番外編
もしもあの時カノン様を選んでいたら…… 前編
『過去に囚われず、貴方の望みを、貴方が思う今の幸せを選び取ってください。貴方の母親が、カトレアよりお父様を選ばれたように』
やっぱりベルタさんは私を母と重ねていたのだろう。彼の手紙からは孫娘に向けたような、そんな温かな気持ちを覚えた。
「……ありがとうベルタさん。私、決めたよ」
彼の言葉を受けて、私は誰の部屋に行くか決めた。そして入浴を終え、きっちり2時間後に彼女が待つ部屋へと向かった。
「お待たせ――」
自分が選ばれないと思っていたのか、彼女は部屋の中央にある天蓋ベッドの上で丸くなり俯いていた。やっぱり本当の彼女はかなり寂しがりやなんだろう。そう思うと、ふふっ。可愛いな。
「好きだよ、カノン様……ううん、カノン」
私が声を掛けると顔を上げ、彼女は満面の笑みを浮かべて私を迎えてくれた。
「エトっ! ありがとう、ありがとう私を選んでくれて!! 私、わたし……」
「泣かないでカノン。私は貴方を選んだの。カノンは選ばれたんだよ」
「うん、うん、ごめんなさい。こんな情けない姿を見せて」
「いいんだよ。それが本来の性格なんでしょ? 聞いたよティナ様から。昔は臆病で泣き虫だったって」
「お姉ちゃんがそんな事を……もう恥ずかしいな。好きな人に弱みなんか見せたくなかったんだけど」
「――良かった」
「え?」
私は彼女の隣に腰を下ろし、高い天井を見上げながら想いを伝える。少し恥ずかしかったからだ。自分の想いを伝えるのがこんなに緊張するものだとは知らなかった。
「いやさ、カノンは一人でなんでも出来ちゃうし、美人だし、頭もいいし、戦闘だって私よりずっと強い。泣き言だって一つも聞いたことがない。そんな人の隣に私が立つなんて相応しくないよなーってずっと考えてたんだ。だから一度は諦めてた」
「エト……」
「けど、やっぱり自分の心に嘘なんかつきたくなかった。私が初めて人を好きになったのはカノン。あの日、優しく私を慰めてくれたあなたが好きになったの。だって初めて会った時からこの出会いは運命なんじゃないかって思ってたくらいだから――弱ってる所を支えられたら、そりゃ好きになっちゃうよね」
そこまで言い切って彼女の方を向くと、カノンは涙を流していた。
「えっ!? カノン、どうしたの!? どこか痛いの!?」
心配して顔を近付けると、そのまま唇を柔らかいもので塞がれる。
「んむっ!?」
キスされた!
カノンは私の首の後ろに手を回し、逃げられないようにすると舌を入れ込んでくる。
いきなり舌か! とは思ったけど私はされるがまま身を委ねる事にした。カノンが私を求めている事がよく伝わってきたから。
「んっ、ん……んぅ」
「好き、好きよエト……」
完全にペースはカノン様だった。だけどやられっぱなしもよくない。
彼女の腰に手を回し、抱き寄せ、私の方からも舌を入れてやる。
「――んっ、はぁ……はぁ、やるわね。一介のメイドが愛しの姫様相手に」
「王女様だからって主導権は譲りませんよ。カノン様!」
好きな人の息遣いがすぐ側で聞こえだんだん荒くなる。私たちはベッドの上で何度も何度も唇を奪い合った。
「私、あなたに選んでもらえて本当に良かった。選ばれていなかったらきっとおかしくなっていたわ……」
「カノンは自分が思ってるよりずっと魅力的だよ。みんなそう。私には無いものを沢山持ってる……私は三人に比べれば何も無いから。ただ復讐のためだけにここまで来たようなものだから」
「そんな事はないわ! 私は貴方の優しさに惹かれたの! あの日、私が何度諦めそうになっても貴方は手を伸ばしてくれた。全員が生き残る最善の道を探してくれたあなたが好きなの! だから私は最後まで諦めず生き残る道を模索する事が出来た! あなたは救ったのよ、私という一人の人間を! 私を信じて……好きよ、エト!!」
そうか。カノンは本当に心から私の事を……だったらもういいよね? 枷は外そう。
「うん。今その言葉を聞いて安心した。私も好きだよカノン。愛してる――」
もう言葉は必要にない。
どちらからともなくキスをして服を脱がす。
下になったのは私だった。その場の雰囲気があったのと、彼女には敵わないなと私が屈したのもある。
「ようやく触れられるのね。あなたの全てに」
「うん。好きにしていいよカノン。私も好きにやるから」
ベッドに仰向けに転がされた私の上にカノンが乗っている。
お互い何も身につけていない。自分の恥ずかしい所を晒し合っている。
(ああ、やっぱり綺麗だなカノン様……入浴のお手伝いをしていた時にいっぱい見ていた筈なのに、恋人になってから見てみると全然違うや)
彼女は私の右手を頭の上の方に持ってきてぎゅっと繋いだ。そして首筋に舌を這わし、がぶりと甘噛みする。「あっ」と声が漏れた。
カノンは首筋にキスを落とすと、次に胸、お腹、太腿の順にキスをしていく。ううん、食べられちゃってるっていう方が自然かな。
「いい?」
「うん」
わたしは彼女の背中に手を回し、その時を待つ。
「いくよ――」
カノンの空いている左手が私の秘部へと伸び、その後快感が襲った。
◇◇◇
その夜、選ばれなかった者達の反応はさまざまだった。
孤独に耐えきれなくなって、わんわんと泣きながら仲間の待つ部屋に飛び込み、中にいた二人を驚かせたのち、自分より年上の女性と同い年の少女に両隣から抱擁され、悲しみを分かち合い、それから朝になるまで寝床を共にした者。
静かにその現実を受け止め、窓から二人がいるであろう部屋に目を向けて一筋の涙を流し、翌朝になってから二人に「おめでとう」と祝福の言葉を述べる者。反応はそれぞれ異なった。
逆に選ばれた者は惚れた相手と、一晩中愛を確かめ合うのだった。
そして長い長い夜が明けた――。
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