1ー2ー12
本来ならば数年間続いたであろうと語られるほどの規模を誇ったこの祭りは、
急遽中止となった祭りの様子を見て虚ろな笑い声響かすフェリシアにより、暫く
「狂王と嫉妬王が来るぞぉぉ!!」
「まだ死にたくないよぉ!!」
「免職は嫌だぁぁ!!」
「でも、俺ら戻ったら死刑じゃねぇの!?」
「そんなぁ!!」
「夜逃げだ、夜逃げだぁっ!!」
熱狂から一転大混乱へと陥る最中、
「マリナの放送で凄いことになったな……」
「人間って、本当に凄いですね……」
終末でも来たのかの如く狂乱した群衆の中をすり抜け避難した2人は、冷や汗を流しながらしみじみとした様子でそう呟いて。
アスモはふと思い出したかのような表情を浮かべると、何気ない口調で問いかける。
「和輝さん、王国での仕事について説明は受けましたか?」
「いや、まだだけど?」
表情を変えることなく呟く和輝の声に、安堵の表情を浮かべるアスモは和輝の手に触れ体を寄せて。
「今は解らなくてもいいです。だから、覚えていてください。あなたと戦う全てが敵ではないことを。常に何かがあると疑うことを」
「いや、えと……」
慌てる和輝の様子に微笑みながら静かに穏やかに言葉を紡ぎ、それ以上何を言うこともなく和輝を見つめ。
そんなアスモに手を伸ばしてはまた下ろし、口を開けるも掠れた息を微かに吐く和輝は微笑むアスモから視線を逸らすと天仰ぎ。
「さぁ、祭りも終わりましたし、帰りましょうか!」
暫し時間が経った後、立ち上がると同時にそう告げるアスモは、和輝と出会ったときと同じく月の光に当てられ佇む夜桜が如く美しく静かな笑顔を浮かべて手を伸ばす。
「あ……うん」
そんなアスモの様子に釈然としない表情を浮かべる和輝だが、何を言うこともなくアスモと共に
そう時間を置くこともないままに、柔和な笑みを浮かべるアスモは和輝へと視線を向け。
「王宮はこの道を真っ直ぐです。私はこっちなので、お別れですね♪」
「そう……」
アスモの声に名残惜しげに呟く和輝だが、ふと気づいた表情を浮かべると言葉を止めてアスモを見据え。
「何で……」
「今日はありがとうございました、和輝さん!」
その顔に疑問を浮かべて口を開いたその瞬間、遮るかのように声を張るアスモは和輝曰く迫力のある笑顔で詰め寄った。
「とても楽しかったです♪」
「……あ、うん。俺も楽しかったよ」
「また会いましょうね♪」
目を見開く和輝に重ねるように言葉を紡ぎ、困惑の表情浮かべる和輝はそれ以上何を言うこともなく息を吐き。
「ありがとう、アスモ」
疑問の表情を消しアスモへと視線を遣ると、ただそれだけ優しく告げた。
そんな和輝に表情を消し首を傾げるアスモだが、ふと気づいたような顔をすると苦笑して。
「ふふっ、そう言ってもらえると私も嬉しいです♪」
また会いましょう。
表情を戻し微笑むアスモはそう告げて、和輝に背を向け歩き出す。
「あぁ、またいつか!」
「本当、垂らし込むの上手いんだから……」
背後より響く和輝の声に、アスモは誰にも届くことのない微かな声を響かせて。
隠す相手のいないその顔は、夕日の如く紅に染まっていた。
和輝たちが笑顔を浮かべている頃、一方の天界では。
「夜逃げじゃぁっ!!」
「待たんか
「スラオシャが来るよぉ!!」
「死にとぉない、死にとぉないぞぉぉ!!」
神々たちが、
「落ち着かんか、死に損ない共」
そんな中響く、凛とした低い声に夜逃げの準備をしていた他の神々は身を強張らせ。
その声の主、アンドロメダは威厳さえも滲み出る凛とした雰囲気を放ちながら問い掛ける。
「スラオシャの現状は解りました。今取り押さえているミカエルも、そう長くはないと?」
「は、はい!」
それは、天界が失って久しい、神々しさすら感じさせるほどの佇まいだったといい。
かつてないほど女神らしいと噂されることとなるアンドロメダの様子に、身を強張らせるラファエルはこの人誰だと冷や汗流し。
やりにくさしか感じなかったという天界の大手
そんなラファエルを見るアンドロメダは、悪戯でも成功したが如く笑みを浮かべて腕を組み。
「では、今回はこれで恩赦を出しましょう」
圧力に満ちた同意求める視線を他の神々たちに突き刺して、何度も大きく頷く神々たちに鼻を鳴らして視線を戻す。
「それと、ラファエル」
「はいっ!」
「スラオシャに伝えておきなさい。あまり好き放題やっていると、もう1回事務官に叩き落とすぞと」
獰猛な笑みを浮かべそう告げるアンドロメダは、それ以上何を言うこともなく高笑いを響かせ転移して。
「……アンドロメダ様が凄く嬉しそうなのは何でだろう」
頭上に疑問符を浮かべながらそう呟くラファエルは、無邪気な表情を浮かべながらミカエルの元へと戻って行った。
「ラファエル! どうだった!」
「あ、はい。恩赦出ましたよ」
ラファエルを見つけるなり響く、スラオシャを抑えるミカエルの悲痛な声にラファエルは気楽な声を響かせて。
それを聞くや、ミカエルはスラオシャの耳元で大声を響かせる。
「聞いたかスラオシャ! 恩赦だ!! 恩赦が出たから落ち着け!! お前はもう事務官じゃないんだ!!!」
「ホントニ……?」
挙動を停止するスラオシャは、首を動かし虚ろな瞳をミカエルに向けると壊れた声を響かせて。
「あ、あぁ! 本当だ!! 本当にお前は事務官を免職にされたんだ!!!」
「その言い方はちょっと引っ掛かるけど……」
懇願するかのように響くミカエルの声に、その瞳に虹彩を戻して半目でそう言葉を紡ぎ。
そんなスラオシャに息を吐き、離れるミカエルはラファエルへと視線を向けて問いかける。
「そういえばラファエル、どうやって上を説得したんだ?」
「スラオシャ先輩が天界と地球滅ぼしそうだー、って」
「「……え"?」」
だが、何気なく紡がれたラファエルの言葉に空気は凍り。
「今、何て……?」
スラオシャは、掴み凍った笑みを浮かべラファエルの肩を掴んで問いかける。
冷や汗を流すラファエルは、何を言うこともなく笑顔を浮かべミカエルを仰ぎ見て。
「……何てことしてくれた」
頭を抱え地に伏すミカエルの様子に立ち尽くし、黙ってスラオシャに揺さぶられる。
ラファエルが齎した二重の意味での混乱は、上も下も大騒ぎの収集つかぬ混乱へと陥った。
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