第10話 お客様は【神様】ではありません。お客様は【殿様】です。 ~クレーム対応の事後処理編~
<問・俺、クレーム処理が終わったら、やりたい仕事をするんだ。>
凄惨な夏が終わり、
決算の時点ではまだクレーム処理は八割ほど終了と言ったところ。残業地獄はまだ終わっておりません。しかしながらこの日、第二チームに居た技術者のほぼ全員がA社を辞めていきます。もはや決算は敗戦処理の様相。
この時、僕は機械設計部のKさんが、いつぞや言った言葉を思い出していました。
「お客様は神様じゃないんだよ」
「お客様が神様じゃない……まぁ、お客様も人間ですからね」
「いやいや、そうじゃない。お客様ってのは殿様なの」
「殿様?」
「神様は間違いをしても懺悔すれば許してくれるでしょ。殿様は間違えをしたらお手打ちにするからね。首が飛んじゃう」
うまいこと言うな!
と、その時は素直に感心してしまいましたが、首を飛ばされる側としてはたまったもんじゃありません。
なんせ僕はA社を辞めた数年後、紆余曲折ありまして、この時のお客だった企業で少しの間働いていましたので。
A社ほどの異常な会社ではありませんが、うつ病は続出してましたし、残業も過労死ラインぎりぎり。A社での経験が無ければ耐えられなかったかもしれません。耐える必要なんてないんだけども。
さらにこの以前のお客だった場所で働いた経験は、往々にして社会における偉い、偉くない、なんてのは個人の優劣じゃなくて、立場の違いでしかないんだなぁ、と気付かされることにもなりました。なんとも諸行無常。
昨今では横暴な取引先との仕事を辞めた結果、業績が良くなった。なんて話をよく聞くようにまりました。
朱に染まれば朱くなる。ブラック企業に関われば黒くなる。
それにしても、世間とは狭い。まじめに生きよう。
さて
なにも仕事しなかった禿上司の降格です。
……ざまぁ。
さて、クレーム処理の作業から逃げ、すべて僕に丸投げした禿上司ですが、今後は設計・製作には一切手を出させないことが決まり、技術部の所属ではなくなります。
そこで新しく出来た部署が
【品質管理部】
構成員は禿上司の一人だけです。ってことは禿、部長じゃん。うぇーい。
(ちなみに役職は付かなかったので、禿上司は平社員のままです)
っていうか設計・製造にかかわる仕事のクセに、今まで品質管理を行う部署がなかったA社も相当おかしい。それに品質管理って窓際族に任せていい仕事でもないんですけどね。結局、こういうところでもA社のアホ加減がうかがえます。
とはいえ、これで禿上司と直接関わる機会が減る事になります。この頃には技術部全体が禿上司の奇行を鬱陶しく思っていました。
なんせ、チームや部署に関係なく、意味不明にキレて、やり直しを要求し(そんな権限ありません)、わからない事があるとへそを曲げる。禿上司はそんな事ばかり繰り返していたので……。
《解・俺、クレーム処理が終わったら、やりたい仕事をするんだ……死亡フラグでした!》
決算と、それにともなう人事異動も終え、一応、僕たち新人社員たちにもボーナス(と言っても入社半年なのでお小遣い程度)が支給されました。終わりが見えてきたクレーム処理を片づけて、心機一転楽しい仕事をしよう!
そう決意したのですが、クレーム処理が終わっても僕の仕事内容は変わりませんでした。なぜ変わらないのか、要約しますと、
クレーム処理後もファンクションテスターの新規の注文は続いた。
↓
その度に耐久試験などの検査はしなきゃいけない。
↓
誰が検査する?
↓
そうだ! 一番経験のある人間に任せよう٩( ᐛ )و
↓
(こ、こっち見んな!)
と言った具合で、結局クレーム処理後も具体的な仕事内容は変わりませんでした。あべしっ!
そんなこんなで決算を終え、だいたい十月中頃くらいでしょうか。僕の精神はどんどん摩耗されていき、仕事中、特に遮光カーテンを被って投影機の画面を見つめている時、幻覚や幻聴を体験するようになります。
誰も居ないはずの深夜の工場で一人で仕事をしていると、耳元で子供の声が聞こえたような気がしたり、肩を叩かれたような気がしたり……あれ?
今、こうして、文章に起こして初めて気づいたんですが、これ、すげー怖くね? ホラーじゃね?
うーん……
当時の僕は、怖い! と言う感情がなかったようです。その代わりに何かおかしい、何かおかしい! と言う焦りとパニックの方が大きかったみたい。
さて、この異変でようやく自分の精神の異常に気付いたのですが、この辺の詳細は、番外編を挟んだのち、メンタルヘルスにかかわる経験を書いていく予定です。
図らずとも、第一話~第五話が新入社員編。
第六話~第十話がブラック企業業務編。
と言った具合にエピソードが進んでいました。
そして十一話以降がブラック企業メンタルヘルス編になりそうです。
最後までお付き合いいただければ本当にありがたいです。
かしこ。
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