第18話 グラハム砦「修羅場」
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彼女たちの物言いから察するに落ち度があるのは俺らしい。
その落ち度とは、説明が足りないこと。
お互いの名前以外の情報提供。
つまり自己紹介。
これに間違いない。
「済まない、説明が足りなかったようだ」
「そうね、説明して頂戴!」
うんうん、二人とも息ピッタリだよ。
「ククル、そっちのメガネをかけた女性は、恋人のリズリット、皆はリズと呼んでいる」
「こ、恋人……」
ククルの反応は新鮮だ。
彼女は驚くと眉毛がピクピクするらしい。
そうリズは三人目のアルカナの天職、世界にたった七人しかいない天職の厄災側だ。
ククルース神話で語られる、神が地上に配した三枚の厄災を意味するカード、それを扱う天職全てが俺の隊に所属している。
ククルは神話に通じているようだから、その驚きは尋常では無いだろう。
「ふん、理解できたかしら、そこのおチビちゃん」
リズはこれでもかと勝ち誇った。
確かにアルカナの天職が同じ時代に存在するのは稀で、それが厄災側となると大概だ。
さらに、リズは組んだ腕で胸を持ち上げて、形の良い大きな胸の質感と圧倒的な弾力を、これでもかと強調していた。
変わった威張り方をする娘だ。
リズの様子もちょっとおかしい。
「チビじゃ……」
ククルはうつむきながら両手を胸元でいじり、口をワナワナとさせ言葉が続かない。
「おチビちゃん、理解できたかしら?」
リズのメガネのレンズがキラーンと光った。
チビ?
ピーンときた!
おい、リズ、その言い方は酷いぞ!
ククルは身体が小さいからな、以前も相当怒ってたし……。
「わ、わたしだって……」
ククルの声は自信なさげにしぼんでいく……。
ほら、気にしてることを言うから、落ち込んで会話がてぎない。
なら、ククルの紹介も、俺がちゃんとしなければ。
「リズ、こっちが、俺が幸せにすると誓ったククルだ。あまり、おチビなんて言ってやるな」
「えっ、誰が誰に幸せを誓った??」
ん? リズの様子がおかしい……。
俺の言葉が足らない?
「すまん、説明不足だ。お互い同意の上、俺の名を彼女の魂に刻み、契りを交わした」
「なにそれ!」
理解出来なかったリズの圧が凄い、そして怖い。
なら、こうだ!
「分かりやすく言うと、ククルは俺の名を、俺は心から彼女の願いを……要するに、お互い思い合ってる」
「隊長の言ってる意味が分かりません!」
さっきより怒ってるよ、この娘!
ククルも上手く説明できない俺に怒り浸透の様子。
「隊長さんたらっ」
ボンッと顔を真っ赤にして怒り浸透だ。
彼女達は紹介下手な俺に凄く怒っている。
なら、前置きを無くして単純に……。
「一言で言うと、お互い思い合ってる仲、そう、お互い思い合ってる仲、これがピッタリだ」
「つまりそれはそうしそうあいつまりそれはそうしそうあい…………」
リズは最近覚えたらしい聞いたことない呪文を唱え終えると氷のように固まった。
ククルの方も長風呂で茹で上がってのぼせたような状態でポワポワと動かない。
人見知りさん同士は初対面で緊張するとお互い固まるらしい。
それにしても凄い温度差だ。
これは個人差か?
「はははは、修羅場は終わったかい?」
いきなりのアレン、こいつが皆から人望がある理由が俺には理解できない。
「修羅場ってなんのことだ?」
「さてね、君たちも早く、砦に入りたまえ」
俺はククルを、アレンはリズを案内しながら砦に入った。
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