ライトノベルのあとがきだけを解説する
【セント】ral_island
はじめに
そもそも私は読書嫌いな子供であった。
小学校四年生の時分である。図書室で本を借りようという特別授業があった。
担任の教師の先導によって図書室に収監された我々四年二組の面々は、本を借りねば出られなくなった。
教師による貸借ルール説明を経て、三十数名いる生徒達が次々と本を借りていく中、私はとうとう最後まで本を決められなかった。
漫画以外の、活字のみで構成された本というものに、まるで興味が湧かなかった。
ファーブル昆虫記やシャーロックホームズ等、恐らくどの図書室にも置いている鉄板シリーズを眼前にしてなお露ほども食指を動かせず、途方に暮れていた。
しかし真に途方に暮れていたのは当然担任の先生の方であることは言うまでもない。
彼女は痺れを切らして私に一冊の本を押し付けた。
「カバ園長のおもしろカバ日記」。
私は彼女による救済をありがたく受け取り、無事に図書室から出所した。
一行も読むことなく返却した。
ライトノベルはそんな読書嫌いな子供をさえ、活字の世界に引き込む力を持つ。
そのきっかけとなった作品等は、実際にライトノベルのあとがきを振り返りながらどこかで触れるとして。
ライトノベル黄金時代はいつかということを考えるとき、私は九〇年代後半から二〇〇〇年代初頭だと考える。
ライトノベルという呼称がまだ定まっておらず、ファンタジー小説、キャラクター小説、ティーンズノベル、あるいは「イラストのついた漫画みたいな小説」等と呼ばれ、書店の隅に展開するマイナージャンルに過ぎなかったあの頃。
少しずつ市民権を得ながらも「オタク気持ち悪い」と後ろ指を差されながら、でもそういう狭いところで身を寄せ合っている感が実は楽しかった、あの頃。
具体的に言えばオーフェンやスレイヤーズを筆頭に富士見ファンタジア文庫が隆盛を見せ、電撃文庫ではブギーポップやキノ、シャナやイリヤが活躍していた頃から、スニーカー文庫に涼宮ハルヒが登場するまでの期間を言う。
とはいえ、誰だって自分が青春を謳歌していた頃が一番だと思うに決まっているのである。
だから本書における黄金時代とは、あくまでも筆者の、またそれを共有し得る読者諸賢の心の中に築かれる、鈍く煌めく奥ゆかしい時代のことを差しているものとご理解いただきたい。
そんな黄金時代のライトノベルを振り返ってみたい。
しかしながら、各作品の解説は多くの先達が既に書かれている。
出版から一〇年以上が経過している作品に対し、いまさら私などが解説陣の末席を汚すのもどうかと思う。
富士見ファンタジア文庫には公式で超解(スーパーガイド)が出版されてもいたし。
しかし、うんうんと三日三晩唸っていても何も出てこない。
いまさら新しい企画も難しいかと思っていたが、妙案というのは全く別のことを考えている時などに、ふと降ってくるものである。
それは営業回りの最中、総武線の中での出来事だった。
そうだ。あとがきの解説を書こう。
そうして本企画は産声を上げた。
あとがきだけの解説は(調べた限りでは)誰もやっていない。それにライトノベルのあとがきは個性が顕著に出ていて、それだけを切り取ってきても十分に面白い。
何より、あとがきは物書きにとって特別なものだ。憧れだ。何なら本編よりもあとがきを書きたいとさえ思う。
裏話や読者へのお礼、次またお会いできることを願って結ぶ、あのあとがき。
本編を書き終えた偉大なる賢人にしか書くことの許されない、あのあとがき。
作品の後に書くからあとがきなわけだが、この前提がまずハードルが高い。
一つの作品を書き終えるには相当な集中力と忍耐力、加えて自己肯定力を要する。
一作書き上げるという偉業を成し得て、初めて我々はあとがきを書く権利を得る。
しかしながら、いざあとがきを書こうと思うと、意外と何を書いていいものかと筆が鈍る。
いやっほーいやっと書けるぜーとバシバシ打鍵できそうなものだが、物語ではない、筆者としての生の声を認めるという行為が、やけに難しい。
書く機会が圧倒的に少ない点が大きな理由の一つ。
例えば原稿用紙三百枚の長編小説に対して、あとがきは長くてもせいぜい原稿用紙十枚程度。
まして、本編は必須だがあとがきは任意だ。
私などは憧れていながらどうも気恥ずかしくて、あとがきを書かないケースも少なくない。
また、新人賞に応募する際にもあとがきは不要だ。そうなると、本編に対してあとがきの経験値は必然的に僅少となる。
にもかかわらず面白いあとがきを書ける作家先生は、やはり尊敬に値する。
何冊も作品を上梓しているからこそ、経験値の蓄積されたあとがきが生まれているのだろう。
あるいは、あとがきを面白く書けるだけの筆力があるからプロ作家なのか。
そんなあとがきを振り返るにあたって惜しむらくは、我が黄金時代におけるライトノベルというものの大部分を、既に手放してしまっているということだ。
本棚の圧迫、金欠、引っ越し――人生において、やむにやまれず本を処分する機会は何度も訪れた。
それらの機会にもこれだけは売るまいと残してきた秀作を、稚拙ながら、紹介していきたい。
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