第4話 「探索者の流儀」④

 なんとか耐え切ったようだった。エンジュも、脚付き四輪も。

 こうしてはいられなかった。

 いつまたルクルスたちが爆薬を放り込んでくるとも限らないし、直接乗り込んでくる可能性もある。

 エンジュは脚付き四輪が揺れるのに任せて左のワイヤーのロックを緩めゆっくりと後下していく。途中で見つけた丁度良い配管の束に回収した右のフックを引っ掛け、左のフックを解除して回収し今度は右のワイヤーで後下していく。大穴は予想していたよりは深かったが右のワイヤーが尽きる前に底が見えた。

 エンジュは底に着地する前に探索服のあちこちにあるポケットのひとつから携帯投光器を取り出し、下を照らしてみた。

 底は瓦礫に埋め尽くされていた。

 元々この大穴にあった構造体の成れの果てだ。

 とりあえず降りても大丈夫そうだとわかったので、エンジュはフックを解除し残りの数メートルを落下した。

 まさに二つ名の通り空中で態勢を整えて脚付き四輪が着地する。

「――さて、どうしたもんか」

 無事底まで到着したところで、エンジュはひとり呟いた。

 この先何をするにしても、まずは道を探さなければならない。ここに長居は無用だ。エンジュは投光器でぐるりと周囲を照らす。

 何かが光った。

「――!」

 一瞬で思考がシーカーのそれに切り替わった。

 光ったということは光を反射したということで、つまりそれは瓦礫なんかではなく、光を反射するほど光沢のあるものなんてここでは遺物以外にあり得なかった。

 そこまで考えたときにはすでにエンジュは脚付き四輪を走らせていた。

 瓦礫を蹴散らし、「それ」がはっきりと見える距離まで近づいたとき、

「宝箱だ! やった!」

 エンジュは叫んでいた。

 エンジュが「宝箱」と呼んだそれはおそらく旧時代に輸送・保管用に使用されていたであろう箱で、人ひとりで抱えられる程度のものから住居にできるほど大きなものまでいろいろある。いま目の前にあるそれは瓦礫に大半が埋まっているものの、人間が中に入れそうなほどの大きさはあるようだった。

「遺物としてはけっこう当たりじゃね? これは」

 エンジュは宝箱を矯めつ眇めつ呟く。

 この中に何が入っているかは開けてみないとわからないが、基本的に中のものは保存状態が良い。この箱がそもそもそういう目的で作られているはずだから当然だ。それにもし中に何も入っていなくとも、今では再現不能な素材で作られたこの箱自体にも十分な価値があるのだ。

 未だに光沢を保ったままの表面をエンジュはさすりつつ、

「あの爆発にもよく耐えたなー、お前」

 いや、

 そうではないか。

 瓦礫の中に埋もれていたのを、あの爆発が掘り起こしてくれたのかもしれない。

 まあ、何はともあれ。

「こいつを引っ張り出そう」

 エンジュは脚付き四輪のワイヤーフックを宝箱にぐるぐる巻きつけ、脚付き四輪の馬力で引っ張り出した。箱は思った通り人ひとりが中に入れそうなくらいの大きさだった。開けるのは後回しにする。のんびりしていたらルクルスたちが来るかもしれないし、箱を「島」から持ち出さないと所有権を得られない。なんとかエンジュひとりで箱を荷台に乗せ、ロープでぐるぐる巻いて固定し、脚付き四輪を走らせてみる。

「――よし、大丈夫そうだ」

 落ちることはなさそうだった。エンジュはひとり頷く。

 丁度そのとき、頭上から微かな声が響いてきた。

 エンジュは反射的に上を見上げる。

 大穴に溜まっていた覆い被さるような闇の中に、複数の投光器らしき白い光が小さく蠢いていた。

「……来やがったか」

 エンジュは心底面倒くさそうに吐き捨てた。

 急がなければ。

 エンジュは投光器で周囲を照らす。

「――お、」

 大穴の側面にぽっかりと空いた通路を見つけた。

 エンジュは大慌てで脚付き四輪を動かす。

 間に合うかどうか、微妙なところだ。

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