第11話・後編 あははは。空が、空が落ちる。あはははははは……まぁ、そんな日もあるさ。

《解・メンタルに異常を感じたら、とにかくすぐに休む事》

 と言うわけで医者に行きました。

 当時は精神病が一般的に周知される直前でしたので、僕の症状を見てくれる病院は少なかったです。メンタルヘルス外来なんてほぼ見つからない。

 どうにかして調べたところ、一軒の精神科の医院を見つけます。ボロボロの雑居ビルの2階に入っている精神科で電話予約の必要のない病院でした。


 いざ病院へ行って受付におばさん(精神科医の奥さん)に簡単な説明をして、問診票に記入したら、すぐにカウンセリングが始まりました。

 メガネを掛けた五十代くらいの小柄な精神科医と向かい合って、初診の際は少し長めに十分くらい話をしたと思います。

 体調不良の原因になった仕事の話をしたところ


「聞いた事のないレベルの悪質な環境での仕事、なんでもっと早く来なかったの」

 と言われる始末。医者曰く


「暗所での、繊細な作業が脳を興奮させてしまっている。短期間ならすぐに回復したかもしれないが、長期にわたる興奮が脳に損傷を与えている可能性もある。夏場の蒸し暑い環境も悪影響を与えていただろう……」


 詳細は覚えていませんが、こんな事を言ってたと思います。

「あー、もっと早く医者に行けばよかったなぁ」と反省しました。

 この日、『統合失調症』と『躁うつ病』の可能性があると説明を受けた後、精神安定剤を処方され、薬がなくなる二週間後にまた来るようにと言われてお終いです。

 そして二週間後、再びカウンセリングです。


医者「具合はどうですか?」

ボク「良くはないですね。ずっと具合悪しい、眠りも浅いです」


 と言った感じのやり取りの後、少しだけ世間話をして五分ほどで終了。精神安定剤の処方箋を貰ってお終いです。ちなみにこの五分で二千円取られます。まぁ、精神科のカウンセリングの相場を考えれば安い方なんだろうけど……


 そして、さらに二週間後、さらに二週間後、さらにさらに二週間後……次第にカウンセリングの時間は短くなっていき最終的には


医者「具合はどうですか?」

ボク「悪いですよ。眠りも浅いですし、食欲もありません」

医者「まぁ薬漬けになればいいんだよ。またいつもの出しとくね」


 約三十秒でカウンセリング終了。

 とにかく精神安定剤を飲まそうとする医者の事を心の中で【処方箋プリンター】って呼んでいました。

 あれ? 精神科医もブラックじゃね?


 とはいえ、このカウンセリングを完全な手抜きだ! と批判するわけじゃないんです。


「精神科医が患者一人一人と真面目に向き合っていたら、どの患者よりも早くうつ病になる」


 なんて話はよく聞きますが、確かにその説は正しいと思います。

 毎日、何十人も心を病んでて、頭がおかしくなってる人間と真面目に向き合ってたらお医者さんの身だって持ちません。

 そう、だからカウンセリングが三十秒で終わったっていいじゃない……んなわけあるか!(怒)


 なぜ僕が怒るかと言うとですね、この精神科医! 短くても二十分はかかります。ただのセクハラオヤジではないか!?

 やっぱ。この精神科医もブラックじゃね?


 さすがにセカンドオピニオンを探しました。こちらは予約制のメンタルヘルス外来のある診療所で、三十代くらいの爽やかなお医者さんでした。

 主な症状である『統合失調症』との診断と、その診断をおこなった精神科の名前をお医者さんに伝えたところ、うーん、と悩まし気に首をかしげながら教えてくれました。


「統合失調症であれば精神科の先生の方が専門ですからね……こちらの先生がそう言っているんであれば、それを信じてみても良いと思いますよ」


 しっかり覚えているわけじゃありませんが、こんなニュアンスの事を言われました。

 おおう、望みが断たれた。

 つまりメンタルヘルス外来はうつ病の患者が行くところで、統合失調症は管轄外ってこと? 僕は専門家ではないので良くわからない所ですが、なんだか煙に巻かれたような気がしました。


 ちなみに、後々この精神科医とは最後喧嘩別れして精神安定剤も勝手に辞めたのですが、徐々に体調は良くなっていきました。

 多分、相当運が良かったのだと思います。

 それに、ちょうど仕事を辞めたばかりのタイミングだったので、貯金と失業手当でしばらく悠々自適ライフを送るんじゃい! ってな感じでストレスが無くなっていたのも功を奏したのかもしれません。もちろん、治りはしませんでしたが……。

 なので、普通のお医者さんから薬を処方されている場合は用法容量を正しく守りましょう。


 またお医者さんは専門家と言うだけあって知識は豊富ですが、患者さんは一人一人違うので、結局のところ相談役にしかならない、と言うのが僕の精神科医に対する結論です。

 究極的なところで、最後に自分を助けてくれるのは自分しかいないのかもしれません。

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