第4話 規則と忖度(そんたく)の狭間で、出社時間は流転(るてん)する。

<問・新入社員は何時に出社するべきか>


 A社の始業時刻は午前9時。

 これは社内規定に乗っていますし、ハローワークの求人等の外部の資料にも同じことが書かれています。

 まぁ、当たり前のように嘘なんですが、規定の始業時刻よりも早く出社しなくてはいけない企業など日本には星の数ほどあるでしょう(実際は残業扱いだよ。やい! 経営者! 早く来た分の金払え!)。


 A社では8時30分までに出社して20分ほど掃除を行い、それから朝礼。朝礼が終わるとチームミーティング。その後、通常業務、という運びになります。


『ミーティングばっかりじゃねぇか!』

 と思われる方もいらっしゃるでしょう。


 クックック。

 県下においても悪名高いA社の朝礼。それをたった数行の文章にまとめるなど不可能。

 朝礼に関しては後日詳細を書きますので、今回は出社時間にフォーカスしていきます。


 さて、出社時間が8時30分なのは普通の社員の話。新入社員たちは8時15分に出社しなければいけません。

 なぜか?


 それは【机を拭くため】です。


 A社の恒例らしく、新入社員たちは一年間、先輩たちが出社する前に机を拭く、という謎伝統がありました。

 なぜこんな伝統が生まれたのか?


 社長が言うには

「新人はまだ仕事ができない。お金を稼ぐことができない。という事は新人の給料は先輩が稼いでいる。そうやって甘えているだけではいけないから、感謝の気持ちを込めて机を拭きなさい」

 なぜ、そんなに新入社員の存在意義を否定するのか。親の仇か何かかい? だったら新人なんて雇うなよ。


 と、今なら思ってしまいますが、当時はアホの子、そう僕の事です。

(確かに新人を一人育てるだけでも、かなりのコストがかかるのは事実。文句は稼げるようになってからにしよう)

 と考えていました。


 社員を資産として考えれば、こういう結論には至らないと思うのです。

 社員教育にお金がかかるのは当たり前。そのお金が無いというのなら、資金繰りのどこかに間違いがある。もしくは社員を雇える体力が企業に残っていない。

 無駄なコストが存在するなら分析(コンサルタントなど)して、新卒を減らすかわりに中途採用(派遣雇用でも良い)を進めるなど、いくらでも別の方法もありますね。


 しかしブラック企業は違います。

 新人採用や新人教育は、適当にスパルタしてるうちに、才能に目覚めた天才を拾い集めるを採用しています。ソシャゲのガチャと同じです。

 おそらくブラック企業の総本山そうほんざん・〇民グループもそんな感じじゃないでしょうか。

(余談ですが〇民の元幹部という方と一時期交流がありました。その人との出来事も中々のブラックエピソードなので機会があれば書くかもしれません)




《解・新入社員が出社すべき本当の時間》


 おいおい、今回《解》で書く事なんてあるのかい? 新入社員の出社時間は8時15分だって、ついさっき言ってたじゃないか。


 ふっふっふ。あれは嘘だ。

 ……僕が嘘をついてたんじゃないよ。会社が嘘をついてたんだよ。


 入社してから2週間程の頃でしょうか、終業後、先輩たちに声を掛けられて新人社員たちは緊急ミーティングを行うことになりました。


 議題は【机拭きに関して、社長がご立腹】とのことでした。


【ご立腹の理由・その1】拭き方が気に入らない。


 まず拭き方。

 拭く際には机からゴミがこぼれないようにするため、机の端では布巾をクイッと回転させるようにして拭かなければならない。

 そして布巾を机から離れる時が一番のポイントで、消しカスなどのゴミが机に残らないように、かといって床にゴミが落ちないように、布巾でゴミを包み込むように机から離れ無くてはならない。


 確かに特別珍しい清掃方法ではありませんが、もし社長の目の前でゴミを床に落とそうものなら

「誰がそんな拭き方しろって教えたんだ! ええ!」

 と怒鳴られる事もしばしば。


 最近知ったんですが、防衛大学では掃除やベッドメイキング一つとっても完璧にこなし、ミスがあれば厳しい叱責を受けるそうです。なんだか、この社長はどこかで知ったシゴキをマネしてる節があるような気がしてなりません。


 当然ながら雑巾で机を拭こうものならブチギレられるのですが、初年度の後半ごろ、アホの子のクセに反抗期を迎えていたの僕は、あえて社長の机だけ雑巾使ってたけど、誰にもばれていなかったようです。やったぜ!


【ご立腹の理由・その2】社長より遅く来るな。


 社長の出社時間は不定期ではありますが、大抵の場合8時15分くらいには出社していることが多かったです。そして新入社員たちも同じ時間に出社して机を拭き始めるのですが、社長的には自分が座る前に机が拭かれていないのが気に入らない。


 今回の緊急ミーティングの本題はこちらだったそうです。

 こういった場合、社長は絶対に直接言いません。どうやら察して欲しいらしいのです。今回も先輩たち経由でミーティングを開かれてますし。


 まるで不機嫌な女の子に「どうしたの?」と聞いても「何でもない」あー、マジ、キレそうって答えられるアレと同じです。

 絶対なんかあるんでしょう。もー。


 これを女の子が言うんなら、恋は盲目、男は道化。右往左往する場合もありますわな。

 ただ我が社にいるのは、カンニングの竹山さんに似たアラフィフのオッサンです。

 残念。僕の性癖じゃ、ときめかない。


 結局、社長の機嫌を損ねたままでいると社員全員の負担になるので、8時前に出社して机を拭く、という結論に至りました。

 翌日から、社長ご満悦です。


 それにしても、書いてて思ったんですが、社長の主張が関白宣言みたいですね。

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