無理って言うのは嘘吐きの言葉なんですよ! ブラック企業業務編。
第6話 新入社員、業務開始!
<問・ブラック企業における新入社員の労働時間はどれくらい?>
第六話目にして、ようやく今回の業務について書いていきます。
まず初めに僕が入った部署・電子工学部には自社製品を作る第1チームと、ファンクションテスター(電子基板の不良を検知する機械)を作る第2チームに分かれています。
今思えば第1チームの仕事は花形、そして第2チームの仕事は取あえず売上を上げるための粗利の低い(つまらない)仕事だったような気がします。配属されていたメンバーも第一チームはまだ社長の機嫌を損ねていない人たち。第二チームは社長に嫌われてる人たち、という雰囲気がありました。
さて電子工学部に入った新人の僕、Aさん、Bさんの三人は第一チームに配属されました。最初の業務は医療系機器の設計、開発。僕が夢見た仕事でしたので、いきなり携われる事がとても嬉しかった事を覚えています。
具体的な内容は社外秘という事もありますので、ここで説明するのは控えさせていただきます。この時、一緒に設計、試作に付き合ってくれた専務のお力添えは今思ってもありがたい物でしたので、そういう理由でも他言は出来ないのです。いわばブラック企業の片隅に残る善意でした。
最初の頃、仕事の段取りが上手く行きませんので、先輩や専務に着いて仕事を進めていきました。まだ入社したばかりという事もあり、先輩たちは
「帰れるうちに早く帰りな。そのうち帰りたくても帰れなくなるから」
と言ってくれるので19時~20時くらいには帰れます。ちなみに定時は18時です。(ここツッコミどころ!)
まだ自分の好きな仕事というのもあり残業は苦ではなく、むしろもっと働けるくらいエネルギーがありました。
それから一月くらいたったゴールデンウィーク明けの頃、まれに残業が深夜十二時を超えるようになりました。まだ元気でした。そりゃ、眠かったけど。
ですが、その時期、同期で入社し、事務に配属されていたDさんが突然会社に来なくなります。
《解・ブラック企業における新入社員の労働時間の現実》
Dさんは同期の中では唯一の女性でした。部署が違うため、あまり交流がなかったですが真面目な人だった印象があります。ムードメーカーだったAさんと特に仲が良かったのですが、その様子が気に食わないのは誰であろう、社長です。
「あの二人は付き合ってんのか?」
なんて誰かに聞きこんだりする始末。
実際のところ、AさんとDさんが付き合ってる、何てことはなかったと思います。Aさんはちょっと賑やかな人でしたが根は真面目でしたし、Dさんも真面目な人。二人とも社内恋愛なんて面等なものに手を出したくない、と言うのが何となく伝わってきます。
余談ですが、この辺りから社長はAさんを嫌い始めます。新人を一月足らずで嫌い始めるなら、なぜ採用した?
さて、突然居なくなったDさん。なんと就業時間中に突然会社を飛び出し、そのまま辞表を郵送で送ったきり二度と会社には顔を出さなかったそうです。
今思うと、すげぇ。本当に、すげぇ。もはや、かっこいい。
行動力と見切りをつける決断力。その勇気は当時の僕に最も足りなかった物だと思います。
その後、同期だけ集まってDさんの送別会をする機会があり、Dさんが突然辞めた理由を話してくれました。
なんでも来客があって応接間に通したそうなのですが、ブラインドの角度が悪くてお客さんに太陽光が当たってたらしく、それに社長が激怒。
そこから先は僕の想像ですが、Dさんの人格や、生まれ、果ては親まで貶しつくす罵詈雑言を吐かれたのでしょう。多分的外れではないと思います。
もともと事務は社長のいる営業部と同じ部屋の為、ストレスも多い環境でしょう。それに、もう一人の女性事務員(当時、女性事務員は二人だけだった)を愛人にしてるわけですから、社長からのセクハラまがいに、愛人からのプレッシャー等々、あったとしても不思議じゃないでしょうし。
さて、ここで早くもブラック企業に見切りをつけたDさんですが、本作でもう一回くらいちらっと登場します。それはまた後日。
労働時間に関するお話に戻りましょう。入社して一か月足らずですが、なぜ仕事に時間がかかりすぎてしまうのか気づいた点がいくつかあります。
【その1・ケツの毛一本に至るまで合い見積もり】
A社では合い見積もり……複数の商社で値段の見積もりを行い、一番安い商社から購入する方法……が必須です。
それこそ
数社に対して出した見積もりが全て揃うのに数日かかり、それから注文するわけですが、ここからがまた面倒くさい。
まずチームリーダーに購入していいか伺い、ハンコを貰う。
それから部長に伺い、ハンコを貰う。
最後に専務に伺い、ハンコを貰う。
ようやくこれで商社へ注文書をFAX(当時はまだFAXがメジャーだった)できます。
こんな事してたら何時までたっても仕事ができません。仕事舐めてんのか。
【その2・帰る前に、皆に挨拶してから帰りましょう】
終業時間が過ぎたからと言って帰っていいわけではありません。自分のチームの同僚や先輩に挨拶するのは、まぁ、わかります。
チームメンバーに一声かけたら、技術部全員に聞こえるように、
「大変申し訳ありませんが、お先に失礼いたします」(超大声)
技術部は広いんで、結構、声張らないと聞こえません。その後、生産管理部へ行って同じように挨拶。最後に社長がいる営業部へ行って
「大変申し訳ありませんが、お先に失礼いたします」(超大声)
これで業務終了。帰れます。
なんで帰るだけで謝らなくてはならないの? 帰り辛い。とにかく帰っていい雰囲気じゃない。
それに一時期の僕は社長の顔を見たくないから、社長が居なくなってから帰るようにしてましたし。
しかも社長の独断で残業、休日出勤は美徳という暗黙の了解が広がっているため、早く帰ってばかりいるとボーナスの査定にも響きます。マジで。
ちなみに求人サイトでA社について調べたところ、今もこんな感じで早く帰れる雰囲気じゃないそうです。
いずれ「帰りたくても帰れなくなる」という先輩の言葉が骨身に染みました。
さて、今回のお話のまとめに入ります。
世のブラック企業の中には入社直後から徹夜仕事、なんて会社もあるそうです。世間を探せばブラック企業の闇は底なしですね。
そういった企業に比べればA社の新入社員の残業時間は、最悪ではなかったのかもしれません。
しかしながら、こういう書き方は奴隷の鎖自慢に繋がり兼ねないので語弊が生まれる前に宣言しておきましょう。
ファッキン・ブラック企業! いえあ!
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