況を考えてもそこまで取るわけにはいかないだろ?」
「だが、あの二人がもし商会所属だったらどうするんだ? わざわざ誓わせていたが、嘘だったら?」
レナードが分かっていないはずはないのだが、これはわざわざ俺にいわせるつもりなのだろうな。
そう考え俺も口を開く。
「レナードも分かっているだろ? 商人は何より信頼を大切にする……もし俺たちに嘘を吐いたら……どうなるだろうな」
「……やっぱりか。何も言うことはないな」
レナードはそう言うと、肩を竦めて苦笑した。
「……と言うことで、二人にはこれといって言うことは無い。というか、早くクラスが上がるように色々依頼を受けてくれよ」
「分かった。心するよ」
その一言で総評が終わり、各自解散となる。
俺が会議室を出ようとしたところ、エミリオが近付いてきた。
「レオニス、それにフィアさん。良かったら今日の夜、みんなでお祝いをしない?」
「なるほど、それは良いな」
中々金銭的な問題もあり、皆で騒ぐということが無かったため、久々にパーッとしても良いなと思いフィアを見る。
「うむ、妾も良いぞ」
「じゃあ、【春風亭】でもいい?」
春風亭? どこかの落語の一族だろうか。
と思っていたら、フィアが口を開いた。
「うむ、あの東にある宿じゃな」
「うん、そこ。今僕たちはそこにいるんだ」
「なるほどの」
どうやらエミリオたちの下宿でもあるらしい。
エミリオは年齢的に10代半ばなので、すでに下宿に住んでいるのだろう。
「……あー、俺たちも下宿探すか」
「そうじゃの。これから探しに行くとするか」
そんな事を話しつつ、会議室を出たところ……
「レオニス君、少し良いですか?」
「ギルドマスター……」
会議室を出たところで声をかけてきたのはギルドマスターのデニスだった。
「まずはDクラス昇格、おめでとうございます。特例ですが、この決定は間違っていないと思っていますよ」
「それは買い被りすぎでは? しかし、わざわざありがとうございます、お忙しいでしょうに」
そう俺が言うと、ギルドマスターは苦笑しながら手を振る。
「いえいえ、私の仕事は決裁ですから。現役の頃の方が楽しかったですよ」
ギルドマスターもかつては冒険者、それも実力ある冒険者だったはずだ。
そんな人だからこそ、引退して机に座ると現場が懐かしくなるのかも知れない。
「それで、どうされたのですか?」
「おや、用事が無ければいけませんか?」
いや、ギルドマスターともあろう人物が、そんな理由で声をかけるとは思えないし、大体最初に『少し良いか』と聞いてきている。
「すみませんが、昇格したために下宿を探さなければいけないのですが」
「……ああ、そうでした、そうでしたね。君は宿舎住まいでした……では、それは私に任せて、話を聞いていただけますか?」
「……まずは話を伺います」
このジジイ。
下手に『もちろんです』なんて言ったら厄介なことを押しつけられそうだ。
その証拠に俺が『話を聞く』と言うと、明らかに残念そうな表情をした。
「その慎重さというか、深読みするのは冒険者として大切ですね……まあ、悪い話ではないですから、執務室に来ていただけますか?」
「……フィアも共にであれば」
「……仕方ありませんね」
この面倒は会話の仕方。久々にすると疲れるな。
このギルドマスターは恐らく、俺が貴族と接しても問題ないか量っているのだろう、と目星を付けてから執務室に向かう。
「……さて」
ギルドマスターは扉が確実に閉まったことを確認し、俺たちにソファーに掛けるように勧めてきた。
ギルドマスターと俺たちが座ると、この間も見た秘書が紅茶を出してくる。
「今回の話は、基本的にレオニス君のみに来ているものです。そのため、プエラリフィアさんは本来同席していただくのは難しいのですが……それでは受けてもらえそうにないので来ていただきました」
「なるほど」
つまり、フィアと会う前のことと関係しているのだろうか。
だが予想が付かないため、ギルドマスターの言葉を待つ。
「レオニス君、君はダンジョンでキラーウルフを討伐しましたね。あの魔石はどうされましたか?」
「ギルドに買取を依頼していましたが、すぐにクラス昇格の依頼でしたから手元にあります」
「そうですね。まずその魔石を見せていただけますか?」
俺は【インベントリ】偽装のための【アイテムボックス】からキラーウルフの魔石を取り出した。
ギルドマスターはそれを見ながら、懐からルーペを取り出している。
「確認されますか?」
「ええ、よろしければ」
「どうぞ」
そう言って俺がテーブルの上に魔石を置くと、ルーペであちらこちらを見ている。
途中途中で頷いたりしながら数分見ていたが、しばらくすると大きく頷いてルーペを仕舞った。
「ありがとうございます。間違いなくキラーウルフ、それもかなりの個体ですね。よければここで買取しますが、いかがでしょう?」
「ふむ……」
特に魔石に何か思い入れがあるわけではない。
しかし、自分は鑑定が出来るわけではないので、適正価格かどうかは分からないのも事実。
「そうですね、買取っていただけるのは助かりますが、どの程度なのか鑑定を先にしていただけますか?」
「……流石ですね」
そう言うと、ギルドマスターは一人の職員を呼んできた。
眼鏡を掛けた白髪の男性で、いかにも研究者のような人物。
「む、この魔石は……ふんふん、ふん……まさか!?」
挨拶もなしに一直線に魔石に向かい、右に左にと眺めると驚愕の表情を見せ、ギルドマスターに振り返った。
「テッドさん、いくらになりますか?」
「こ、これは……キラーウルフでは!? これなら金貨10枚は下らんでしょうな!」
「なるほど……どうですか、レオニス君?」
金貨10枚か……10万ディナルならばかなりの金額である。
フィアに目を向けると、特に何も言うではなく頷いていた。
「では、それで結構です」
「はい、それではテッドさん、ありがとうございました。これをお任せします」
「分かりましたぞ」
そう言ってギルドマスターは金庫から革袋を出して、金貨を10枚渡してきた。
テッドと呼ばれた男性職員は、魔石を持って部屋を出て行く。
「……と、ここまでは余談です」
「でしょうね……」
「分かってくれて何よりです……実は、今日お話しするのは別に何か依頼ではありません。ですが、ある人物に会っていただきたいのです」
おや、誰かとの面会か。
誰だろう。
「……レオニス君、君が助けた少女のことは覚えていますか?」
そう言われ、少し考える。
そういえばキラーウルフと戦ったのは、襲われていた冒険者の少女を助けるためだったな。
少しだが思い出してきた。
魔法使いで、俺が戦う際にいったんは逃げたものの戻って来たお人好し。
栗色の髪の少女だった。
そういえば、戻ってから姿を見ていない。
そこまで考えてから、俺はギルドマスターに返事をした。
「……ええ、思い出しました。栗色の髪の少女でしたね。確か……リナと呼ばれていたような」
「ええ、その少女です」
「もしかして、その少女と会えと?」
特に会う理由はないが、どうしたのだろうと思って聞き返すと、ギルドマスターは首を横に振る。
「いいえ、違います」
「では……」
「いや、確かに彼女にも会うかも知れませんが……会っていただきたいのは、そのお父様です」
なるほど?
いや、それはおかしい。
普通、子供冒険者になるというのは、余程貧しいか、孤児など身寄りが無い子供たちだ。
これは本来、領主が始めた救済措置らしく、同時に訓練ともなる政策の1つ。
それなのに、家族がいる、しかも家長である父親がいるのに冒険者をしている?
そしてその父親と会う?
不思議に思い首を傾げていた俺に対し、ギルドマスターはこう告げた。
「もう少し正確に申しますと……ヴェステンブリッグ領主であるリーベルト辺境伯に会っていただきたいのです」
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