第11話
男は、
流れ者である。その中でも、最悪の部類に入る。金と引き替えならば、
六の辻で出された
八人の手勢で割っても、数年は遊んで暮らせるほどの
口の端に笑みを浮かべて、又安は命数わずかな――と、又安は予定している――仲間たちを見る。どいつもこいつも、似たり寄ったりの流れ者だ。
手勢の内で最も
木々の間に隠れるようにして口を開けた洞窟を見つけたのは、夕刻も迫った頃だった。
松明をかざしながら慎重に中を調べて驚いた。
ひとの暮らしていた形跡があるのである。一通りの調度類が揃っていた。
屏風の向こうから
槍を構えながら、声をかけた。
自分たちは山に逃げ込んだという盗人を追っている者だ、と。
盗人など知らぬ、とにべもない答えが返ってきた。
なんだか赤子のような、不明瞭な発音だった。
そうかそうか、ところであんたはこんな場所で暮らしているのか――なぞと話しかけながら、又安は慎重に気配を探る。洞窟の主以外の気配はない。細々と並んだ調度類は、古びてはいるが品は悪くない。特に、この屏風は叩き売っても良い値がつきそうだった。
思うが早いか、槍の穂先で屏風を跳ね上げた。
又安は、狩りが好きだ。
獲物が無抵抗なら、なおさらだ。
洞窟から引きずり出して、こうして検分するのに、時はいらなかった。
しゃがみ込んで、毛皮に包まれた首をつかんだ。耳まで割けた口から、だらりと舌が
珍しい紺鉄の毛だ。これもきっと、
腰に
匕首の刃先を死骸の喉に突き立てようとしたその時だ。
かさりと、葉を踏みしめる音が背後でした。
顔を上げて振り向くと、木々の間に誰かが立っていた。
まだ若い男――
夜目にも目立つほどの、真っ白な髪をしている。
八人分の注視など無いものの
誰だ、と問う
当然ながら、八人全員が太刀や槍に手をかけた。警戒はするが、殺気までは放たない。相手は一人きり、それも
槍を構える又安の側までやってきて、小僧はすとんと膝をついた。
「――ころしたか」
平たい声で、小僧が言った。
「これを、なぶったな」
声は、おそらく又安にしか届かなかった。
だからというわけでもないが――又安は笑い出した。
ああ、
実質的な首領である又安の大笑に、手勢の者たちもつられて笑う。
ははは、ははは。
「そうか」
小僧がゆっくりと立ち上がる。未だ、顔は知れない。
風が止んだ。
「おまえたちもおなじようにしてやる」
それが、又安がこの世で見た最後の光になった。
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