第10話 登校

「ちょっと歩くの早いよー。」


なんだか少し緊張しているせいか、どう切り出そうか考えてたせいか、いつもより早歩きになってしまったテツに、咲桜が後ろから声をかける。


「あー、すまん。」


「哲ちゃん、大きくなっちゃったからねー、歩幅が全然違うんだよねー。」


咲桜は無理やり俺の歩幅で、大股で歩いて見せる。


「咲桜はチビのままだからなー。」


「うるさいですー!いきなりでかくなった癖にー!」


咲桜の身長は157cm。小学校の時はテツとそんなに変わらなかったが、テツは中学で30cm近く伸びた。


「まったく、こんなに見上げなきゃならないなんてさー。」


近くに寄ってきて見上げる咲桜に、不覚にもドキッとして目を反らす。


「ちょいと、咲桜さん。近いです。」


「フフッ、なんで敬語よ。」


照れているのを見透かしてるかのように、咲桜は笑った。


学校が少しずつ近づき、意を決して話を切り出す。


「なぁ、咲桜。」


「んー?」


「俺さー、高崎ツインズに誘われた。」


「え?サッカーの!?」


もともと大きい目をさらに大きくして、咲桜は驚く。


「昨日の試合終わってからさ、練習会に来て欲しい、是非推薦したいって。ツインズのスカウト人から。」


「えー!それってすごいじゃん!キーパーも頑張ってたもんね!」


「だから今度、練習会に行ってくる。」


「頑張れー!あ、そっかー。そしたら、バスケ…やめちゃうの?」


「いや、わからない。やめたくはないんだけど、どっちもは無理だしな。キーパーも一生懸命やってみて、しっかり取り組んでみてから決めようかなって。」


昨日親と話したことを、正直に咲桜にも伝える。


「そっかー。哲ちゃんがそう決めたなら、全力応援するのみ!」


咲桜は拳を握り、気合いの入った表情をしている。


「そりゃ頼もしい。今日、サンキューな!一緒に登校できて良かった。咲桜には早く伝えなきゃって思ってたから。」


「え…あ、うん。」


咲桜があからさまに照れているのが、こちらにも伝わる。


「いや、さ、他の所から耳に入ったら、家に乗り込んできそうだもんな。」


急に恥ずかしさが出てきて、焦るように続けた。


「…だったら、他から聞いても良かったかも。」


テツに聞こえないように小さく呟く。


「直接言ってくれて、ありがとう。他の人から聞いたら、少し悲しかったかな。すこーしね!」


そう言うと、咲桜は小走りで前に行き距離を取った。学校が近づき、友達にからかわれないようにと、咲桜も同じ気持ちでいたに違いない。


「また、一緒に行こうね!哲ちゃん。」


振り返る笑顔の咲桜を朝日が照らす。


「おう。」


そう返事をしながら、少し前に行く幼なじみに目を奪われていた。









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