第10話 選ばれる者

 教会に入ると私達はシスター達に案内され席についた。 二十列ある中で前から二列目に私とシズルは案内された。


 お、これは可能性があるんじゃないか。


 お父様から聞いた話によると一から十列目は女性、十一から二十列目が男性が座ると決まっていて、前の列に座れれば座れるほど選ばれる可能性が高いという。


 アレン様の時もメイドは一から三列目、執事や従者は十一から十四列目から選ばれた。


 それより後ろの列から選ばれる事も勿論あるが、基本的に前の列の者が選ばれる事が多い。


 列を決めているのは王族なので、後ろの席に案内されても文句を言う貴族はいないだろう。


「おい、なんで伯爵であるこの僕が一番後ろで、騎士家の奴が一番前に座っているんだおかしいだろ!」


「す、すみません。規則ですのでお答えする事は出来ません」


 訂正、いやがったわ。


 お前の言動、王族に反逆したとして訴えられても知らないぞ。


 一方メガネのシスターの方は、まだシスターになって経験が浅いのだろう。しきりに先輩シスターに目配せして助けを求めている。


 先輩シスターはやれやれというように衛兵を呼び伯爵を退場させた。


 勿体ない、せっかくの出世のチャンスを無駄にして。

 まぁ、残ってた所で選ばれて無かったと思うけどね。


「ねぇエト。ローラは一番前に座っているみたいよ」


 前を見てみると先程、私達に絡んできたローラは一番前の席でふんぞりかえっている。


 一列に二十人前後座っているから、約六十人くらいがライバルという事になる。


 私は出発前にお父様達に言われた自信を持てという言葉を思い出し、自身の事だけに集中するよう頭を切り替えた。


 前に座れた貴族達も不安そうな顔を隠せないでいる。ローラ一人を除いてだが。


 いよいよ式が始まり、国王陛下と王妃、アレン様、カノン様、ウルティニア様の順で入場した。


 式の始まりは国王陛下の挨拶からで、その後すぐに選定が始まる。


 一人一人行うから結構時間かかるみたい。


「今日は我が娘カノンの大事な儀式によく集まってくれた。未来の国を担う貴族たちよ、ここに感謝の意を示そう。これからカノンのメイドと執事・従者を選定する。選ばれた者はカノンを支え、選ばれなかった者も国を支えるという大事な役目がある。気を落とす事はない、それではこれから選考会を開始する」



  国王陛下の言葉で場が熱狂に包まれ、前から順番に壇上に上がっていく。


 選定の方法は、王族に代々伝わる神玉に手を触れ、王族が特殊な魔法を唱える事で神玉が輝きその中を王族が覗くというものだ。


 何が見えているのかは王族しか知らないため、誰も分からない。


 ローラは一番最初に呼ばれ壇上に上がっていった。


 一列目が終わり二列目に入り、私の番が来たので、私は隣で緊張しているシズルに行ってくるねと声を掛け壇上に向かった。


 壇上に上がると、台の上に神玉が置かれており、カノン様がそばに立っている。


「さぁ、始めましょうか。エト・カーノルドさん」


「はい、よろしくお願い致します」


 私が神玉に手を触れ、カノン様が魔法を唱えると神玉が光始め、カノン様が十秒程神玉を覗いた。


「貴方は……素敵なものを持っているのね」


  カノン様がポツリと言葉を漏らした。


「え、なんのことでしょうか」


「いいえ、何でもありません。儀式が終わりましたので席に下がりなさい」


「はい、ありがとうございました」


 素敵なものってなんのことだろう。


 私が戻ってくると、シズルが呼ばれ壇上に上がっていった。


 帰ってきたシズルに小声でカノン様に何か言われたと聞いたが。


「言われてないけど、エトは何か言われたの?」


「ううん、なんでもない。気にしないで」


  シズルはどうやら言われなかったみたい。


 すると全員には言ってない事になる。なぜ私には一言あったんだろう。


 女性の儀式が終わると少しの間カノン様の休憩に入った。


 王族も一人一人に魔法を行使するので、いくら王族でも負担は大きいみたい。


 その後、男性の選定が始まった。


 一番最初に呼ばれたのは、先程伯爵に指差されていた、騎士家の青年のようだ。


 あの騎士君大丈夫かな。ガッチガチに緊張してる。


 青年は私に心配される程動きがガッチガチだった。


 全ての選定が終わるとカノン様が、神官に何かを書いてもらっている。 恐らく選ばれた者の名前だろう。


 選ぶのはカノン様自身なので、国王陛下や兄妹も椅子に座り固唾を呑んで見守っている。


 神官も間違えがないか確認し終えたのだろう。四十くらいに見える白服の神官が壇上に上がる。


「それでは、今からカノン第一王女に選ばれた者を発表します。まずはメイドに選ばれた者。前の列から順に発表致します」


 私は二列目、はじめに呼ばれるのは一列目の人だろう。


 私はシズルの震える手をぎゅっと握ってあげた。 シズルはすぐ気付いただろう、私の手が緊張で汗ばんでいる事に。


 二人で手を繋ぎながら、裁判の判決を言い渡されるような気持ちで神官の言葉を待つ。


「一人目は、一列目。ローラ・フォン・アルティー」


  会場がどよめいた。私とシズルもある程度予想はしていた。


 当の本人は当たり前といった顔をしているが、選ばれる事は凄い事なのだ。


「続いて二人目の発表に移ります」


  神官は冷静に話を続ける。他の貴族達も静かになる。


 私達も神官の言葉を待つ。


「二人目は……」


 呼ばれた名前は更に会場を騒がせた。



 

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