(1/2)賀東招二先生の、フルメタル・パニック !のあとがきだけを解説する

言わずと知れた超人気作。

1998年に第一巻・戦うボーイ・ミーツ・ガールが発表されて以来多くの読者を魅了し続け、2010年に完結した。

ミリタリーアクション編となる長編を12冊、学園コメディを中心とした短編集を9冊、外伝が2冊上梓されている。更には多媒体でのメディアミックス化を果たし、2020年現在までに四度ものアニメ化を実現している。


平和ボケした日本に颯爽と降り立った戦争ボケ少年、相良宗介。

千鳥かなめの護衛を命じられた彼は、人型兵器・アームスレイブを駆り、絶体絶命の窮地をいくつも乗り越えていく

――という本筋はともあれ、あとがきである。


賀東氏は一巻あとがき冒頭で、本作を「強いて言うなら『冒険活劇もの』」であり、「B級のアクション映画でも観るつもりで」と読者に促している。

いやはや、とんでもない。B級映画如きが十年以上続く人気作になるだろうか――で「サメ映画 歴史」で検索――前言を翻させていただく。


B級映画と自ら呼称するのは、ハードなSFアクションにドタバタ学園コメディをミックスさせている点にあるのだろう。

筆者の主観だが、賀東氏のインタビュー等を見るに、コメディ調のキャラクター(特に女性)造詣を苦手としている節がある。


しかしながら、フルメタの魅力は前述のミックスに他ならない。

学園要素を除くという事は短編集に収録された全てのエピソードがなくなるという事であり、ここまでのヒットはなかっただろう。

二度目のアニメーション化作品「フルメタル・パニック ふもっふ」等は短編作品のみを扱った作品であり、京都アニメーションと賀東氏とを結びつける強固な契機となっただけに、B級の持つ魅力は計り知れない。


あとがきに書かれているいくつかの注釈について、舞台設定となった某国に対して「拉致しないでください」と、現在になって振り返ると洒落にならない事を書いている。

また、登場する兵器や機械についても「多かれ少なかれASの基幹技術の影響を受けて」いるのであり、スペックを本気にしないでほしいと釈明。

ライトノベルの金字塔を打ち立てたとの評価を得ている賀東氏でさえ、このように書いているのだ。

だから各種●●警察の方々はもう少し寛容な目で見ていただきたいものである。切に。


一巻の謝辞では、小説家の新城カズマ氏の名前も挙げられている。

新城カズマ氏は、個人的にはあとがきの名手だと考えており、後に彼の作品についても書かせていただくつもりだ。


さて賀東氏と新城氏は以前から親交を持っていたようで、三巻・揺れるイントゥ・ザ・ブルーのあとがきではまさかの対談が実現している。


冒頭から不思議なテンションで始まるあとがき。

躁状態に似て、投げやりな印象も受ける。とにかく言葉を並べ立てて文字を埋めようとしているというか。

その中で三巻の分厚さを詫びる一幕があるが、それ二巻・疾る・ワンナイト・スタンドでも詫びていたし何なら二巻より分厚い。


謎のテンションで「空回ってます!」を連呼しながら文庫一頁半を何とか埋めたところで、ゲストとして新城カズマ氏を召還(原文ママ)している。

どうやら賀東氏、(少なくともこの時点まで)あとがきが苦手だったようだ。

「いつもなに書いていいかわからなくて困ります」と明かしている。

ちなみに二巻では主人公の相良宗介を呼び出し、そこでも対話形式を取ってあとがきを埋めていた。

対談形式でいいのかなと疑問を呈する新城氏に、「久々にこれがやりたかったのです」と賀東氏。


本巻の舞台が海であるにも関わらず、美少女艦長の水着姿が登場しなかったことを問題視憂える賀東氏に、新城氏はもちろん、群衆や米国大統領までもが「それは本当か、賀東君!」と憤る。

(読者諸賢においては突然の登場に首を傾げるだろうが、私にもよく分からない。この唐突さは割とあとがきの勢いママである。迷走が窺える)

当時は2000年、世紀末。クリントンが大統領を務めていた。

フルメタが20世紀末を舞台としている事から、21世紀を迎える事に感慨を覚える二人。21世紀と言ったら火星やエアカーだろうと、昭和に描かれていたであろう未来予想図に盛り上がる。

21世紀を迎えてもうじき20年を迎えようとしているが、火星までの道程は未だ遠い。2033年までに宇宙飛行士を送り込む計画があるようだが、果たして。少しばかり近くに焦点を当てれば、月への距離はだいぶ縮まっている。2023年に予定されている月面旅行に前澤友作ZOZO元社長が搭乗するニュースは記憶に新しい。


エアカーそのものはまだ実現していないが、ドローンによる貨物輸送や自動運転など、20世紀当時では考えられなかった技術が確立しつつある。

当時最新鋭だった人型ロボットである本田技研のP3についても、新城氏は言及している。P3とはASIMOの前身であり、二足歩行するロボットとして当時注目を集めた。

人型ロボットの普及はまだ過渡期にあるが、アーム型を始めロボットが製造工場へ採用されるのは当たり前の時代に突入しているし、人型についても、水道橋重工の開発した世界初の搭乗型巨大ロボット・クラタスや、まるで生物のように動くボストン・ダイナミクス社のロボット群等、確実にかねてから描いていた未来に近づきつつある。


閑話休題。


対談形式であとがきを埋めた賀東氏は、新城氏の博学ぶりを絶賛している。何しろ世界の歴史や風俗に留まらず、文法含む言語体系に至るまでを構築してしまう。賀東氏も「少なからず(っていうか、かなり)影響を受けて」いるとのことで、別作品のコップクラフトではそれが色濃く反映されていると言えよう。

新城氏は自著をベースとしたメイルゲームの告知をして去っていく。メイルゲームについては参加した経験がないが、共通の世界観やシナリオに対して、手紙を使って自分がどう行動するかを運営に伝え、反映させていくという形式のゲームのようだ。TRPGやネットゲームに近い――のだろうか。

暴風の如き勢いで迷走したあとがきで三巻を結ぶまでに、賀東氏は短編集を三冊上梓している。


短編集では多くの作家がそうしているように、各話解説を行っている。

その中で賀東氏は中学時代に匿名のラブレターを貰ったと振り返る。

便箋のチョイスや認められた文字からかわいらしい女の子を想像したが、イニシャルが「J・D」だったと。

2020年現在であれば「まさか女子・大生!」とイニシャルが名前じゃなくて身分なのかよというツッコミはともかく男子中学生に女子大生からラブレターが届くという妄想に心躍りそうなものだが、当時女子高生をJKという文化さえなかった時代、そのような想像をする事もなかったらしい。

よく考えなくても中学校に侵入して意中の相手の下駄箱にラブレターを仕込む女子大生なんて居ないし居ても怖い。

それこそライトノベルのネタ――としてもチープか。

ともかくJ・Dというイニシャルに不安を感じた賀東氏は結局無視してしまったようだ。後に級友からのイタズラだった事が判明し、残念女子大生はいなk(略)。


ところで、作家を志す者であれば調べ物や現地取材を行うこともあるだろう。賀東氏もご多分に漏れず、短編「罰当たりなリーサル・ウェポン」の執筆にあたり、現地取材を強行したと明かしている。

近所の神社に出かけた賀東氏のコンディションは最悪だった。

徹夜明けで無精ひげを生やした男が、平日の昼間に境内の周りをうろうろしている。

あくまで取材だが、その奇行は事案と評価されてもおかしくない。「どこからどう見ても「賀東招二容疑者(二〇代・無職)でした」」とは本人談。

その後、見かねてか用件を尋ねてきた神主に対して、本堂の御神体や防犯設備について取材を試みた賀東氏。

質問の答えの代わりに住所と名前を聞かれたそうな。我々も気をつけねばなるまい。というか20年前でその待遇という事は、2020年現在に同様の行動に出れば事案発生となること請け合いである。


続く短編集第四巻・同情できない四面楚歌?は、長編第三巻の四か月後に発行されている。つまり先述の、謎テンションで「空回ってます!」を連呼したあとがきの直後である。


【つづく】


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