第4話 殲滅された町「騎士」
こちらが動き魔法隊の方へ突撃をすれば人外包囲陣は消耗戦に成り下がる。
戦術の教科書にすら記載されている短所。だからこそ、それを承知でする捨て身の戦い。魔法隊の戦術級局地限定魔法が完成するまでの時間稼ぎに過ぎない。
戦争では人の命は存外に軽くなる。いや重さすらない数字。高位の【天職】相手に数十人の犠牲なら大勝利だ。
だが、それは俺にとっては好都合。
帝国の外道とは地力が違う。敵より速く剣を振って斬り殺し、手数が足りなければ、背後に迫った敵の顎を肘で砕き、その反動で鋭い突きを剣で放ち、串刺しにする。
剣の自由が奪われるのも一瞬だ。血反吐を吐く敵兵を蹴飛ばし剣をその身体から抜いた。
「この化け物め、死ね!」
隙ができたと勘違いした帝国兵が上段から剣を振り下ろそうとするもさせない。彼の胴に、一閃、剣を薙ぎ払う。上体は胴から切り離され臓物を撒き散らす。その血飛沫を全身に浴びた。
「化け物はどっちだ。この外道が!」
顔の血を袖で拭い、思わず笑みが溢れ、「皆殺しにしてやる」と無意識に呟いていた。
動揺した帝国兵の悲鳴と「赤い悪魔」という声が入り混じる。さらに敵が密集している場所へ斬り込み、一人、二人、三人と続け様に斬り殺していく。
魔法隊まであと少し、慌てた魔法兵の一人が両手をかざし無詠唱で炎弾を撃ち放つ。
「バカな奴……」
今度はそれを避けてやる。背後で炎弾が弾け同士討ちになった。包囲陣は壊滅。あとは、逃げ出した敵兵の背を感情に任せて追いかける。誰であれ構わない体力は無限、立て直す暇を与えないで皆殺しだ。
一気に距離を詰め、接近戦が苦手な魔法兵を撫で斬りにしていく。地獄絵図の始まりだ。
「殺さないで!」
あの子の声が、心の中で突然響き、強く俺の背中を引っ張り、動きを鈍くする。
強烈な剣撃が横から割って飛んできた。
剣の背に手を当てて、それを受け止める。
ちっ、敵にも天職持ちがいやがったか……。
その強大な力を受けきれず、一気に瓦礫の山まで吹き飛ばされた。
「ランガス! そのまま、止めを刺せ!」
耳障りなハゲ将官の声がグワングワンと頭に響く。
ててて、ちょいと興奮しすぎたな。
ランガスという名の帝国兵を睨み、身体のダメージを確認しながら、ゆっくりと立ち上がった。
「カストロイ少佐は隊と共に撤退を」
俺を吹き飛ばした帝国兵は騎士の姿をしていた。人外包囲陣を指揮した騎士、将官に横にいた奴だ。
「貴様! 上官を指図するのか!」
将官の言葉を聞きながら、俺の立ち上がったのを見届け、彼は両肩をすくめた。
「少々、時間をくれないかね」
ランガスという名の騎士の作り笑いは、顔立ちが整っているだけに、とても気持ち悪いものだった。
「カストロイ少佐! アレを失い、その上、これ以上、無駄に兵を失うなら、私が皇帝陛下の名において少佐を処罰しなければならない!」
「貴様にそのような権利があるか!」
「あるのですよ、少佐。なんなら、中隊ごと処罰しても良いですよ」
ランガスは身の丈ほどある大剣を片手で軽々と振った。その時の音と風圧は凄まじく、遠くの建物が粉々に砕け散った。
傲慢な奴。そもそも兵のほとんどはお前の指揮で死んだくせに……。
「ぐっっ、おい、貴様ら撤退だ! わしに続け!」
将官が不満顔で命令を出すと、帝国兵は怪我人を担ぎながらこの場から去っていく。
「待たせたな」
「ああ、そうだな!」
上段に剣を構え、長い跳躍をしてから、力を込めた剣を奴へと振り下ろす。
とても鈍く乾いた音……。
「軽い剣だ」
ランガスは容易く俺の剣を弾き返したのだ。
「いや、済まない。陛下の予見通りアレと契りを交わしたのだったな」
見下した作り笑い。それに……なぜ契りを知っている?
「意味不明なんだよ!」
そう叫びながら喉元を狙い放った渾身の突きを、奴は事もあろうに手のひらで防ぎやがった!
「悪魔なら、もっと強欲な人間と契りを交わせと言っている」
ランガスは俺の剣を握り、それごと俺を投げ飛ばした。
「陛下の仰った通りだ! 王国の悪魔は最早、敵ではない」
悦に言った声だ。ムカつく奴……。すぐに起き上がり体勢を整えると魔力を練り上げ身体を強化する。
「懲りない悪魔だ。その剣には、何が宿っている?」
「なら味わって知れ!」
意味不明な問い掛けばかりでイライラする。魔力を最大限に絞り出した。周囲がそれに耐えきれず悲鳴あげ、小さな瓦礫が宙に浮き始めている。
「私の剣は【神】なる陛下に捧げている」
「それは大層なことだな」
「下衆には想像できまい。真の大儀の重さを、それが宿るこの剣の強さが。それに、あれはどうせ殺すなとか願ったのだろう?」
「ちげーよ!」
言い終えると同時に素早く奴の胴を狙い剣を走らせた。
それに応じて大剣が剣の行くてを阻む。鈍い音が弾け、衝撃の強さが腕に痺れとなって走り抜けた。
何て硬さだ!
俺の剣は大剣と交わった箇所から真っ二つに砕け、残骸の剣先が回転しながら宙を舞う。
「大儀とはこういうことだ」
構えを解き大剣を背中に収める。
「舐めるな!」
折れた剣を顔面に投げつけ、視界を塞ぎ、低い姿勢で奴の懐を目掛け飛び込んだ。腹に重い衝撃、意識が揺らぐ。気が付けば尻餅をついていた。
「命拾いしたな、小僧、陛下に感謝しろ!」
威風堂々と言い切ると、あろうことか奴は俺に背を向けた。
「貴様、まだ終わってないぞ!」
先程の一撃で腰にまだ力が入らず。ふらふらと立ち上がる。
「もう戦えまい、神なる陛下は【悪魔】を殺すなと仰った」
奴が背を向け歩き始める。
「待て!」
「あれと契約したなら、お前はゴミだ。神の剣を汚す必要はなかろう」
そう言い残し奴は離れ、視界から消えた。
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