第9話 選考会当日

 王都の関所を抜け、王都の中心を馬車で走らせている。

 貴族専用の入場口から入ったが、それでも二時間かかった。


 やはり王族が行う大事な儀式の一つとして、民も盛り上がっており、なので不審な人物が忍び込んでいないかと衛兵が出ている。


 なので、入場口も当然警戒が厳しい。


 王都の中は、お祭り騒ぎだ。


 そして貴族も沢山集まってきていて、列に並んでいた貴族の殆どは今日の選考会の参加者だ。


 選考会の参加にはあまり階級は関係無いので、騎士や男爵階級の者達はこぞって参加している。


 私もその内の一人だけど。


 選考会は昼に行われる。


 私達参加者の情報は事前に王都に届いており、王族の方々が既に目を通しているはずだ。


 凄いよね王族。参加者全員の顔と名前を覚えるってどんな頭してるんだろ。

 なんでも、次世代の国を担う貴族を覚える事は、当然の義務らしい。


 だけど参加者、四百人前後いるらしいじゃん。


 どの家からも一人だけと決まっているけど、四百人って……多い。


 私も最初は、参加者四百人ってお父様から聞いて、少ないと思ったけど。

 親戚や親族も含めて一族の家から一人だけって事だから四百人って多いんだよね。



 だって、今来てる貴族達って全員血のつながりが本当に何もない人だけだよ。 

 

  ビックリだよね。


 四十人の親族たちがいても、参加資格を持てるのは一人だけだから、大きい家柄ほど制約が厳しくなっている。


 逆に、私の家にとっては出世の大チャンスになる。


 なんで一族から一人にしたかは、下位貴族の出世を促すことで、選定の公平性を保つ為なんだとか。




   ◇◇◇




 王都の中央に着き、馬車を降りると選考会が行われる教会に家族と別れシズルと二人で向かった。


 すでに人は集まっていて、教会の前には沢山の貴族たちが集まっている。


 平民の人は今日は教会に入る事が出来ないが王族の大事な儀式という事で納得している。


 見た感じ男女比は半々くらいだ。メイドと同時に執事や従者も選ばれる為やはり男性も多い。


「すごい人だかりね、エト」

 

「そうですわね。この中から選ばれるのは、男女五人だけという事ですのに」


「普段の言葉使いに慣れているから、今の喋り方がおかしく感じるわ」


「そうでしょうかシズル様?」


「やめてよ、まだ選考会も始まってないのに」


「いえ、私のような弱小貴族は常に周りに気を配らねばいけませんので」


「全く、どの口が言ってるのだか。まぁ私もあなたの家の事情は知ってるからいいけど」


 すでに他の貴族達も家族たちから離れ、仲がいいもの同士で集まっている。


 私にはシズルくらいしかいないけどね。


「ええと、参加資格を持てるのは一族につき一人で、十二歳から十七歳まで、そして固有能力を持っているもので合ってますわよね」


「大事な事を忘れてるわよ、エト。カノン第一王女に心から誓うという忠誠心を持っている事」


「それなら、大丈夫ですわ。小さい頃からカノン様にお慕えしたいと思っていましたもの」


「そ、そう。それなら平気ね」


  元々王族を敬うのは貴族として当たり前の事だと思うけど。


 シズルはなんか悲しそうな顔をした。 


 なんでだろう? 変な事言ったかな。


「他にも容姿とかが結構大事になってくるみたいね。王女様のメイドだもの、整っていないと面目が立たないわ」


「じゃあ私たちは可愛いから平気だねーー」


「ちょっ……あなた公衆の面前よ。口調を直しなさい」


「なんでー? さっきはいいっていったじゃん」


「それはさっきまでの話よ」


「ええーーー? あ、もしかして照れてる?」


「照れてないわ」


 あっ、そっぽを向いた。こりゃ照れてるな。


 二人で談笑していると、私達の方へツカツカと歩いてくる集団がいた。 


 うわぁ、後ろに取り巻きみたいなのがいるしめんどくさそう。


 私達の目の前に立つと、目がキツい御令嬢が言った。



「ご機嫌よう、カーノルド家とネルミスター家の子女の方々。私の名前はローラ・フォン・アルティーと申します」


 アルティーは礼儀正しい挨拶をした。


 アルティーってあの伯爵家の人かよ。


 挨拶されたら仕方ないので、私達も義務的な挨拶を返す。


「ご機嫌よう。わたくしはエト・カーノルドと申します。 アルティー伯爵ともわたくしのような底辺貴族にもお声をかけて頂き恐縮でございます」


「ご機嫌よう。私はシズル・ネルミスターと申します。 今日の選考会の有力候補のであるアルティー伯爵に一目お会いできて光栄でございます」


 それにしても、何故伯爵様が話しかけてきたのだろう。


 次の一言でその疑問は解消される事になった。


「貴方たち、あの風竜エルドラを倒した我が国の冒険者である、ルシア・ディクトリスに家庭教師をして貰ってるんですってね」


「いえ、教えてもらっているのは私だけでシズル様は関係ありません」


「いいえ、関係あるわ。私が何度頼んでも教えてもらえなかったのに……貴方達は少し教わったくらいで自らの力を過信し、キング・フォレスト・オークに無謀にも挑んだそうじゃない」


 なんでコイツが討伐の事知ってるんだよ、てか話変えすぎだろ。


「それは違います。あれは先生にたまたま誘われて……」


「黙りなさい。貴方が先生と呼ぶだけで虫唾が走るわ。私の使用人に貴方たちがルシア様に背負われて森から出てきたのを見たものがいるのよ」


「そ、それは確かにその通りですが」


 やばい、やばい雲行きが怪しくなってきたぞ。


「無謀にもオークに挑み結局、平民であるルシア様に助けてもらうなど貴族の風上にも置けませんわ。皆様もそうお思いでしょう?」


  ローラは取り巻きに問いかけた。


 もちろん返ってくるのはローラを肯定する言葉ばかりで、私達を援護してくれる者などいない。


 周りの貴族達も喧騒には気付いているが、傍観を決め込んでいる様だ。


「ルシア様は、貴族の栄誉をいらないと言って貴族の一員になっていません。貴族になっていれば金も地位も手に入ったというのに……なんと欲のない方でしょう」


 それに比べて貴方達は、と半刻ほど言われ続けた。


 もう泣きたい、誰か助けてよ。


 ローラはまだまだ喋り続ける。さらにヒートアップしているようだ。


「それに、カーノルドの御息女は汚れた血の持ち主ですしね。ルシア様は元々ですから同じ平民でも大違いですわ」


 我慢だ、我慢だ私、どんなにムカついても、家族を貶されても逆らってはいけない。


 相手はそれを待っているのだから。


 急に寒気がして、隣を見るとシズルから冷気が出ている。


 まずい、キレてる。水から氷に変化してるという事はかなり怒ってる証拠だ。


 私は慌てて、落ち着かせにかかる。


「落ち着いてシズル。私は大丈夫だから」


「なんですのあなたは。文句があるから言ってごらんなさい」


  シズルはローラを睨む。


「貴方は……」


  怖い、怖いよシズル。


 場が一触即発の危機に陥った頃、救世主は唐突に現れた。


「何をしてるんだい、君達」


「関係ない者は黙ってて下さいまし、あっ」


 急に語尾が弱くなった。


「僕の国の貴族が騒いでるんだ。関係ない訳がないだろう」


「アレン様だ」


「アレン第一王子だ」


「アレン様がいるぞ!」


 なんと後ろにはこの国の王子がいるではないか。


「何をしてるのかと聞いてるんだけど」


  優しい口調で問いかける。


 対してローラは真っ青になり言葉が出てこないようだ。


「えっと、これはその」


「すみません第一王子。私が貴族としてあるまじき行為をしたのをアルティー様が、指摘してくださったのです」


 アレン王子は私の方を見る。


「エ、エト何言ってるの」


「そうなのかい? 僕には君達が一方的に罵られているように見えたのだが……僕が勘違いしてたみたいだね。ごめんねアルティーさん」


 ニコッと笑うとその美しい顔を見た御令嬢達の顔が一斉に赤くなる。


 イケメンって凄い。 

 みんなキャッキャッ言ってる。


 第一王子は部下を連れて教会に入っていった。


 改めてローラに向き直る。


「これを貸しと思わないで下さい。悪いのは能力も弁えず、オークに挑んだ私達の方ですので」


「ふん、分かればいいのですわ」


 ローラは捨て文句を吐き、取り巻きを連れて去っていった。


 ローラが去った後ようやく方の力を抜く。


「ようやく行ってくれたわね、アイツ」


「エト。なんであんな事言ったの」


  シズルはまだ怒っているようだ。


「ごめんねシズル。あなたにも悪い事したわね」


「それはいいのよ、ただ親を馬鹿にされて悔しくはなかったの? あのままいけば王子に叱らせる事も出来たのに」


「そりゃ悔しいよ、本当は文句の一つでも言いたかったけど王子を使って言うのもあれだし、相手は伯爵だから対応を間違える訳にはいかなかったんだよ」


 二人の間に沈黙が流れる。

 その時教会の扉が開いた。選考会の開始の合図だ。


 みんなぞろぞろと中に入っていく。


 ローラも取り巻き達と共に入っていく。


「さ、私達も早く行こ」


「……分かったわ」


 どうやらシズルはまだ不服らしい。


 でも、仕方ない相手は上級貴族様なんだから。


 私はシズルの手を取ると強く握りしめた。

 シズルもそれに応えてくれて、二人揃って仲良く教会に入っていくのだった。

 

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