第5話 先生と手合わせ

 先生は開口一番にこう言った。


「お嬢様。シズル様の所で随分と派手に暴れて怒られたみたいですね」


 なんで、先生がこの前の事知ってるんだよ。あれか、失敗を吹聴してまわってるクソ野郎でもいんのか。 


 すると先生は私の心を見透かしたように。


「いえいえ、誰からも聞いてませんよ。たまたま近くで仕事をしていた時にお嬢様とシズル様の魔力がぶつかりあったのを感じたので、生徒と一緒に観に行ったのですよ」


 何それ。私、先生がいた事に気づかなかったけど。


「家の前に着いた時驚きましたよ。庭はボロボロでその中心にお嬢様方が正座をして、二人仲良く手を繋ぎながら怒られているのを目撃したのですから」


 最悪だ、バッチリ見られていた。 


 先生はともかく全く知らない貴族に見られてしまったのは痛い。 


 後で変な噂を立てられてないといいのだけど。


「お嬢様の考えている事は心配する必要は無いと思いますよ。私の教えている生徒にそんな事をする者はおりませんので、もし居たらすぐに契約を解消しますし」


 そういえば、前に人を大切に出来ない貴族や思いやりがなく民の事を考えない貴族には教えないって言ってたっけ。


「先生、こないだの騒動を知っているなら私とシズルで考えた技を見てもらえませんか」


「えぇ勿論です。私もどうしたらあんなに敷地がボロボロになるような衝撃波が生まれたのか気になっていたんですよ」


  私は魔力を手に集め一気に放出した。 


 あれから何度も生み出す練習をしていたので、今では魔法を撃つ予備動作もいらなくなっている。 


 でも、二人だけで斬り合うのは禁止にされちゃたんだよね。


 ビリビリと音を立てながら、私の手から光が伸びていく。 


 そして、支給品の剣と同じくらいの長さになって止まった。 一度刀身に触ってみたが、少し当たるだけで全身に電撃が走った。


 恐らく耐性のない者が受ければ間違いなく麻痺するだろう。


 木や岩などを試し斬りしてみたら、木はスパスパ切れ、岩は出力を上げたらなんとか切ることが出来た。


 もちろん、その分魔力は持っていかれ魔力切れを起こしやすくなる。 


 試した限りだと三回が出し入れ出来る限界だろう。


 消すのは簡単だが出す時に魔力がかなり持っていかれるので安全を考えるとその辺りになる。


「ほう、それが新しい技ですか、技というより武器に近いな」


「そうですね、剣をモチーフにして考えましたから」


「名前は何と?」


雷剣ライトニングソードといいます」


 私は気にしてないけどさっきから先生の口調が素に戻ってきてるんだよな。 


 やっぱり冒険者は見た事ない武器を目にすると変わるんだな。


 先生はまじまじと私の雷剣を見つめ、その刀身に触れようとした。


「待ってください先生。この剣は耐性の無い人が触ると怪我をしてしまいます。私は固有能力で平気ですか先生は違うでしょう」


「心配なさらなくても結構ですよ。昔は雷幼虫サンダービードルに触り何度も麻痺して耐性を付けたので」


 そう言うと先生は刀身を片手で掴む。


 いや、中級魔物でも触れれば一撃で死に至る雷幼虫サンダービードルに触れるなんて、どんなバカだよ。 


 てかよく生きてんな。



「これは凄いな、並の剣より遥かに頑丈になっている。それに触れれば体に電撃が走る効果付きだ、下位の魔剣と同じくらいの性能はあるだろう」


 先生はしきりに感心しながら私に言った。 


「よし私とひと勝負しないか」


 え、なんで今の話の流れでそうなるの。 うそ、先生本当は脳筋なの? ヤッバー。


「せ、先生? なんで先生と試合をしなければいけないのですか」

 

「お嬢様も全力で振るえる相手が必要でしょう、ならばドラゴンを倒した私が相手になりましょう」


 ダメだなこの人、絶対に自分が私の剣を受けてみたいだけだろ。


「しかし、私などでは先生の足元にも及びませんよ」


「ご安心を私の方からは攻撃はしませんし、手加減もしますのでさぁ、始めましょう」


 あぁ、これ断れないやつだ仕方ないやるか。


 私と先生は互いに少し距離を取った後向かいあった。


 先に動いたのはもちろん私だ。


雷剣ライトニングソード!」


 私は素早く剣を生み出すと先生に向かって走り、先生の胴に斬り込んだ。


 だが、先生は軽くかわし、続く二撃目は剣で防がれた。先生の剣は魔剣でそれも上位魔剣だ。


「そんなものですかな、お嬢様の本気は」


  く〜〜〜悔しいー。


 でも全然力量が違う。 

 たぶん戦ってきた場数が全然違うんだ。


「まだまだここからですよ先生、はぁぁっーーー!」


 私は魔力を限界まで高め剣を強化する。


 そして、私と先生の剣がぶつかり合う。 キーン キーン キーン  ガキィーン。


 私の剣が砕け落ちた。砕けると言っても崩れて大気中の魔素になるだけなんだかな。


 ここが普通の剣とは違う所で、折れたとしても魔力があればまた作りだせるんだよね。


 これなら修理費もかからないしお手頃だね。


「ふむ、ここまでのようですね、耐久力はあるようですが、その分魔力を高めた分だけ壊れやすくなるようですな」


 だがこの威力なら、いや、しかしと何やら先生から不穏な気配を感じる。


「どうでしょうお嬢様、その剣で魔物退治に行ってみませんか」

 

 やっぱりロクでもない事だった。 


 確かに貴族としては民を守る役目があるから魔物くらい倒せないといけないのだけど、今の私で平気かしら。 


 魔物狩りは基本冒険者が請け負っていて、その分貴族は対外的な仕事をしている。 内は冒険者、外は貴族が賄っているのだ。


「私だけで魔物を倒せるでしょうか? もちろん低級の魔物には負ける気はしませんが」


「ご安心を私もついて行きますし、あとシズル様も誘い三人で行きましょう。二人でなら殆どの低級魔物には遅れをとる事はないと思いますので」


 シズルちゃんと一緒に魔物退治かいいねぇ でもお父様許してくれるかしら。


「私の方から、旦那様にお伝えしておきますので日時が決まり次第改めてご連絡します」


「分かりました、じゃあシズルには私の方から伝えておきますね魔物狩り楽しみにしています」

 

  ふっ、先生がいれば討伐ではない狩りだ。


「はい、楽しみにしてて下さいね。あ、先生は危なくなるまで手は出さないつもりなのでそのつもりでお願いします」


 一応授業の一環ですからと言った。


 マジか、自分の力だけで討伐しないといけないのか、やべー狩られるかも。


 その後、二回ほど手合わせをして魔力が尽きた頃今日の授業は終了となった。


 先生超つえーー。最初の一回目に斬り合った時よりも格段に剣が重かったぞ、アレで身体強化魔法をかけたらどうなるんだろう……。


  やめとこ、私が低級魔物に思えてきちゃうから。



 私は後日届いた魔物の討伐内容を読んで、家中に響き渡る声で発狂するのであった。 


 討伐目標: キング フォレストオーク 

  固有能力:森の猛者おうじゃ

 危険度:B


 

  ガッチガチの上級魔物だった。

 死にましたね、はい。

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