王国のメイド
プロローグ
「カノン様逃げて下さい」
私の一番可愛がっている、メイドに言われた。
とても焦っているのが伝わる。そして私の身を案じてくれているのも。
彼女は涙で、顔がぐちゃぐちゃになって、私を隠し階段に連れて行こうとする。
「離しなさい、これは王族の責務なの。民を守る事が一番大事だということは貴方にも分かるでしょう」
私はゆっくり、小さい子を諭すように話す。
彼女には、死んで欲しくない。
私だって貴方と一緒に逃げだしたい、王族の責務から逃れたい。
でもこの国の第一王女として、裏切り者からこの国を守らなければいけない。
「いい、貴方がこの階段から外に出るのよ。そして友好な関係にあるアルフレディア公国に助けを求めるの。私は大丈夫必ずまた生きて会いましょう。そしたらまた一緒に生活しましょう」
「そんな事出来る訳無いじゃないですか! 私はカノン様のメイドであり、護衛でもあるのですからお側を離れるわけには行きません」
「では貴方に特命として命じます。 これには絶対に従ってもらいますよ」
「〜〜〜!!」
エトは、この世の終わりの様な顔をした。
特命とは、王族だけが出せる命令でどんな理由があろうと従わなければならない。 この命令を出せるのも有事の際に限るが、今がまさにその時だろう。
「で、でも私にはカノン様に最期まで仕えるという大事な役目が……」
「私は貴方を信用しているから命じているの。私だって守られる程弱くはないのよ、下で戦っているヨハンやシズル達もいるから安心しなさい。 私はどこにもいかないわ」
エトはまだ納得がいっていないようだ。 ならば私から離れる理由を与えてあげよう。
それまでずっと黙って、話の行方を見守っていた人物に目を向けた。
「ティナ、貴方もエトと一緒に行きなさい」
「え……何故ですかお姉様。私だって王族としての覚悟はあるつもりです。 残って私も戦わせて下さい!」
まだ幼い妹は必死に言い募る。
「貴方を戦いには連れていけないわ。 何故かって? 貴方が弱いからよ。 連れていっても足手纏いにしかならないわ。 自分でも分かっているのでしょう?」
ティナは唇を噛み締めた。 厳しい事を言ったが、それが現実だとティナも分かっているのだろう。
「エト、ティナの事任せたわよ」
「………はい、必ずティナ様を安全な場所へ連れて行った後、援軍を連れて戻ってまいります」
そうね。エトには悪いけど、どこの国からも援軍が来てくれないという事はなんとなく分かるわ。
なにせ、こんなにも時間が経っているのに、周りの国が何も反応を示していないのがおかしい。
先に手を打たれていると、考えるべきだろう。
階段を大勢が、登ってくる音がする。
もう残された時間は少ない、早く逃さなくてはならない。 仕方ない最終手段を使うか。
「今度会う時は一緒にお風呂に入ってあげてもいいわよ」
「え、いいの?! 分かった私ティナ様を連れて逃げます!絶対ですよ、絶対!」
あらあら、そんな嬉しそうな顔しちゃって。
「えぇ、じゃあここでお別れね頼んだわよエト。ティナもそれでいいわね」
「分かりました。お姉様も危なくなったら、すぐお逃げ下さい」
「私も、ティナ様を安全な場所へ送ったら、援軍を連れてすぐ戻りますので、それまで待ってて下さいね」
「えぇ、もしかしたらエトが来る前に私が全員やっつけているかもしれないわよ」
私は冗談めかして笑って見せた。
「うーん、それは困りますね〜」
彼女も彼女で顎に手を乗せて困ったなーと、体現した。
「お姉様、エトちゃん。くだらない冗談言ってないで早く行きましょう」
そんな私たちにティナが呆れた様子で会話を終わらせにきた。
足音が、すぐそこまで近づいてきている。
もう時間ね。
「さぁ二人とも、道中気をつけて行きなさい」
「「はい!!」」
そういうとエトは、ティナの手を取って、階段を降りていった。
私は追っ手がいかないよう、入り口を魔法で完全に封鎖すると、喧騒のする方へ足を運ぶのだった。
「もう、戻れないわね。ごめんなさい」
誰に向けて言ったのか、自分でも分からない言葉が口から出ていた。
でも本当は分かっている。これから起こる事もこの先に何が待ち受けているのかも……。
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