第12話 裏切り者

「ほら、僕たち!」

 ククルのお母さんのような仕草にガキ共がたじろいだ。


「ななな、なんだよ、【恋人】ラバーズのくせに」

「あ母さんが言ってたぞ、らばーずは、いんらんだからびょーきをばらまくって」

 おい、お母さん! 


 子供になんてことを教えてるんだ!

 しかも、びょーきって何だよ!


 あとあと、真面目で潔癖症なあいつがこの場にいたら、とんでもない事になってたぞ!


 ブルブルと身体が震えはじめた。


 想像し考えるだけで恐ろしい……。


 現にククルも顔を真っ赤にして、

「この子たち、恋人だなんて、やだぁ」

 と激おこモードで、ペチペチと子供達の頭を叩き始めている。


「おら、お前ら、どかねぇと食っちまうぞ!」

 俺も便乗して、両手を上げてガォーと脅す。 


 おらおらぉーー、これで蜘蛛の子を散らせ!


「うう、うわーん!」

 おい、泣くなよ!


 御父兄の目があるだろ!


「うちの子に構わないでっ!」

 若いお母様が泣き出した子をあやしながら、凄い形相で睨んでます。


 でも、あんた! 

 子供に淫乱とか教えてんじゃねぇ!


 騒ぎを聞きつけ、くわやすきなど、柄の長い農具を持った男達が、すぐに集まってきた。


 これ程の絵に描いたような農民が集まると、中々の光景だ。


「我々のことはもう放って置いてくれ」

 代表らしき人物が恐る恐る前に出てきた。


 何を言ってやがる!

 最初からあんた達は、俺にとって、いないも同然だ!


「こっちもずっと前からそのつもりだ!」

 そうだ、あの日から!


「だから、道を開けろ、先を急ぐ」

 クソみたいな天職を授かった日を思い出す。


 あの日から、誰一人として助けてくれる人なんていやしなかった。


 お前らと仲良くなるつもりは、一切ない!


 俺の圧に負け、群衆が割れる。

 道が開けた。


「あれより、マシとは思うがな」

 代表とのすれ違いさま、くいっと背後を指し、嫌味を残す。


「あんなでも、領主様が率いてらっしゃる軍団だ、あんたらより信頼できる」

「そうかよ、じゃあ、達者でな」

 あれが領主の部隊かよ……最悪じゃねぇか……。

 お前ら全滅確定だ!


 いやちょっとまて、前線の直ぐそばの領主が、兵を出さない?


 まさか! 帝国と通じてるのか!


 それとも、王国の国王が間抜けなのか……。

 はたまた、貴族の派閥争いか何か……。


 何れにせよ、俺には関係ない。


 こいつらは、俺にとって助ける価値のない、ただの人間。


「はやく、どっか行っちゃえ!」

 子供の声が無邪気に追い打ちを掛けてきた。


「こーら、めっ!」

 ククルが直ぐに相手する。


 叫んだ子供は親の足元に回り込んで、隠れて覗くように俺たちを見てきた。


「放っておけ」

 歩みが少し遅れたククルの肩を引き寄せ、急がせる。


「もう、放してよ」

 言葉と違い、彼女の重みを身体に感じた。


「あの人たち、放って置いていいの?」

「ああ、俺には関係ない」

「本当に?」

 ククルの瞳は汚れ無く美しい……全てを見透かしているようだ。


「本気だ」

「そう、少し残念……」

 この娘は、心が優しいのだろう。


 あれほどの仕打ちを受けた帝国兵を恨むそぶりをいっさい見せない。


 それどころか、温泉で話した感じでは、帝国のことを心配している様子も見受けられた。


「俺は、お前が思うほど、優しくない」

「……」

 王国兵と難民たちから十分に離れたはず。


 腕をククルの肩から外し、彼女が離れるように促すため押す。

 気のせいか抵抗が腕に伝わった。


「おい、これから街道から脇道にそれる。少しきついが、しっかりついてこいよ」

「ええ……」

 離れた所から彼女は返事した。


 気になることがありトルンとマークを呼ぶ。


「おい、ゴリラ、しばらく、お前のスキルで、アイツらをマークしとけ」


「隊長、アイツらって、王国兵ですか? 難民ですか?」

「両方だよ、この間抜け!」

「はいはい、隊長の仰せのまま。まったく、人使いの荒い隊長だ」

 トルンが張り切り出した様子。


 こいつが本気なら、アイツらを見失うことはない。


「おいマーク地図を見せろ」

「隊長だって持ってるでしょ」

「いいから出せよ」

 マーク、お前はもっとトルンの素直さを見習え!


「何か気になることでもあるのですか?」

「お前なら気付いていると思ったが……」

 彼の広げた地図の一点を指差す。


「そこがどうかしたんですか、僕たちは、そっちの方は、近づかないでしょ?」

「何故か言ってみろ」

 鈍い奴だ……。


「その辺りは、街道を通って帝国本隊が侵攻するルートですよ。そっちに行くほど、僕たちは馬鹿じゃない」


「その通り、ならアイツらは、どうすると思う?」

「行かないでしょ? いや」


「やっと気付いたか!」


「隊長は、何を……」

「そうだぜ、マーク! アイツらがこのまま、街道を真っ直ぐ進むようなら」


「帝国本隊とぶつかる」

「その通り、だから、俺たちが見張る必要がある」


「見張る? 守る義理なんて、僕らには」

「お前は、案外、鈍いな」

 あるんだよ、俺には理由がよ。


 帝国と通じてる奴がいるんだよ!

 アイツらの中に!


「ムカつく、裏切り者は許せないだろう?」

「はぁ? 裏切り者はムカつきますけど……」


「というわけだ、悪いが、予定より険しい細道を行く必要がある」


「はい、やっぱり隊長さんは」

「放って置いても、良いんだか、俺は心が狭いからな」


 裏切り者はムカつく!

 幼かった俺を見捨てた奴らを思い出すからだ。


 だから絶対に許せない!


「そうですねっ♪」

 ククルの声がすぐ脇で聞こえ、狭い道でバランスを取るため体を寄せてきた。


 マークが長い溜息を吐いた。

「難民連れで街道を進むしかない王国軍を助けるなんて」

「う? 何を勘違いしてやがる?」

「はいはい、隊長の仰せのままに」

 マークは呆れたばかりに、スキル使用で忙しい様子のトルンと先頭を替りに行く。


「おい、俺はそんなんじゃ無いんだからな!」

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