第8話 選考会前日

 こんにちは、こんばんはエト・カーノルドです。 月日が経つのは早いもので、キング・フォレストオークとの戦いから半年経ちました。


 今、私は胸がドキドキしていて興奮を隠せません。 


 当初はそんなに緊張するなんて思っていなかったけれども、前日にもなると急に緊張してきました。


 だって、これで私の人生が決まるかもしれないんだよ、王女のメイドに選ばれたら一生安泰だし。 


 逆に選ばれなければどこぞの貴族と結婚して子供産んで家の為に尽くして一生を終える。


 後者の方が圧倒的につまらないよね、優しい人に巡り会えたら別だけど。


 今、私は明日に向けての準備で忙しい。

 式典の内容を覚えて入場から退場までを一通り練習している。


 服の準備もバッチリだ、お父様とメイド達が男爵だからって舐められないような美しいドレスを新調した。 


 黄色と白で強調された鮮やかなドレスだ。


 実際に着てみると


「お嬢様素敵です!」


「お嬢様いつの間にかご立派になって」


「お嬢様よくお似合いですよー」


「エト、僕と結婚してくれーー」


  みんなから様々な称賛の声をもらった。最後の奴は別だけど……。


「よく似合ってるわよ、エト」

「ありがとうお母様」


  親は原則会場の中には入れないので、誰が選ばれたのか伝えるのは子供の役目だ。


 明日の朝一番に王都に向かう、シズちゃんの家と一緒に行く予定。


「シズルちゃんはどんなドレスなんだろう」


「シズルちゃんなら水色のドレスとアルフラから聞いたわよ」


「シズルちゃん似合うだろうなー」


「何を言っているんだエト!私の娘が一番可愛いに決まっているだろう!!」


 出たよ親バカ、やめろって恥ずかしいだろ。


 そうね私達の娘が一番可愛いわね〜とお母様がお父様を落ち着かせるのもいつもの風景だ。


「明日の準備はしっかり出来たかしら」


「はい、出来ましたよお母様」


「そう、明日の選考会自身を持って臨むのよ、なんて言ったってドラゴンを倒したお父さんとお母さんと娘だもの」 


 やっぱりそうだったのか予想はしていたけれど。


「ちょ、なんで言うんだよ。まだ心の準備が……」


「お父様、私もバカではないのですから先生と親しいという事で、なんとなく想像はついていましたよ」 


 お父様はえっ、と驚きを隠せない顔をしたが、すぐ真面目な顔になった。


「後からあぁすれば良かった、こうすれば良かったなど後悔しないように思いたったらすぐに行動に移すんだいいな」


「そうね、あなたドラゴンを倒した後いきなり結婚しようなんて言ってきたものね」


「な、あれはだな。今言わないともう二度と言えない気がしたからだ」 


「お父様、流石にそれは雰囲気なさすぎですよ」


「そうよ、私もお断りしようかと悩んじゃったもの」


「え、そうだったの」


 気の抜けた声で言い娘と妻に指摘され少しショックを受けたようだ。


「ふふ、冗談よ冗談」


「お母様がいつも首から下げているペンダントもお父様からのプレゼントなの?」

「あぁ、これはね大切な人からもらったのよ」

「大切な人? お父様より?」

「お父さんやエトと同じくらい好きな人よ」

「へぇそうなんだ」

「エトもエトの事を大切に思ってくれる人から何か貰える日がきっとくるわよ」


 お父様はその話に口を挟むことはなかった。その日私達は飽きるまで会話を続けた。


 たぶん私の緊張感を少しでも和らげようとしてくれているのだろう。 ふと、気付けば胸の鼓動はいつの間にか落ち着いていた。 


 明日は頑張らなきゃね。




 この時のエトは、まだ自分がメイドに選ばれる事を知らない。


 そして王女カノンとの出会いが自分の運命の歯車を大きく狂わすことになるのも…… 誰も想像していなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る