第17話 グラハム砦「到着」

 休憩を終え出発した後、帝国の斥候に出会ったり出会わなかったり、異形の襲撃を王国兵の犠牲で撃退したり、山間の村に立ち寄ったりして、ついに目的地が目の前だ。


 古神龍ライムーラ、個体呼称ライラを飼うようになった日から三日が経ち、グラハム辺境伯、その最大の砦、グラハム砦に到着した。


「おい、隊の責任者と話がしたい」

 砦の生成りの軍服を着た王国兵が、俺たちに付いてきた生成りに話しかけている。


 王国を分断するサンローデン山脈、その唯一の切れ目、グランドロック渓谷を塞ぐように建設された王国最大級の砦がここだ。


 デカい壁を感心しながら眺めていた。

 全力の跳躍で、あの霞んで見える壁のてっぺんに届くだろうか?


 試したい……。


「隊長、一応、忠告しときますが、派手は遠慮して下さい」

 トルンが常識あること言う、つまらない奴だ……。


「アニキーー!」

 生成りが手招きをしている。


 あれは知らない人だ。

 ああいうおとこの相手はゴリラに任せよう。


「隊長、俺を見ても無駄ですよ」

「少しは副長らしい仕事をしろ」


「皆、隊長を慕って付いて来てるんすよ。ビシッとして下さい」

 ゴンと背中を叩かれた。


 馬鹿力め、少し痛いぞ!


 背中をさすりながら振り返る。

 いつのまにか増えてしまった……。


 国境付近の王国兵に難民、立ち寄った村人、何人いるんだろう……。


「アニキ! この兵が話があるそうです!」

 ビシッと敬礼してくる……。


 砦の兵が心底呆れた顔で話しかけてきた。

「おい、この灰色の屑人が責任者だとぅ、冗談はよせ」


「確かに悪い冗談だ」

 まあ、こうなるよな……。


「おい、何を揉めている!」

 聞き覚えのある青年の声。


 最後に会ったのは、国境への進軍の前だったか……。


「アレン様、申し訳ありません、この灰色が責任者だと言うもので、つい……」

「手続きは壁の内側に入れてからだ、細かい事で滞らせてはいけない」

 声色は穏やか、でも内容は手厳しい。


 アレンが兵を下がらせる。

 そして小憎たらしいキラキラとした笑顔になる。


「久しぶりだな、アルカナの隊長。それにしても遅かったな」

「いろいろあってな、アレン卿」


「呼び捨てで構わないさ、君たちに地位は関係ないだろう」

 彼はいつもこうだ。

 だから苦手。


 俺の唯一の天敵にして、グラハム辺境伯の長子、アレン・グラハムだ。


「地位は関係ないが、面倒はごめんだな」

「はははは、君らしいよ」

 これだ、これだよ、その笑いは何処から来た、説明を強く求めたい!


 こいつは初めてあった時からこれだ。

 その腹黒さ、侮るべからずと心に強く刻んでいる。


「また人助けをしたのかい?」

「な、何を言ってやがる、成り行きだ」


「はははは、そうかい、そうかい」

 こいつ肩に手を回してきやがった。


 砦の兵が様子を睨んでいる。

 後でまた絡まれそうで面倒臭い。


 そして国境辺りから一緒の生成りの軍服を着た漢達も凄い形相になっている。


「俺のアニキにーー」

 誰のだよ!


 書類を投げ捨て、慌てた様子で遠くから駆けてくる女性の姿。


 灰色の軍服、黒縁メガネに長い黒髪、何よりも皆の目を奪うのは、その上下に揺れる豊満な胸だろう。


「たいちょー、遅かったじゃない」

 凄い突進力、抱きつかれた瞬間、女性らしい肉感に全身を襲われ、よろけてしまった。


「リズ、久しぶりだな、元気そうで何よりだ」

「はい、たいちょー、遅いから待ちくたびれたぞ」

 少し訳ありで隊を離れていた、【恋人ラバーズ】の天職を授かっているリズリットが迷惑な歓迎をしてきた。


 普段は真面目で書類整理が得意な彼女だが、時折、興奮しすぎて俺を困らせる。


 ひとしきり俺を抱きしめ苦しめると彼女はやっと離れてくれた。


「隊長さん、こちらの女性は?」

 ククルの声、少し声が上ずっているから初対面のリズに緊張をしている様子。


「たいちょー、その女は何ですか?」

 まあ、リズの口調も普段より強い、同じように緊張しているに違いない。


 ククルは美しい姿勢で圧を醸し出し、リズは黒縁メガネの位置を整えレンズをキランとさせて応じている。


 それは、緊張しているというより獣同士が威嚇をしているようにも見えた。


 まさに龍虎の争い!


 しかし、何を争っている?

 何を……。


 いや、多分勘違いだろう、人見知りさん同士は、いつもこんなもんだ。多分……。


 二人とも睨むように見つめ合い、俺に視線を送る。


 俺に仲を取り持って欲しいらしい。


 つまり、二人とも初対面て緊張していただけに間違いないということ。


 たく、手間を掛けさせやがる。


「こっちはリズ、こっちククル、二人とも名前を早く覚えてくれ」


「え? それで?」

 仲良く二人は声を揃えた。


 息がピッタリ、とても素晴らしいことだとおもう。


 でも、それで? ってなに!!

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