　消防士の吉光勝也の体調が急変したその日の午後

　18時になると同時に、ピンポン　ピンポンとチャイムがなり、全てのテレビチャネルが同じ画面に切り替わった。そこには記者会見場が映し出されていた。字幕には会見が始まるまでしばらくお待ち下さいの文字が流れ、官僚らしき人物がバタバタと走り回っていた。

　しばらくすると、スーツにマスク姿の安藤総理大臣がゆっくりと歩いて来て、マイクの前に立ち止まりマスクを外し話し始めた。

「只今より、政府の重大な発表を行いす。この発表は全ての日本に住む方の為、世界中の人類の為に必要な内容になっております」

「まずは、現在医療に携わっている全ての方に深く感謝申し上げます。その中には直接的な医療関係者だけでなく、医薬品、機器の製造販売、病院内で働く全ての方々も含まれます。また、医療以外の分野におかれましても、生活のライフラインに関わる全ての方々に感謝しております」

「さて先日出された緊急事態宣言において、国民の皆様にある一定の制限をお願い致しました。しかしながらその効果は限定的で、現在も着実に感染者が増え、死亡者が日を追って増加する状況下で医療関係者も疲弊している状態でございます。このままいくとあと数日で医療崩壊が確実な情勢になっております。医療崩壊がおきますと、必要な治療が全く行われなくなり現状でも高い死亡率が更に高くなる状況が逼迫しています」

「このままの状態が続けばその危惧が現実のものになる事が時間の問題になっております。それらの事を鑑みて、今ここに日本国内全土に非常事態宣言を発令致します。本日より法的に強制力を持つ数多くの施策を速やかに発令し、このコロンウィルスの終息へ向かわせます。そのためには国民の方々には更なる不便を強いられる事もありますが、どうかご理解のうえご協力くださいますようお願い致します」

総理大臣は深く頭を下げたあと話を続けた

「それでは現在決まっている内容を発表致します。まだ草案の部分もあり実現まで少し時間の必要なもの、またもう少し詳細を詰める必要なものもありますが、概要を理解して頂きたいと思います」

「現在自宅待機等で職が無くローンやクレジットの支払いに困る個人の方、建物等の設備投資で負債のある法人それぞれが収入の無い状況での支払いに困っております。そのためには、まず第一に銀行、クレジット等の全ての負債の支払いを法的に6ヶ月ストップします。その中にはリース等も含まれます。6ヶ月分を減額されるわけでは無く、一時利息計算を含めストップした7ヶ月目からまた支払いが続くということです。ですから返済金額に増減はございません。これにより資金繰りの苦しくなる金融機関等が出てくるかもしれませんそれらは個別に政府が全力で支援いたします」

「また、多くの店舗の休業や施設閉鎖により、個人法人共に家賃の支払いが迫ってきます。その負担を軽減する為に全ての賃貸料を3ヶ月間9割以上のカットを義務付けます。余力のあるオーナーの方は可能な限り10割カットをお願い致します。負債のあるオーナーの方も最初の政策により返済が6ヶ月猶予されますので、どうかご理解をお願いいたします。これも即時実行をお願い致します。それにより、生活が困窮するようなオーナーは来月移行個別に対応致します」

「三番目に全国民に一律10万円を支給いたします。支給方法は早急にまとめてオンラインで申請後速やかに振り込みできるよう手配いたします。オンラインの苦手なご高齢の方に関しては年金口座を利用してお振込いたします。又はお電話いただければ空間を隔離してお話ができる車両を手配しておりますのでこちらからお伺いさせていただきますが、その場合にはお時間を少し頂きたいと思います。これは困窮する家庭の方への給付を目的にしております。そのために一時的に全員への給付になりますのが、ある一定の年収以上の方々に関しましては、後日税金の形で返還していただきます。そのラインについては現在検討をしている段階ですが、まずが給付が急務だと思っております」

「4番目に2日後より1ヶ月間の必要最低限の店舗や会社を除き閉店、閉鎖をお願い致します。職種等は経産省のウエブに掲載いたします。大きく言うと、食品を扱う店舗会社、生活必需品を扱う店舗会社、デリバリーを行う飲食業やホームセンター等になります。また、交通インフラや通信インフラに関わる会社等出来るだけ細かく掲載しておりますので、確認お願い致します。例えば通信インフラで言えば携帯電話の故障相談は良いのですが、機種変更等は不要不急の案件となり対応できません。そのような内容を出来るだけ詳しく書かれていますが、足りない分もございます。また、細かいところが書かれていない業種に関してはその都度アップデートしてまいります。なお、そこに掲載されていない業種に関しては出社をする労働者がその会社の10％を超える分に対して200％の割増手当を義務化いたします。これに違反しますと後日労働者へ200％に更に100％の割増手当の支払い命令と労働者1人あたり100万円の罰金を支払っていただきます。10人未満の小規模事業所は1人までは通常ですが、2人以上だと2人に割増手当が必要になります。なおテレワークが可能な会社の社員の方は、テレワーク時には今まで通りの給与になります。あくまでも出社が必要な社員の方のみになります」

「5番目に現在の医療介護に関わる保険点数を期間限定で大幅にアップいたします。具体的にいいますと、その期間に医療に関わる方の給与を2倍にしても十分な程のアップ及び補助を行って参ります。ですから関係者の方はそれらのアップ分が危険を顧みずに働いている全ての職員に行き渡るよう手配をお願い致します。それらがきちんと現場の方に行き渡らないような事があれば、後日税金という形で返還して頂きたいと思います」

「6番目に教育ですが、国公立私立含め全ての学校を1ヶ月間の休校と致します。その間は自宅での遠隔授業を行います。またIT機器を利用した自主学習を含め出来る限りの援助を行います。保育園幼稚園に関しては先程国が認めた業種のお子様のみを預かり、それ以外のお子様に関しては全て実費の費用での預かり以外は認めません。ただし、ご家族の感染等によるやむを得ない理由の場合にはその都度対応をしていきます」

「医療関係でマスクやアルコールが市場に出て回らない状況が続いております。医療用資材の不足は医療崩壊に繋がる可能性があり、早急に対応が必要なため、マスクやアルコールに関しては基準価格を設定し、それ以上での販売を禁止する予定です。段階的に基準価格をさげ、昨年同時期比で2倍以内に押さえたいと思います。ネット販売を含めて違反した個人法人には莫大な課徴金を設定する予定です。それらを監視するするスタッフも集めております」

「最後に今回の事で食品ロスなどが出る可能性があります。それらに関しましては早急にウェブで販売出来る体制をとります。食品等の賞味期限があるもので、割引販売をするもの限定で作り、会社を登録して商品を登録すればすぐに販売できるサイトの作成をすでにお願いしております。これらの発送は全て全国1000円で発送できるように配送業者数社と契約をし、クレジット払い又は代引きで発送できる体制をとります。国民の皆様はできるだけ食品ロスを無くす為にご協力お願いいたします。また食品ロスに関しては廃棄前に、施設へ寄付する事や、無料で配布した実績があれば後日その分を寄付として控除いたします。突然の休業ででる食品の廃棄減少への協力お願い致します」

「以上が今回の骨格になります。詳しいことは明日各省庁のウェブに掲載いたします。また各省庁のSNS等でも発信してまいります。この世界的な国難を皆様のご協力によりなんとしても乗り越えて行きたいと思います。全ての国民の皆様、ご協力をお願いいたします。以上を持ちまして非常事態宣言の発表とさせていただきます。ご質問等あると思いますがまだまだ詰めないといけない事が多数ありますので、本日は質問はお受けできません。質問は出口に質問箱を用意しております。それらは全て明日以降ウェブにて回答させていただきます。本日はありがとうございました」

総理大臣は一礼をすると、足早に記者会見場を去って行ってしまった。残されたマスコミは質問する時間も無く去った総理大臣を見送るしか無かった。