第46話 暗殺??


「ロッゾ・ベルセイン。貴方を殺します」


 私は彼に短刀を突きつけたものの、いつ行動を起こせばいいか分からず、先輩に視線で問う。


「……やるなら、はやく殺れ」


 椅子に鎮座したままのロッゾに言われ、私が短刀に力を込める。ロッゾは目を瞑った。


「ちょっと待って……会長さん。貴方が、本当にここを経営しているの?」


 私の刃が、彼の皮膚を喰い破る……その間際、先輩に待ったを掛けられた。


「何をいうかと思えば……馬鹿馬鹿しい。会長であるわしが、全てを統括しているに決まっているだろう」


 先輩の問いをロッゾは、鼻で笑った。


「うん、そうだよね。ありがと、もう死んでいいよ」


 何かを納得した先輩が合図し、私はズブリと短刀を彼の首へと沈ませる。


「ぐぶっ。がっっっ」


 口から血を吐き出し、机の上にある書類にかかる。血で染まったこの書類は作り直しだね。


 私は、そのまま魔力を流す。私の魔力に反応し、刀身に付与した雷が作動する。


「おがぁぁぁぁぁーーー」


 椅子から落ちたロッゾが、執務室の床を転がり、絶叫を上げる。


 既にこの部屋は、先輩によって音を遮断させられている為、ロッゾが殺されかけている事には誰も気がつかない。


 生きたまま、身体中を雷鳴が走り回る感覚は、商売人のロッゾにとって、普通に生活していたら、一生味わえなかった経験だろう。感謝してほしい。


 私は、一度も味わいたくはないがな。


 シュゥーーーーッと音を立てて、彼の体から煙が上がった。


 内臓も含めて、彼の体の中は真っ黒になっている事だろう。自分でやった事だが、なんとも残酷な事をしたものだ。


 でも、子供を攫って売るなんて、私にはそっちの方が酷い事をしていると思う。


 親と離された、子供の気持ちを思うと涙が出る。私も両親を失って、そのありがたみに気づいたのだから。


「先輩。死体はこのままにしておくとして、どうしますか? 証拠……探すんですよね」


「うん。そうなんだけどね……たぶんこの部屋には無いと思うんだ」


 先輩が部屋を見渡す。


「どうして、そう思うんですか?」

「前に似たような任務をした時、大抵の奴は自分でリストを管理する……つまり、奴隷を使役する為の紋章があるはずなんだ」


 奴隷を絶対服従させる為、ちょっとした闇の儀式を行い、奴隷の体に印を刻み込む。そうする事で人としての権利を奪う事が出来るのだ。


 これには、保護者など親の許可を得ずとも奴隷に出来る為、奴隷商達にとっては定番のやり方らしい。


 必要悪。何処の国にも必ずおり、悪事を働いている連中。だが、国はこの一部を見逃す事により、成り立っている。


 どこの国にも悪者がいるのはそのせいだ。しかし、悪人がいるからこそ、経済がまわるのだ。


 貴族が大金を払って奴隷を買い、悪人はそのお金で武器を買う。武器屋はそのお金で食料や材料を買い、税を徴収し国を潤す。


 そうして国は成り立っているのだ。


 勿論、悪人がいないのが一番良い。だが、どんなに平和な国でも、いずれ争い事は起きる。


 それは他の国や街から来た者かもしれないし、平和に飽き、刺激を求めた者や衝動的に殺人を犯してしまった者かもしれない。


 だから、この世界から悪が根絶する事はないだろう。

 


 私はロッゾの袖をまくった。彼の腕には奴隷を使役する為の紋章がついていない。


「どういう事? 私達アベルタ商会に騙されたの?!」


「それはないよ。ギルマスは、そんな間抜けな事はしない」


「……じゃあ一体どういう事ですか?」


「たぶん、地下に行けば分かるよ」


 先輩は適当に本棚を漁り、物を散乱させた。偽装工作をして、一応物盗りに見せかけるつもりだ。


 ……あんまり意味をなさないと思うけど。


「こんなもんかなぁー」


 先輩はうーんと背伸びをして、リラックスしている。私はまだ緊張が抜けなかった。ロッゾの遺体をみて、少し手が震えていた。


 そして部屋は、まるで私が来る前の先輩の家の様な有様になっていた。


「先輩、散らかすのは得意ですよね」


「えへへー。それほどでもないよ!」


「いや、褒めてませんから」


 どこまでも先輩は無邪気だ。だから先輩が時より見せる冷たい顔、感情の抜けた顔を見るのがとても怖い。


 私には、その時の先輩が別人にしか見えない。


 いや、実際に別人なのかもしれない。ただ仕事と日常生活の姿アルマを使い分けているというだけで。


 私は、仕事の時も、日常でもあまり変わらない。意識して変えていかなきゃ、いけないのかもしれない。



「エトは変わっちゃだめ。私のようになっちゃだめだからね」


「ーーー先輩? それは……」


 また悲壮な顔をしている……時より思うが、先輩は超能力でも持ってるのかな? 毎回タイミング良く、私が思っている事に応えてくれる。


「さっ、行くよ地下室へ。子供達の事心配なんでしょ?」


「はい!!」


 先輩の足取りは異様に軽かった。


 なんだかんだ言って私の事を気に掛けてくれるし、先輩としては良い人なんだろう。


 それに先輩は、私よりももっと子供達の安否を気にしている……そんな気がした。


 私もちょっとは先輩の事が分かってきた気がする。



 私達は商会の地下へと向かった。

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