第23話 グラハム砦「魔物」

 自称古神龍の化身ライラによれば、ゴブリンの力は大したことは無いが、素早さは人より優れているという。


 吊り上がった目、先が千切れた長い耳、皮膚は汚れただれている。

 跳ねるような動きで醜悪な匂い撒き散らし、人を襲う。


 うかつな奴が一匹向かってきた。

 軽々と弾き返し、追撃で切り裂く。


「もう、ここまで来てるのか……」

 前線はまだ先、何よりも、後衛で待つのは性に合わない。


 ゴブリンより人の方が力が強く身体も大きい。


 名も知らぬ兵が奮戦し、ゴブリンを倒した後、肩で息をしていた。


 飛び出して来た二匹を剣で一匹、二匹と切り捨てる。


 倒れている味方の兵。

 邪魔な奴……。


 起き上がるのに手を貸してやった。

 サッサっとどっか行け!


「す、すまない。これで故郷の」

「待て、それ以上、話すな! 黙って、俺に任せろ!」

 こいつ、勝手に身の上話をしようとしやっがった。


 油断ならん奴!


 戦場で身の上話をする奴は必ず死ぬ!

 その上、聞いた者は悲しい不幸に襲われる。


 なんて、恐ろしい奴だ!


「助けてくれるのか?」

「邪魔だから、退がれと言っている」

 そして、俺の知らぬ場所で、思い残すこと無く続きを喋れ!


 それにしても、ゴブリンの数が多い、うじゃうじゃいやがる。


 個々は互角でも物量が厄介で面倒臭い。


 ズガーンと轟音が聞こえ、注意を向ける。


 最前線に砂煙?


 棍棒を持った巨体、あれがオーク……。

 爆発のような砂煙の正体?


 オークの一振りを今度は見逃さない。


 爆発音と共に舞い上がる砂煙と吹き飛ばされた兵が数十と宙空から落下した。

 ライラの言う通り、豚顔の化け物が、その巨体から発揮させる力は、人を遥かに凌駕していた。


 前線が崩れるのも時間の問題か……。


「き、貴様の助けなど要らぬ! この場から立ち去らんか!」

 いつの間にか、近くに立派な軍旗がなびいている。

 偉そうに馬に跨がる声の主の眉毛が太い。


「たまたま通っただけだ」

 言われなくても立ち去るに決まってるだろう!

 しかし、本陣がこの有り様とは……。


 ノワール伯爵、会議での失態を取り返す為、何よりも己の力を誇示したい一心で、前線に陣を張った大馬鹿だ。


 突然の爆発音!


 距離が近い!


「貴様は退がれ! ここは、わしの見せ場だ!」

 いいや、違うね!


「あんたこそ、退け!」

「き、貴様! わしに向かって!」

 ごちゃごちゃとうるさい奴!


 背中のライラに合図をポンと送った。


「のじゃーーーーーーっ!」

 肩にポンと置かれた幼女ライラが口を開き光線を発射した。


 威力を抑えることで多少の連射が可能となったライラのブレス、のじゃキャノン!


 オークは消し飛び真っ直ぐに道が開く。


 ライラの口からは余韻の煙がプシューと出ている。


「なんだよ、あれ……」

「背中の幼女が光線を撃ったぞ!」

 周りの兵達が驚いている。


 眉太伯爵も口をあんぐりして一瞬固まった。


「そそ、そんなものでは、だだだ、騙されんぞ!」

 何を騙すんだよ!

 てかっ、俺に構うな!


「あんたは、その旗を持って後方で見ていろ!」

「まだ、言うか、貴様!」


 ああ言うね、言ってやるよ!

「最前線は俺たちの仕事場だ! 大貴族様は後方に退がれ!」


 最前線に送られるのは、いつも俺達だ。

 その理由が蔑みから来ているとしても、嫌だと思ったことは一度もない。


 俺達には、それだけの実力があるからだ。


 そう、最前線は俺たちの舞台!


「ま、まさか貴様……(貴族は人を導くのが務め、さらには、前線の軍旗が倒れて士気が下がり、そう崩れになる)心配をしてるのか?」

「心配? してねぇよ」

 馬鹿なの?


「心配をしていない? (わしなら、軍を上手く動かして軍旗を守れると)信頼してるのか!」

「それぐらいなら出来るだろう!」

 信頼も何も、逃げるだけだぜ! 早く行けよ! バカ!


「ふん、生意気な小僧だ!」

「早くいきやがれ! 眉太伯爵!」


「ハハハハ、この無礼者め!」

 貴族ジョーク恐るべし!

 なぜ笑う?

 怒れよ!


 兵達に後退の指示を出し、馬に跨った眉太伯爵が退がっていく。

「後方で貴様の無様を見ておるわ!」


 いちいち疲れたから返事はしない。

 それにしても無様とは言ってくれた。


「おい野朗共! これから俺達の見せ場だ! 奴らにしっかりと見せ付けてやれ!」

 俺の隊に弱い奴はいない。


「隊長、じゃあ僕も後方から見てますね」

 いたよ、マークは弱いからな……。


 シッ、シッと彼を後方に下がらせた。

 アイツも愚者の何ちゃらの発動条件が揃えば役に立つだろう。


「おい、俺はドラゴンを狩りにいくから後は任せるぞ」

「ああ、隊長は行ってください」

 副長のトルンがオークの腹に拳で穴を開けながら返事した。


 飛び散った臓物が彼の顔にかかる。

 うぇっ、気持ち悪い……。


「行く必要は無いのじゃ」

「ブレスを壁にしか撃たないとしても、放っておくのは不味いだろ?」


「そうじゃ無いのじゃ。わしのブレスで落とすのじゃ」

「バカ言うな、弱っちいお前のが、役立つ訳ないだろう」


「なら試して見るのじゃ」

 幼女に変化するような奴が強い訳がない。


 半ば呆れながらライラに合図をした。


「のじゃーーーーーー! のじゃーーーーーー!」

 のじゃキャノン、二連写可能とは、少しビックリだ。


 耳元でライラがプシューーーーと息を吐き出し口を冷却している。


 しかし、ほれ見ろドラゴンが怒ってやがる。

「いってぇーーーーーーっ!」

「やられたたたたたたたた!」


 この後、奴らは本物のブレスを撃ってくる……。


 二匹のドラゴンが地上に落ちて地鳴りが響く。


 なんと呆気ない……。


「主人様は魔物ばかり倒してバカなのじゃ」

「幼女の姿に変化する弱虫に言われたくない」

 まぐれでドラゴンを倒したら調子にのってんじゃねえ!


「わしは気付いてしまったのじゃ」

 よほど口が熱いのか、また、プシューと息を吐いた。


「主人様は人の血が流れないと力が発揮出来ないのじや」


 確かにライラの言う通り、帝国は魔物ばかり前線に送って来やがる。


「今の主人様なら、わしでも勝てるのじゃ」

 プシューーーーと息を吐き出した。


 早く口を冷やせ! バカッ!

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〈悪役転生〉悪魔に天使の微笑みを! 小鉢 @kdhc845

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