第2話 アホの子でも受かる! ブラック企業必勝面接術!

<問・新卒がブラック企業の入社試験に必要な事とは>


 企業説明会後、アホの子の僕は素直にA社へエントリーし、入社試験を受ける運びになります。試験内容は


〇一次試験

・筆記試験

・社長による集団面接


〇二次試験

・社長による個人面接


 まずは筆記試験ですが、正直言って惨敗だったと記憶してます。何せ僕の言っていた専門学校はレベルが低い。


 少し蛇足ですが僕が通っていた専門学校の話を少しします。

 僕はCAD(パソコンで図面を描く設計ソフト)を勉強したかったんですが、当時CADを学べる専門学校が非常に少なく、そこで僕は地元を出て県外の専門学校に入学しました。

 とはいえ蓋を開ければパソコンと教育用AutoCADは支給されるものの、AutoCAD検定2級(当時は筆記試験のみ。多分、二週間も勉強すれば取れるよ。いまはもっと難しくなってると思う)レベルの授業しか行われない。


(え? この学校、パソコンもCADもいらなくね?)


 結局、二年間、講師たちは中学生レベルの電気工学や、アセンブラ言語という化石プログラム言語の授業にばかりに時間を割きます。

 クラスメートたちは勉強らしい勉強もせず、支給されたパソコンでひたすらエロ動画やエロゲーやゲーム、パチンコに興じる猿のような(こんな言い方してますが、悪い奴はいなかったのよ)連中ばかりです。

 今思えば、すでにこの辺りからブラックな臭いが立ち込めていたのかもしれません。

 ちなみに当時の僕はあまりゲームに興味がなく(今はたまに遊ぶけど)、アパートがネット対応していなかったので血の涙を流しながらエロ動画を我慢していました(と、言っても当時のネット上のエロなんてまだ、DVDやVHSに劣る時代でしたが)。

 さて、『勉強するため』にわざわざ県外から来たのです。腐ってるのはもったいない。幸い講師はいなくても、勉強できる環境はある。

 本屋で参考書を買い、自力で勉強を始め、一年生の後半ごろ当初の目的であったAutoCAD検定1級に合格……とはいえ所詮、その程度のレベルの専門学校です。ちょっと難しい問題が出れば手も足も出ません。

 はい、ここで蛇足のお話終了。


 筆記試験で手ごたえが掴めないまま集団面接が始まりました。社長のいる応接室に4、5人で入るとソファーに全員が詰めて座り、目の前の社長が順々に質問していきます。質問内容は親の仕事や、ボランティア経験や部活の経験や、まぁ、当たり障りのない物ばかり。こういっては何ですが、普通の面接でした。

 面接が終わった組から随時解散の運びになったのですが、一緒に面接をした方々が一応に

「社長さん、カンニングの竹山そっくりじゃね」

 って大笑いしてたのは覚えてます。


 その後、別の日に二次試験の個人面接が行われたのですが、そちらはほぼ完全に記憶から抜け落ちています。多分、普通の面接だったのでしょう。

 面接の帰り道、一緒に電車に乗ったのが後に同期になるAさんでした。彼は大卒で僕より二つ年上です。

 気さくな方で電車に乗りながら世間話をしていたのですが、気が付くと電車の中には僕とAさんしかいません。違和感はありましたがお互い面接での話や、就活の情報交換などをしているうちに電車が走りだしました……


 車両倉庫の方へ。


 初々しいリクルートスーツの二人組は、運転席へダッシュするのでした。




《解・新卒がブラック企業の入社試験に必要な物》


 さて、回答の時間です。

 専門学生がブラック企業の入社試験に合格する方法、それは……


【スコップ片手に雪かきをすること】です。


 ……まぁまぁ、待ってください。何言ってんだこいつ、と思われるでしょうが、これは紛れもない事実なのです。

 A社に入社してから一月後、社長が新入社員五人を自分の経営するバーに呼んで懇談会をやった事がありました。その時に社長が僕に言った言葉です。


「実は言うとね、一番最初に採用を決めたのは君なんだよ。君の印象は雪国の雪かき男。期待してるよ」


 そう言われて思い出すのは面接でボランティア経験を聞かれた時の事です。当時、ボランティアなんてほとんどやった事のなかった僕が思い出したのは中学生時代。生徒会長だった友人に半ば無理やり引っ張られ、朝の6時から学校周りの雪かきをしていた記憶です。

 今思えば、すでにこの辺りからもブラックな臭いが……

 まぁ、わりとガチな雪国なので、毎日誰かが雪かきしないと学校に入れないのは事実です。

 面接で話したこの話題が、あろうことか社長の琴線に触れたらしく採用という運びになったわけですが、こういった所にA社、そして社長の少々歪んだ哲学が垣間見えます。


 この日、新入社員を集めたバーで社長が警察犬の話をした事を今でもよく覚えています。


「警察犬は引退するまで童貞なんだ。なんでかわかるか? メスの臭いと快楽を知るとそっちに走ってしまい、警察犬として役に立たなくなるんだ。それは君らも同じで、変に楽をしようと思うと仕事が手に着かなくなる」


 当時はアホの子の僕です。

(ほへー、そういう物か。まじめに働こう)

 程度に捉えてました。本っ当、アホだな。

 心得として否定はしませんが、ブラック企業が発する言葉には多くの裏があります。今後巻き起こる出来事を踏まえて、この言葉を僕なりに要約すれば


(わが社のために去勢された犬になれ)


 といったところでしょうか。

 今後もブラック企業A社で起こる災難の嵐を書き続けていきますが、災難の根底には、異常な根性論と、見返り無く働く滅私奉公的思想、それらの美化が存在します。警察犬の話はこれから僕ら新入社員に待ち受ける災難を示唆していたのかもしれません。


 というわけでまとめですが、ブラック企業に入りたい方は【スコップ片手に雪かき】しましょう!

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