第14話  ブラック企業マネー事情。

<問・ブラック企業はどうやって経営を成り立たせてるの?>


 本日はブラック企業・A社のマネー事情について書いていこうと思います。

 末端で働く新人技術者では、なかなか知る事の出来ない経営情報。これらの情報を僕に教えてくれたのは、生産管理部のHさんでした。プロローグでも触れていますがHさんのスペックは、


 元々右翼団体に出入りしていた人。正式な組員ではないらしい。

 強面だけど、めちゃくちゃコミュニケーション能力が高くて、部署に関係なく様々な人からの相談や愚痴を受けるような人柄。なので会社の裏情報に詳しく、喫煙室にたむろっては僕に裏事情を色々教えてくれました。

 今回のエピソードは、そんなHさんから聞いたお話が多いです。




・で? 実際ブラック企業って幾らくれんの?


 A社の給料ですが、表面的には決して悪くなかったです。

 職安や就職説明会で提示している月収は、他の企業に比べれば一~二万円高かったです。もちろんそこには姑息なからくりが存在します。


 なぜ高いか? それは見込み残業分の残業代が含まれているから!


 ちなみに求人票などには【見込み残業含む】等の表記はありません。当たり前です。だって、ブラック企業ですもの。

 見込み残業は一日二時間残業で換算されていたのですが、二時間以上の残業に対して残業代は出ません。だって、ブラック企業ですもの。

 そして休日出勤や深夜手当、出張手当なども当たり前のようにありません。だって、ブラック(以下略)

 つまり求人票に提示されている金額しか支給されません。結果的に時給換算すると時給四百円代で働いていたと思います。だって、ブ(以下略)




・で? ボーナスはどんくらい貰ってたのよ?


 A社は実力を評価します。利益還元! 決算ごとに個々の社員の売り上げに対し、明確にボーナスと言う形で評価します……なんてことが社内規定にも書かれていました。ここまで読んでいる方々なら、もう騙されないでしょう。

 はい、嘘です。真っ赤なウソ。

 そもそも、社内規定には宣言があるだけで、ボーナスの金額を換算する情報が書かれているわけではありませんし。結局のところ、社長の気分次第で決まります。

 ここで僕がA社から貰ったボーナスの金額発表ー。


〇一回目 五千円

 まぁ、これは入社直後の事ですから、残当でしょう。


〇二回目 二万円くらい

 この頃はクレーム処理の真っ最中。残業は週百時間。舐めてんのか?


〇三回目 三万円くらい

 この頃は絶賛社内ニート中。


 えー、つまりですね。クレーム処理じゃ、当然ながら利益は出ません。利益が出なきゃ評価もされません。なので、どんなに頑張ってもボーナスはこの程度なのです。

 金いらねぇから、休みくれ!


 しかしながら、先輩たちの話を聞く限りでは

「昔はちゃんとボーナス出たんだよ。現金の入った封筒が立つくらい」

 なんてことを言っていました。ホントかよ?

 疑問に思っていた僕ですが、A社から転職後、数社の企業を転々としつつ、異業種の方ともお話しする機会に恵まれたのですが、皆さん口をそろえて仰るんですよ。


「昔は景気が良くて、封筒が立つくらいボーナスが出て……」


 ここで僕は一つの仮説に辿り着きます。

 (これって昔のA社は景気が良かったのではなく、世間全体の景気が良かっただけの事じゃないかな)

 それにしても、昔の日本には貰ったボーナスを立たるルールでもあったのですかね?




・水曜日はノー残業デー。ただし、残業しろ!

 いつも十一時に帰る人が、十時ごろ帰るくらいの違い。そもそもノー残業デーって何? 食えんの?




・はーい。ここでA社の重役たちの月収を発表しちゃうよー。


 この情報はHさんが経理の社員さんから聞いたお話。よって、まず間違いない金額です。


〇まず社長の給料

 A社から一〇〇万円。

 経営するバーから一〇〇万円。

 合計で二〇〇万円になります。


〇次に専務の給料

 A社から五〇万円。


〇社長と専務以外でA社で一番給料をもらっている人の給料

 年配のプログラマーさんがA社で一番給料を貰っている社員でした。

 A社から四〇万円以下。

 つまり、これがA社で頑張って得られる給料の上限です。逆に言えばどれだけ頑張っても、これ以上は貰えない考えた方が良いでしょう。


 僕がA社を辞める時、送別会をしてくれた同期の皆さんが


「社長らって幾らもらってるん?」


 と聞いてきたので、この金額は彼らにも伝えました。天井が見えてくると、俄然モチベーションが下がるねー。と、みんなで愚痴ってました。




《解・ブラック企業は自力で経営できない社会のお荷物!》


・儲かってないブラック企業は、どうやって経営を続けているの?


 真っ先に思い浮かぶ疑問のはずです。儲からなきゃ企業は潰れる。当たり前。

 しかしながら、そんな現実を打ち砕く画期的な方法は色々あります。その一つが、ズバリ……


 《補助金》です!


 つまり税金ですね。各自治体が多様な補助金を受け付けています。昨今ならコロナ対策用の補助金が有名です。飲食店などで空気清浄機付きのエアコンを設置したり、換気扇を設置したりすると補助金が出るそうです。空気清浄機がコロナウイルスに効くのか? かなり眉唾ですが、こういった例でもわかるように補助金の需給には抜け道が結構ありまし。


 さて、A社は多くの補助金を貰いつつ経営している会社でした。ベンチャー指定を受けた企業として補助が出ていましたし、世界発の制御システムの開発を銘打って補助金を貰っていました(開発は諦めていたので、開発しているふりをしていた)。高額な計器などの資材も補助で購入しているのがほとんど。

 僕が辞めた年、ISO取得に躍起になっていたA社ですが、ISO取得に伴う補助金が欲しかったんだろうなぁ。




・社員に払う金は違法な方法を用いてでも法人の利益にする。


 入社一月足らずでA社を辞めたDさん。そんなDさんは年金にすら入れられてなかったそうで、辞めて転職した後、手続きが面倒な事になったそうです。




・A社で最も早く人が辞めていく部署は経理。


 これはHさん経由で聞いた、会計士さんの話。ちなみに僕が入社して一年の間に会計士は三人以上辞めています。

 その理由はA社の経済状況。

 ブラック企業ですので潤沢な資金が無いのは当然ですが、内情は恐ろしいほどの自転車操業。銀行からは毎月のように借り入れ、返済を繰り返し、一度でも借り入れが止まれば給料が支払われなくなる、っていうか倒産する状態だったそうです。

 よくよく思い出せばA社の給料って月末締めの翌月末払い。つまり入社してから二ヵ月の間は給料が支払われません。決して珍しい給与体系ではないらしいですが、A社の場合は給料分の資金を先延ばしにして経費を圧縮したい気配がぷんぷん漂ってきます。

 そんな状態でも具体的な対策は行わないA社。そうした資金繰りを最も間近に見ているのが会計士さんでしたので、相当なストレスだったそうです。

 そりゃ、来月この会社倒産するかも……なんて思いながら仕事なんてやってらんないよね。




・出張、外回りはマイカーで。ガソリン代? なんで社員のガソリン代を会社が払わなきゃならないんだ?


 A社には社長のほかにも営業マンが一人在籍していました。気の優しいアラフィフのオジサンで、意外とロックが好きな人で飲み会の時などで音楽談議に花を咲かせたことがあります。


 さて、当時の営業マンはまだまだ外回りが仕事の基本です。そこで各方面へ毎日のように走り回る営業さんですが、その足は営業マンのマイカーです。けどガソリン代なんて出ません。

 僕も何度か県外の外注さんへ行くために、マイカーで一時間くらいかけて行き来していたのですが、その時もガソリン代が別途支払われた事はありません。

 当時はまだ社会の常識何て知らない新入社員。そして精神疾患で疲弊して「ガソリン代くれ」と言えるような心理状態でもありません。




・そりゃ、しっぺ返しもあるわけでして……


 ボクが入社した翌年、社長の副業のバーが潰れました。閉店前にそのバーの店長さんが愚痴っていたのを小耳にはさんでいました。なんでも


「社長が店に来ると、入荷したばかりのワインを店内にいるお客さんたちにと称して無料で配り始めるから、いくら売上げても相殺される」


 うーむ。いかにも外面だけは良い社長がやりそうな事です。

 その結果、閉店。バーにも従業員が居て、その人たちは路頭に迷うことになったわけです。安易に会社を潰す経営者と言うのは恨まれても当然な気がします。

 ……いや、それでも、あの社長の下から離れられた方が後の人生は良い方向に行くかな? ちなみにバーの店長は元々A社でプログラマーをやっていました。クソ人事異動。




 さて、今エピソードはこの辺で!

 次回は新たな犠牲者たち……つまり後輩たちが入社したお話です。

 こっちは地獄だ!! 早く逃げろ!

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