第7話 魔物狩り 後編

「あれがキング・フォレストオーク……」


「森の猛者……」


 私達は目の前に現れた、巨大な魔物の前に言葉が出てこない。


 オークは私達の姿を認めると、ケタケタと気味の悪い声を出しながら、のそのそと向かってくる。体は汚れていて、特に下の方なんかは汚物も付いている。 


 さらに、顔からよだれをだらだらと垂らしながら、舌舐めずりをしている。


 無理だ。生理的にうけつけねぇ…… おぇーー。


 シズルも同じように、顔をしかめている。やっぱキモいよねアイツ。 やはり先生は慣れているのだろう。すぐさま私たちに指示をとばす。


「よし、ここからは前衛を俺が、後衛をお前たち二人に変更だ。二人は俺が指示するまで、絶対に近寄るな、魔法で遠距離から援護しろ」


「「はい」」


  私達は先生の後ろにまわると、先生は、森の王の前に歩み出た。


 先生と森の王、強者と強者の戦いが幕を開けた。


 先に動いたのは先生だ。


「《岩破撃ロックデストロイ》!」


 先生は魔斧まふと固有能力の岩を合わせた技を放ち、巨大な魔物の腹に炸裂した。


『グガァッ!』


 オークは短い声を上げた。


 だがすぐに腕でなぎ払い、反撃をしてきた。

 先生の一撃はドラゴンを怯ませる威力があるのにもかかわらず、奴は怯む気配が全く無かった。


 え、オークのくせにドラゴンよりも強いの?!


 やはりか。と言って声を漏らし、先生は私達に説明してくれた。


「奴の固有能力によって、身体能力がかなり上がっているんだ、この森でなら奴は最強だろうな」


  え、なにそれ反則じゃん。


「先生、じゃあどうやったら倒せるのですか」


  シズルが、不安そうな顔をして聞く。


「この場合は、魔石がある胸あたりを集中的に狙うのが効果的のはずだ。だがまずは体力を減らし、奴を弱らせなくてはいけないな」


 先生は力強く言った。最初から負けると思っていないのだろう。


 常にどうやって倒すかだけを考えている。


 その時森の王が動いた。先生の攻撃から回復したようだ。


「やれやれ、奴は待ってはくれないようだ。二人は魔法の発動準備をしていてくれ」


 先生は向かってきたオークに真正面から突っ込んだ。 


 私とシズルはそれぞれ魔力を溜め、先生の合図を待つ。


 先生はオークの攻撃を避けつつ、足などを斬り付けている。だがオークも浅い傷はすぐ再生してしまう。これも森の猛者の効果なのだろう。


 しかし先生が先程入れた技は効いているようで、腹には傷が残っている。


 先生が斬り、オークが傷を再生させ反撃する。


 一体どれほどの時間が経ったのか分からない、気が付けば辺りは暗くなっていた。


 激しい攻防の末オークの片膝が地面に着いた。 


「今だ、やれ!」


  先生の合図に合わせて、私達は魔法を放った。


「《雷撃ライトニングボルト》!」


「《水泡アクアブレス》!」


 私達は自分が使える中で最大限の魔法を撃った。私の雷でオークの体は焼け、シズルも水の砲弾がオークを襲い炸裂した。


 『ゴガァァァァァーーー!!』


 オークは私達の方を睨んだ。体には今の攻撃で受けた傷と先生の攻撃でついた無数の傷があり全身から血を流していた。


「まずい、避けろ!」


 一瞬先生が何を言っているのか分からなかったが、すぐに分かった。木の枝が触手の様に伸びて襲いかかってきたのだ。 


 これがオークの切り札か。


 私達は触手を避けつつ、避けきれないものは雷剣ライトニングソード水剣ウォーターブレードで切ることで身を守る。


 先生がオークに攻撃をすると、私達への触手の手数も減りコントロールも悪くなる。


 私達は迫りくる触手をなぎ払いながら先生が隙を作ってくれるのを待つ。


 オークは未だダメージから立ち上がれておらず、触手のみの攻撃となっている。


 ここぞとばかりに、先生は触手を全て捌きつつ、オークの元に辿り着くと。


「《岩砕ロックパレス》!」


 最初に繰り出した技よりも、かなり力が篭っている技を出した。


『グゥォォォォォーーー!』


 今度こそオークの両膝が地面についた。


「今だ、来い二人とも止めを刺すぞ」


 近くまでくると体中に触手で受けた切り傷や攻撃の衝撃波で、恐らく体に負担がかなりかかっているのだろう顔色の悪い先生の姿が映った。


「先生、大丈夫ですか」


 まじで顔色悪そうじゃん、死なないでよ。


「ああ、なんとかな。触手は俺が払う、お前達はキング・フォレストオークを討て」


「「はい、任せて下さい」」


「行くわよ、エト」 「うん合体技だね」


「合体技なんてないでしょう?」


「あれだよ、私達の剣を合わせるやつ」


「まぁ。確かにあれなら威力は上がるけど…本当にやるの?」


「やるんだよ!!」


 シズルはやれやれと言ったように納得してくれた。なんだかんだ言ってて、優しい。


「話し合いは終わったか、行くぞ!」


 オークは最後の足掻きとばかりに、触手をふるう。


 先生が触手を払い、私達は一直線にオークの元へ向かう。


「やれ、エト!シズル!」


 私達は、残っている魔力を全てこの一撃に込めた。


「「《雷水のサンダーストーム斬撃スラッシュ》」」


  私達の雷と水の力が混ざり合い、強力な技となりオークを襲う。 


 『ゴグゥガァァァァァーーーーー!!』


 森全体に響き渡るような声で、キング・フォレストオークが叫んだ。


 奴も最後とばかりに立ち上がり、全力の力で拳をぶつけてきた。


 私達の斬撃が猛者の体を切り裂き、魔力の高まりで傷口が爆発した。 もう奴に再生できる体力は残っていない筈だ。


 凄まじい爆炎が上がり、辺りは煙に包まれた。 煙がはれると勝者が見えてきた。


「はぁはぁ」   「ふぅふぅ」


 勝ったのは、私達だ。


 オークは黒くなり、体中から硝煙が溢れ出ている。 


 やがて炭化しボロボロと崩れ落ちていく、魔石が壊れたのだろう。


「やったぁー勝った」 


「本当にあの化け物に勝てたの?」


「勝ったんだよお前達は、俺一人では危なかったかもしれない特に最後の一撃は見事だった」


 これは早くお父様達に、報告しなくては。


 グラッと私はその場で倒れた。 みるとシズルも地面にへたり込んで、立ち上がれなくなっている。


「魔力を使い果たしたんだ、俺が二人とも担いでいってやる」


  そういうとシズルは、自分で歩けますと言ったが言葉と体が一致していない。


 私も抵抗したものの、力もろくに入らず、両脇に抱えられて帰路に着くのだった。


 森を出る頃には、私もシズルも深い眠りについたのだった。


 その後ジャペル森には平穏が戻り、近隣の村の生活も元通りになった。


 私とシズルは目覚めるまで、三日かかりとても家族たちから心配されていた。


 先生は両親たちから厳しく説教されており、その顔にはオークに付けられたものではない、新しいアザが出来ていた。


 みんな心配かけてごめんね。 実は二日目には起きていてダラダラしてたんだ。 てへっ。



 

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