ブラック企業に就職した俺がチートスキル(精神疾患)を手に入れて、現実社会で俺YOEEEE!!する実話。
第8話 ブラック企業においてクレーム対応とは感情労働。頑張っている姿をアピールすることが真の目的である。製品の品質なんてどうでもいい。
第8話 ブラック企業においてクレーム対応とは感情労働。頑張っている姿をアピールすることが真の目的である。製品の品質なんてどうでもいい。
<問・労働時間=過労死?>
今回は説明が多いので少し長め(おおよそ4000文字)の回になります。ご了承くださいませ。
クレーム処理の具体的内容に入ります。まずは業務の内容を理解していただくためにファンクションテスターと言う物を説明します。
〇ファンクションテスターとは
・テスターの目的
パソコンやスマホ、家電製品などに使われている電子基板上の部品が正確に取付けられているかチェックする機械。さらに電子基板上にプログラム信号を流して電子基板が正常に動くかテストを行う事もできます。
・テスターの構造
こいつがちょいと文章で説明するのが難しいのですが(ファンクションテスターで画像検索しても意味不明な機械に見えるかもです)、まず鉄板を張り合わせて作った箱を想像してみてください。箱の大きさは電子基板の大きさに比例しますので、いろいろな大きさがあります。
この箱には蓋とレバーが付いています。
まずは蓋ですが透明なアクリル板です。
その蓋の裏には数百本の、直径1ミリ程度の針が取り付けられていています。この針先からは電気が流れるます。電子基板に触れた針先から基板に信号を送ることができます。
そしてレバー。蓋を閉めた後じゃないとレバーは下ろせない構造になっています。蓋を閉め、レバーを下ろすと全ての針が下がり、電気基板の所定の位置に針がガッチリ突き刺さります。
・テスターの作業手順
では、より構造とクレーム処理の内容をご理解いただくために作業手順の説明をします。テスターの蓋が開いている状態からスタート。
1、テスターに電子基板をセットします。
2、アクリル板製の蓋を閉めます。手を挟むと針が刺さって血塗れになるぞ☆(ゝω・)vキャピ
3、レバーを引きます。ガッチャンと言う音がするまで下げます。手を挟めてると刺さった針が食い込んで、血塗れどころじゃすまないぞ☆(ゝω・)vキャピ
4、テスターの手前についているボタンをマニュアル通りに押していきます。するとプログラムが勝手に動いて、不良が無ければOKランプが光り、不良があればエラーランプが光ります。
かなり簡略化した説明ですが、ファンクションテスターとはこんな感じの機械です。
さて此度のクレームの内容ですが、蓋の裏についている針が曲がっている。また、たった数か月の使用で針が曲がってきてエラーが出るとの事でした。
確かに、それは不味い。クレームも来るわ。
そしてお客が要求したクレームの解決法が【耐久試験】のやり直しと、耐久試験後の【針の当たる位置】のデータの提出でした。まずは12台分(うろ覚え)の耐久試験とデータ収集です。これを二週間ほどで終わらせなければいけませんでした。
では次に具体的なクレーム処理の方法の説明です。今回説明ばっかだな……
〇クレーム処理の具体的内容
手順1.
手順2.
ファンクションテスターに生基板をセット。蓋を閉めて、レバーを下ろし、針をしっかりと突き刺します。
手順3.
それからレバーを上げ、蓋を開けて、生基板を取り出します。
手順4.
生基板に張られた特殊なテープに針の刺さった跡が残ります。この生基板を投影機と言う機械へ持って行きます。顕微鏡とほぼ同じ仕組みで、三十センチくらいの画面に拡大された映像が映し出される機械です。
手順5.
拡大された映像を見ながら、基板上の針を受け止めるポイント(直径0.8ミリくらい)の中心と、実際に針の当たった位置との距離を測定し、その距離をデータとしてメモしていきます。ちなみに針の数は200か所以上。全て記録を取ります。少々記憶があいまいですが、0.35mm以上中心からズレていると針を調整します。
手順6.
中心からズレていた針を調整します。素手で。もう、感覚です。精密機械がそんな事でいいのか?
手順7.
その後、耐久試験を行います。ファンクションテスターに生基板をセットして、蓋を閉めて、レバーを下ろす。この一連の動作を100回行います。100回行った後、作業1から再び同じことをやり直します。
手順8.
以下の手順で合計1000回分の耐久試験をします。よって手順1~7を11セット行い、全てのデータを記録。
その後エクセルに数値を入力して、ようやく一台分の【耐久試験】と【針の当たる位置のデータ】の収集が完了です。大変お疲れさまでした。
ちなみに100回の耐久試験とデータ収集が終わるまでにかかった時間がおおよそ2時間。耐久試験を10セット(本当は11セットだけど計算が楽なので)行うので単純に
2時間×10セット=20時間
それが12台分なので
20時間×12台=240時間
A社は完全週休二日制(!?)でしたので二週間の労働時間は
8時間×10日=80時間
無理? 無理と言うのはですねぇ、嘘吐きの言葉なんですよ。
安心してください。1日は24時間もある! 2週間は336時間もある!
(※具体的な数字は記憶が失われてる部分もあるので、多少の誤差はあるかもしれません)
そしてこの辺りから、今作のキャッチコピーでもある【1週間で100時間以上の労働】が始まります。
季節は夏、当時の僕は二十歳になったばかり。まだまだ青春を謳歌しても良い年頃でありながら、人生の中でも最も貴重な
許すまじ!
ちなみにこの作業、会社には投影機が一台しか無いので複数人で行う事はできません。また禿上司は10分やったあと現場から逃走、部長はタイへ飛び、専務は別の業務で忙しく、社長は愛人と乳繰り合ってたため、現場を把握している人間はいません。
つまり、
《解・労働時間×業務の不毛さ=過労死》
すでに労働時間だけでも絶望的な状況をご理解いただけたと思いますが、真の地獄はこれ以外にもあるのだよ!(少々、キャラが壊れてきています)
〇ここは地獄の1丁目・灼熱地獄!
さて、社内に一台しかない投影機ですが、これは工場に設置されていました。旧式の物だったの大きく、簡単には運べない重さでした。なので、しばらくは事務所を離れて工場で仕事をすることになります。
ちなみに季節は7月。暑い。
一応、事務所にはエアコンがあるのですが、設定温度を28℃以下にすると社長がキレるので灼熱地獄です。
が! 工場にはそもそもエアコンすらありません。
さらに投影機が旧式の為に周囲が明るいと画面が見ずらい。なので苦肉の策で真っ黒な遮光カーテンを被りながらの作業です。
さらにさらに! この投影機、画面に映像を投影するために大型の白熱灯が設置されています。LEDランプと違い、
つまり、【真夏の炎天下の中、エアコンのない工場で、真っ黒い遮光カーテンを被って、白熱灯の高温に
ちなみに社長がいる営業・事務の部屋はエアコンがガンガン利いてます。
〇ここは地獄の2丁目・賽の河原!
クレーム処理を始めてすぐの事です。
既定の位置から大幅にずれている針を手作業で曲げて調整しているときに気が付きました。
なんかこの作業、矛盾点してね?
今回のクレームの要点は【使ううちに針が曲がる事】を無くす事です。
針は構造上、垂直の力には強い。反面、横からの力には弱くて曲がってしまいます。
そして、真っ直ぐな針は簡単には折れませんが、少しでも曲がり、歪みの生じた針はそこから折れ曲がっていきます。容易に想像できますね。
と、いう事は、調整と言う名目で針を曲げている作業は機械の寿命そのものを縮める行為である、わけです。
ここで自分がやっている仕事は完全に無駄な行為なんじゃないかと言う疑念が生まれ、さらに今後もっとクレームが増えるんじゃないか、と言う恐怖に代わります。正直、こういった精神的ストレスが一番辛かった。
一月後、タイから帰ってきた部長に、この疑問を問いただしたところ
「え、うん……まぁ、ところでさ……」
とあからさまに話題を変えられて、聞き出すことができませんでした。確信犯じゃねーか!
〇ここは地獄の3丁目・無間地獄!
さてクレーム処理を続けるうち、1セットにつき2時間かかっていた作業を1時間程度で終わらせられるようになりました。人はどんな状況でも成長できるようです。こんな成長したかったわけじゃないけどね。
とはいえ二週間で全てを終わらせるのはマンパワー的に到底無理な話です。まさに無間地獄。そんな地獄のさなか……
『おかわりもいいぞ!』
『オエ……オエ……(涙目)』
そうおかわりがやって来たのです。
つまり、追加クレームが発生です。作業内容的には今までと同じなのですが、二週間で終わるはずの作業が一ヵ月になり、その後さらにおかわりが入って二ヵ月になり、おかわりが入り……最終的に三ヵ月以上、残作業含めれば五ヵ月近く、僕が精神疾患で動けなくなるまで続きます。
ちなみに終わるわけのない作業量ですが、偉い人たちは現場の惨状を知らないので
「まだ終わらないのか!」
と理不尽にキレてきます。その矛先は現場から消えた人語を理解できない禿上司ではなく、実際に動いている僕です。当時、その仕打ちに対して
「すみません、すみません。日曜日も仕事に出ますんで」
と言ってた僕ですが、今思えばブン殴っときゃ良かったなぁ(暴力反対(棒読み))。
恐らくなのですが、今回のクレーム処理の目的は頑張って仕事してますよアピールをお客さんにすることで許してもらう事だったような気がします。そのための
妙な精神論が
※
さて今回のサブタイトルである《労働時間×業務の不毛さ=過労死》。
僕の体感でしかないのですが、労働時間の長さだけでは人はうつ病や自死に至る事はありません。
もし、自分が本当にやりたいことを好き勝手にできるのならば、人は何時間でも動けるとは思います。とはいえ、食う、寝る、休むを疎かにすれば、いずれ体は壊れますけど。
ただし断言できるのですが、異常な長時間労働を強いる企業はそもそも不毛な労働を強いる環境である場合が大半です。
不毛な労働の定義は環境や労働者個々によって変わってくると思いますが、ニュースを騒がせる過労死事件の被害者たちの多くは長時間働いただけではない、もっと悲惨な苦痛を味わっているはずです。被害者の方たちの想像を絶する苦痛を考えると胸が痛みます。
まぁ、僕が死ななかったのも運が良かった、って節があるので他人事じゃないや。
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