第11話 選ばれた者…可能性の一つ

「二人目は一列目、騎士家 メリティナ・オルディクス!」


  「騎士家だ」 「騎士家から選ばれたぞ」


  周りの貴族達がヒソヒソと喋っている。みんな驚きを隠せないようだ。


 かくいう私も、驚きを隠せない。


 オルディクスさん自身は、凄く驚いていて、目を丸くしている。


 選ばれるのは、当たり前と思っているローラとは、反応が大違いだった。 


 神官は、発表を続ける。


「三人目は二列目、子爵家 シズル・ネルミスター!」


  おおっ! シズルが呼ばれた。


「シズル呼ばれたね! おめでとう」


  シズルは、選ばれたにもかかわらず不服そうな顔をしている。

 私の手を強く握り直すと。


「まだ、エトが呼ばれてないわ」


 シズルはどうやら、私が呼ばれるのを待っているようだ。


 私だってシズルと一緒に仕事したいね。男爵である私をカノン様が選んでくれるかどうかは分からないけど。


 騎士家が呼ばれたんだから、私にもチャンスくらいはあるよね。


 うん、弱気になるな。自信だ自信。


 神官は、発表を続ける。


「四人目は二列目、子爵家 ミザリー・クエスタ!」


 次に呼ばれた人も、シズルと同じ子爵家の人だった。

 ふーー。いよいよ次が最後だ。


 あれ、カノン様が神官と何か話してるぞ。なんだ、なんだ。


 神官は何か必死にカノン様に訴えてるようだが、やがて根負けしたようだ。


「ええ、最後の一人は私が発表しますわね」


「王女様が直々に」


「今回の選考会は一体どうなってるんだ!!」


  王族が直々に名前を呼ぶなんて前代未聞じゃん。一体どうしたんだ。


「五人目の私のメイドは、男爵家 エト・カーノルド」


「おぉっ、最後は男爵家か」


「男爵家だからカノン様に呼ばれたのか」


「それなら騎士家の時にも呼ぶだろ」


  良かった、正直選ばれないかと思ってたよ。


 シズルを見るとすっごく嬉しそうだ。さっきまでの不服そうな顔はどこにいったのやら。


 神官が進行に戻るとカノン様は席に下がった。


「では選ばれた五人に、盛大な拍手を」


 パチパチパチパチ、会場全体が拍手に包まれた。 


 ある一人を除いて。


「何故私が選ばれなかったの、には私が選ばれていた筈だったのに。資料に載っていなかったのはエト・カーノルドだけ。どんな事をして私の席を奪ったか知らないけど私は貴方を許さないわ 絶対に」


  三列目にいたその少女は、ぎりっと歯を鳴らし、裏の事情を何も知らないエトを貶めてやろうと決意したのだった。




 式は進み、執事・従者の番となった。


「一人目は一列目、ヨハン・プロティアン」


  最初の一人目は、あのガッチガチに緊張していた騎士君だ。


 まだ少し緊張してる様に見えるが、最初よりかはマシだろう。


 騎士君以外は、全て伯爵家と子爵家の者が選ばれた。


 今回の選考会には、侯爵以上の貴族は参加できない。


 まぁ、公爵家の人間とかがメイドや執事をするなんて考えればおかしい話だものね。


 選考会が終わり、国王陛下がお話をしたようだが、興味がなかったのか記憶から消されている。


 不思議だね。


 繋いでいた手を離し、退場の合図が出た後、選ばれた私達は神官の所へ行き、今後の日程を聞いた。


「七日後に王宮から遣いの者が来るので、それまでに色々身支度を済ませておいて下さい。当分の間、家に戻る事は出来ませんので」


  選ばれた十人は、その他諸々の説明を聞くと教会を後にした。


 私とシズルも帰ろうとした時、嫌な奴に話しかけられた。


「待ちなさい。エト・カーノルド」


「はい、なんでしょうかアルティー様」


「貴方はとても卑怯者ね。本来選ばれるのはあなたではなかったのに、あの子に悪い事をしたと思わなかったのかしら」


「一体、なんの話をしてるのでしょうかアルティー様。私には分かりません」


「あら、とぼけるの。まぁいいわ、じきに分かる事だろうし」


 踵を返すと、ローラは入り口に待機していた、取り巻き達を連れて去っていった。


「なんなのアイツ!!」


「エト、気にしない方がいいよ」


 あ、やべうっかり素が出てた。まぁ周りに他の貴族がいないから平気か。


 私達は、外で待ってるであろう、家族の元に急いだ。


「お父様、お母様、私達選ばれましたよ!」


「本当か!父さんはエトが選ばれると確信していたがな」


「何言ってるの貴方。エトが心配でずっと教会の前でウロウロしてたくせに」


「それは言わない約束だったろう!」


「あらそうだったかしら」


 家族と合流し私達は結果を報告した後、予約していた店で夕飯を食べていくことになった。


 ローラに言われた事は、私もシズルも余計な心配をかけたくなく、お父様達には話さず、胸の内に留めて置くことにした。





 今思えば、この時だったのかもしれない。ローラに言われた事をお父様達に報告していれば、あの様な事態には陥いる事はなかった筈だ。


 それも可能性の一つの話だが……。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る