第5話 朝礼。それはブラック企業における地獄の門。ひゃっはー。
<問・
さぁ! やって参りました。
テンション高めに始まりましたが、正直、今でも思い出すとパブロフの犬みたいに憂鬱になるからなのです。ヒャッハー。
さて、前回お話しした通り、A社の社員は8時30分には出社、その後20分掃除をして、8時50分から朝礼が始まります。常識的な方なら
「ははぁん、8時50分~9時まで朝礼をするんだろうな」
と推測すると思いますが、もちろんそれは間違いです。日によって多少長さは変わりますが、おおよそ
8時50分~10時まで。
つまり一時間+αという長丁場の朝礼を毎日行います。こ
さて、肝心の朝礼の中身ですが、社員全員が一番広い技術部に集まり、大きな輪を作って起立します。司会は日替わりで全員が行い、皆の前に立った司会者の「おはようございます」の号令から始まります。
そこで必須なのが社内規約が書かれた冊子。A4の紙に印刷された、それなりの厚さの冊子なのですが、これは毎年お正月の休暇に社長が校正を重ね、進化を続けているありがたい物です。(酒飲みながら書いてるって本人が言ってた)。
社内規約と称していますが具体的な話は殆どなく、精神的かつ抽象的なお話がびっしり書かれたものです。一応、内容は社外秘でしたので、
・会社が社会に還元する目標
・一部上場に対する目標(あ、諦めてないんですね)
・新制御技術の開発と量産化(こっちも諦めてないんすね)
・企業は船。沈没しては全滅してしまうので社員は社長を含めて皆平等。役割が違うだけ。
・仲間意識的な事を啓蒙する文章が長々。中身が薄っぺらかったから、あんま覚えてない。
・給与は都内並みの金額を保証します。という宣言。宣言だけで具体的な給与体系は書かれてない。っていうか、後日、詳細を書きますが、そもそも給料安い。
・利益はボーナスとして還元します。という宣言。こっちも宣言だけ。
等々を1日1ページ司会者が読み上げ、その後、社長の挨拶、専務の挨拶、部長の挨拶が始まり(それにしても、よく毎日話す事があるよなぁ)、社員全員が健康状態などを一言ずつ述べていきます。
その後、司会者は様々なスピーチをさせられるのですが、今や何を喋ったかあんまり覚えていません。確か……
・自分の今年の目標に対して具体的に何をしているか。とか、(残業続きで、そんな事してる時間がねぇよ)
・自己啓発的な事は何をしてるか。とか、(だから残業続きで……)
・最後にフリートーク。
あんまり覚えてませんが、もっと喋る事があったような気がします。
こんなんですから朝礼が一時間を超えるのは当然で、ひどい時など午前中ほぼ朝礼に費やされた時もありました。
これで残業を減らしたいと思っているんですから笑える話です。まぁ、社長はもっと朝礼を濃い物にしたかったそうですが……
《解・
さて、前述した朝礼の後、社員たちは各部署に分かれてチームミーティングを行うわけですが、この頃には精神的にぐったりしています。なのでチーム内での具体的な進捗の報告、相談なんてのは
※ ※ ※
ここで朝礼中に起きた精神的にぐったりエピソードの紹介だ! ヒャッハー!
【その1・失神者続出】
特に技術部の社員は残業・徹夜が常態化しているので体調管理が
【その2・朝礼の司会者が号泣】
この人は事務員のXさん。プロローグにて書き忘れていた登場人物なので、ここで少し紹介を(後でプロローグにも同じ文面を追記する予定です)
Xさん:男性。事務。中途採用。歌舞伎役者のようなイケメン。めっちゃ優しいんだけどストレスのせいか笑顔が引きつってた。社長は可愛がっているつもりなんだろうけど、何時間も説教を受けている姿をよく見る。ちなみに説教を受けてるときは正座。
さて、この人が司会をした朝礼での出来事。朝礼の最中、ずっと声が震えていて、顔色も悪い。具合でも悪いのかな、と心配していると最後のフリートークで突然泣き始めて、
「事務員は直接お金を稼ぐ事のできない立場なので、営業部、技術部の方々に僕はお金を頂いているようなものです。本当にいつもありがとうございます」
と、しまいには号泣。
ちなみにXさん、イケメンなだけじゃなく、人辺りも良く、ユーモアもあって優しい人です。部署に関わらず誰もが好感を持っている人でしたので、その場にいた人たちは総じてドン引き。
でも号泣するXさんを見て、どこかご満悦な顔してる社長。やっぱ、お前の差し金か……
【ヒャッハー3・社長、戒名をもらう・ヒャッハー】
ある日の朝礼の事でした。司会者の「社長、今日の挨拶をお願いします」との言葉を皮切りに発せられた社長の挨拶が
「えー、先日、僕は晴れて戒名を頂きまして……」
社員一同、その日まで社長が宗教やってたなんてことは知りません。
(は? 何言ってんだこいつ?)
皆がこう思ったのは当然。しかも名前も聞いた事のないような新興宗教団体です。芸能人の誰々が入ってるとか、世界の平和がどうとか話し始めましたけど、
(注・宗教の存在を否定するつもりはありません。個人的に特定の信仰はありませんが、学問としての宗教や、それに伴う哲学はむしろ大好きです)
それにしても生前に戒名をもらうには相当のお金がかかると聞きます。余談ですが昔、暴力団関係者の方で自分の背中にでかでかと墓石の入れ墨を彫った方が居たそうです。彼曰く
「自分のような稼業じゃ、死んでも墓に入ることは出来ないかもしれない。だから背中に彫ったわけですが、一つ問題がありまして……」
その問題というのが戒名。なんでも戒名が欲しいなら、背中の入れ墨に掛けた金額と同等のお金が必要と坊主に言われたそうで、お金のなくなった件の極道さんは結局、戒名の無い墓石を背負い続けたとか……
極端な理屈になりますが、僕らが休みなくサービス残業や無給休日出勤をして儲けた金で、社長は戒名を貰ってきた、というわけです。
〇さてさて、ここで本題。このような苦行に満ちたA社の朝礼をどう切り抜けるか? 僕が編み出した技はこれです。
『めっちゃ早口でしゃべる』
我ながらアホな作戦だったと思います。ただ意外と上手く行き、通常一時間を超える朝礼が30分前後にまで短縮(社長が長話しなければ)。先輩たちからも
「朝礼が早く終わっていいね。せめて、これくらいで終わるのが普通でしょ(いえいえ、まだ十分長いです)」
と好評でした。
ただ、これは自分が司会の時にしか使えません。
僕は入社半年後くらいから精神安定剤を飲んだり睡眠障害を患っていたりで、異常な眠気に襲われることも良くありました。一時間も立ってるなんて無理な話です。そこで編み出した究極の業が、
『腹痛いふりしてトイレに逃げ込み、寝てる』
どうせ10分くらい寝てても朝礼は終わりません。一休みした後、シレっと朝礼に戻ればいいのです。
今だから本気で思えることですがバカと天災は正面から立ち向かってはいけません。
こっちが怪我するだけですから。
ずる賢くても、かっこ悪くても良いから、時には逃げることが最善策であり、逃げる勇気こそが勇敢なんだと、後になって思える場面もあります。
なので、もしこれを読んでいて、疲れ果ててる人が居ましたら
一休み、一休み。
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