第13話 閑話 王女として
今、私の目の前には隣国の皇子が座っている。
恐らく私との縁談の目的は両国の関係を良好にするのもあるだろうが私を人質にして同盟国が襲われても手を出させないようにするためだろう。
「この国は本当に素晴らしいね。礼儀もしっかりしているし、民の暮らしも安定していて街中もとても活発だったよ」
「それはありがとうございます。 これも私の父上が王としての務めを立派に果たしている賜物ですわ。 ユアン様の国も大変豊かで皇帝の評判も良いと聞きましたわ」
「この国程じゃないさ、上回っているとすれば作物の生産量くらいだよ」
……ちょっと踏み込んでみようかしら。
「それほど豊かなのに、何故私達と貿易するのをやめてしまわれたのですか?」
「う〜ん。痛い所を突いてくるね。 これはお父様が独断で決めた事だから僕もあんまり分からないんだよ。 一つ言えるとしたら、嫌がらせをしてるんじゃないかな」
「第一皇子の貴方がそれを言うのですか」
「悪いね。僕はまだまだ権力が弱いから現時点では何も出来ないんだよ。 こうして他国の姫を口説いて回るくらいしかね」
なるほど。皇国の内政は全て皇帝一人が取り仕切っていると言う事ですか。
事実上の独裁政権か……。
「それよりさ、君達の方こそ最近コソコソと怪しいよね。 近隣の国々に使いを出してるみたいだし、何を企んでいるんだい?」
――――ッ! コイツ!!
皇子はニヤリとした顔で私に問う。
「……何も企んでおりませんよ、ただ私達の国は住民が多いですから他の国へ食料の援助をお願いしていただけですわ」
「ふーん、そうなんだ。 まぁ今日はそう言うことにしといてあげるよ」
……こいつ油断できないわね。
「そろそろ本題を言ったらどうですか? 今日はその為に来たのでしょう」
「ふふっ、そうだね。 じゃあ単刀直入に言うよ。 僕と結婚して人質となってくれ」
……やっぱりそうだったのね。 後ろで使用人達がガタつきメイドの一人が飛び出そうとするのを手で制す。
「随分と素直に言ってきたわね、むざむざ人質にされると分かってて結婚すると思う? お断りよ」
真っ向から断わられたというのに青年は涼しい顔をしている。
断わられるのも織り込み済というわけか。
「人質といっても最低限は保証するし、なんなら君のメイドや護衛の者達も一緒に連れてきていいよ」
「それで私達になんの得があるのかしら」
「もちろん、人質になってくれたら王国には手を出さないと僕の名に誓おう。 それに君だって王族としての責務を身を以て果たせるんじゃないかな」
「ですが、貴方は実権を持っていないのでしょう?」
「そこの所は、お父様に僕から手を出さないように言っておくから安心してよ、それに近い将来玉座は僕のものになるんだかね」
少し不安なことを言っていた気がするが返答は決まっている。
「答えはこうです。 たとえ王族の責務を果たせるとしても、こんな形で果たそうとは思いません。 それにもし貴方が約束を破ったらそれこそ王国はお終いですから結婚はお断りします」
青年は少し驚いた顔をしたがすぐに澄まし顔に戻った。
「じゃあ仕方ない交渉決裂だね。 次、会う時は戦場で会おう麗しき王女様」
青年は踵を返し従者を連れて出て行こうとする。
「待ちなさい、それは宣戦布告ととって良いのですか?」
「そう受け取って貰って構わないよ。 それと後で君は後悔するよ、せっかく僕が誰も傷付かない提案をしてあげたのにそれを断ったんだからね」
そう言って今度こそ青年は部屋を出て行った。
ひとまずはこの事をお父様達に知らせないとね。
まだ状況が飲み込めず右往左往しているメイド達を促しカノンは執務室に向かうのだった。
◇◆◇◆◇
月明かりの夜道を一台の馬車が走っている。 その馬車には皇国の皇族の印が付いている。
「ユアン様。本当にあれで良かったんッスか?」
「宣戦布告の事かい?」
「はい、失礼ッスがお父様は戦争を望んでいらっしゃらなかった筈ッス」
二人の会話に女性の声が入ってくる。
外で馬車を運転しているユアンの従者だ。
「こら、フランク! ユアン様の決めた事に口を挟むつもり?!」
「いや、そういう訳じゃないんッスが……」
「いいんだよイヴ。 そうだね僕から二人に言っておくことは絶対にそんな事にはならないという事だよ」
「〜〜〜? それはつまり戦争にはならないということッスか?」
「そう取って貰っていい」
二人は言っている事に少し矛盾を感じたがユアン様が言うならそうであろうと思う事にした。
しかし二人もすぐに分かる事になるだろう。
ユアンの言葉の本当の意味を。
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