第7話 両親の想い

「ほー、まさかと思ったが、プロのチームに誘われたされたのか。哲。」


「え!!?なに?どーゆーこと?哲!」


名刺を見ただけで、父は察した。対して母は、状況が理解できていない様子だ。


「下部組織になるけど、うちのチームでやってみないかって。将来性があるって。」


鷲田さんに言われた事を、そのまま伝えた。


「プルルルルル!プルルルルル!」


その時、家の電話がなった。


「はいはい。」


母が、電話に出るため足早で向かう。


「あー母さん、コーチからかも。この件で電話かけるって言ってたから。」


母が受話器を取ると、やはり電話はコーチだったらしく、難しい顔をして話を聞いている。


「お世話になってます。はい。…えー?はい。あー、はい。…まぁ!はい。ありがとうございます!

はい。そーですね!いやいや。…はい、はい。では、ごめんください。」


話が終わったらしい。


「哲、スカウトされたって!?すごいじゃないの!なんで言わないのよ!」


「いやいや、だから今その話をさ、してた…よね?」


思わず、父と顔を見合わせ、笑う。


「早く言わないからー!もう、赤飯炊かなきゃ!赤飯!」


「おい、今食べたとこだろ夕飯。ちょっと落ち着いて、ここ座って。」


父が母を落ち着かせる。

こうなることは予想できた。だから、夕飯のあとにしたのだ。


「赤飯はいいの?赤飯。おめでたいのに。」


母は、めでたいと赤飯を炊きたがる。


「とりあえず今は赤飯は良いから、座って哲の話を聞こう。」


「…そうね。はい。」


母が戻り、ようやく話を再開する。


「で、どーしたいんだ?お前は。」


父からの問いに、正直に今の気持ちを伝えた。

率直に嬉しいと思ったこと。鷲田さんが凄く熱心に誘ってくれたこと。不安がないわけではないが、チャレンジしたい気持ちがあること。最近キーパーにやりがいを感じていて、サッカーも好きなこと。

でも、それでも一番、バスケが好きなこと。


「だったら、行ってこい。練習会。やらなきゃわかんねーんだし、バスケも高校までは部活もない。練習会行って、やるだけやって、ゆっくり決めたら良い。」


父の言葉には妙に説得力がある。いつも、テツの気持ちを汲んで背中を押ししてくれる。


「な、母さん?」


「そーね、それがいいんじゃない。」


優しい笑顔で母が笑う。


「うん。父さんと母さんがオッケーなら、行ってみる。ありがとう。」


やることが決まり、気持ちが晴れた。


「母さん、ちょっと飲むか!今日は。」


「そうね!おめでたいことだもんね!準備するね。」


二人は嬉しそうに見えた。


「哲、親の事気にしてんじゃねーぞ。俺は確かにバスケバカだが、無理に付き合うことはねー、もしサッカー本気でやるなら、本気で応援するだけよ。」


父がそう言ってくれるだけで、「この先何が起きてもなんとかなる」そう思えるくらい心強かった。

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