1ー2ー11
和輝の従者たちが不穏な空気を放つ一方で、様子を知る由もない和輝はといえば。
アスモと共に、廃墟立ち並ぶ無人通りを歩いていた。
強張った表情を浮かべ冷や汗を流す和輝と、難しい顔をして考え込むアスモの様子は、
浮気男と、慰謝料取ってやろうかと考えている女の構図だと口を揃えたそうな。
そんな2人の間には、余人が入り込む隙がなかったというが。
ふと気づいたかのような顔をして、唐突に笑顔を浮かべるアスモは側方指差し弾んだ声を響かせる。
「和輝さん! 次あそこ行きません?」
殺される。
血の気が退く和輝はそんな表情を浮かべて後退り、震える体を動かしアスモが指し示す場所へと視線を遣ると。
花火会場を思わせる絵に、目を見開き拍子抜けとでも言いたげな声を響かせた。
「おお! 今度は普通だな!」
「和輝さん、その発言の意図をお教え願いましょうか」
「あ、アハハ」
安堵の表情を浮かべる和輝に半目で問い掛けるアスモだが、対する和輝は掠れた息を吐くだけで。
臓器密売の所まで連れていかれるのではないかと思ったという和輝は、アスモより視線を逸らして虚空を見つめ。
「ま、まぁまぁ、早く行こう!」
「ちょっと、話は……」
何もかもを放り投げ、和輝はアスモの手を引き看板がある場所にまで移動する。
「え……」
そんな和輝の様子に目を見開くアスモだが、柔らかな笑みを浮かべ手を握り返して和輝を見遣り。
「まるであの時みたい……」
何もかもを棚に上げ、和輝の隣に並び立つと優しくその手を引っ張った。
2人が花火会場の敷地に足を踏み入れたその瞬間、地面に描かれた魔法陣が光り2人を転送し。
2人は頭上で爆音を響かせる、本物の花火会場へと転移する。
「もう始まっているみたいですね」
頭上の爆音を指で差すアスモはそう告げて、慣れた様子で和輝の手を引き
「やっぱり、花火は凄いですねー」
花火へと視線を送ると、感心したかのような声を響かせた。
そんなアスモの顔を見て息を呑む和輝だが、視線を逸し花火を見遣った瞬間その顔は驚愕に染まり。
「ちょっと待とうか! これ本当に花火!?」
頭上で笑い踊る炎に、目を剥き腹から咆哮した。
生物が如く規則性なく上下左右に移動して、笑い声を響かせながら回転したりと好き放題やっている炎を指差す和輝は声にならぬ声を微かに紡ぎ。
そんな様を見つめるアスモは、不思議なものでも見るかのような視線を突き刺すと。
「えぇ、花火ですよ?」
首を傾げて和輝を見つめ、何か変ですかと真顔で返す。
そんなアスモの様子に虚を突かれたが如く挙動を停止する和輝だが、アスモが口を開いた瞬間頭上で自身を興味深げに見つめる炎を指差し叫ぶ。
「これを花火と認めていいのかよ!?」
「いいんじゃないですか?」
「軽いな!」
荒く息を吐く和輝は続けてと炎で文字を描く自称花火に引き攣った笑みを浮かべると大きく息を吐き、一度息を整えるとアスモの方へと視線を向け平坦な声で問い掛ける。
「どうやってんの、これ」
そんな和輝に、アスモは表情を変えることなく空を見上げて踊りに興じる炎を見上げ。
「マナを集めて魔力でドカーンと」
「マナ? 魔力?」
さも知っていて当然とでも言うかの如く流すアスモに、付いていけないとでも言いたげな表情をする和輝。
そんな和輝の方へと視線を戻すアスモは首を傾げて虚空を見つめ、ふと気づいたような顔をして。
「マナは大気中にある魔法の媒体、魔力は魔法使うときの起爆剤のような物ですよ♪」
もう一度和輝へと視線を戻し微笑み告げるが、微妙な顔をする和輝の様子に呆れたような視線を送ると息を吐き。
「……ここ、異世界っての理解してます?」
「あぁ、なるほど!」
顔を寄せ囁くアスモの声に、マナとか魔力ってよく聞くあれのことねと納得したように頷いた。
これで理解するのかよ。
内心そう突っ込んだというアスモだが、それを口に出すことなく曖昧に微笑み浮かべて押し黙り。
「てか、要は爆発させてるだけでしょ? 何でこんな動くの!?」
そんなアスモの内心を知ることのない和輝は、ふと気づいたような表情をしそんな説明で騙されるかと叫ぶ。
「聞いてくださいよ! そこが凄いところなんです!!」
そんな和輝に詰め寄り興奮したような声を響かすアスモは、距離を取る和輝の腕を掴み顔を近づけて。
「マナを1つに集めて実体を与え、行動できる空間を指定して自由に動かせる、人間の叡知が詰まった魔法のような代物で……」
熱籠もる声を響かすが、幸せそうに語るアスモの顔から視線を外す和輝は何を言うこともなく天見上げ。
時折感情籠もらぬ相槌を打ちながら、踊る他称花火を見つめていた。
和輝がそんなことをしている間に、天界はといえば。
「書類が1枚、2枚、3枚、4枚、5枚、6枚、7枚、8枚、9枚……1枚足りないんですけども~!!」
天界の一画で、どこぞの怪談を実演している
「何をしている、スラオシャ」
そんなスラオシャに、後ろから茶色がかった金髪を背中まで伸ばした女性が声をかける。
その声に振り向くスラオシャは病的に淀んだ目を見開き口を吊り上げて。
「ちょうどいいところに来たな、ミィカエルゥ~」
「ひぃっ!」
目撃者曰く化物とまで呼ばれる表情を浮かべるその様は、スラオシャに声をかけた彼の有名なミカエルにさえも、潜在的な恐怖という感情を叩き起こさせるほどだったといい。
「この書類、1枚足りんから……責任者ぶっ殺して来い」
酒瓶片手に病むスラオシャには得体の知れない迫力があったと、ミカエルは震えながら後に語る。
「落ち着け、1回落ち着け!!」
お前がやらんならワシが行くで。
そんな座った目をして腰を浮かせたスラオシャを、ミカエルは一生懸命押さえつけ。
「お、おい暴れるな!!」
「止めるなミカエル! この腐った天界ぶっ潰すんじゃあっ!!」
「お、おいラファエル!!」
暴れるスラオシャに悲痛な叫び声を響かせて、近くを歩く者に目を向けるやその名を呼び。
後に、よりにもよって何でこいつを呼んだのだろうと後悔するのは、また別の話だろう。
「はーい、お呼びですかミカエル先輩」
「今すぐ主神級の方々に、スラオシャの恩赦出してもらえ!!」
「え? どう言えばいいんですか?」
「お前らの首取りに動きそうだとか言っとけば、震え上がって恩赦出してくれるだろう!」
「え、あ、はーい」
そんな間の抜けたラファエルの声を他所に、ミカエルはスラオシャを一生懸命押さえつけていた。
天界でそんなことをしている内に、神帝王国王宮では。
「おし、この祭り止めさせるか」
勢いが衰えるどころか時間が経つにつれ益々盛り上がる祭りの様子に、忌々しげに言い放つ国王フェリシアがいた。
「いいんじゃない?」
「てか、どうやんの?」
「多分軍隊も向こうで遊び呆けているから、何もできないと思うよ」
「「あいつら……」」
軽い口調でそう告げるサキとナナの声に、どうしてやろうかと暗い微笑み湛えるサナとフェリシアは呟いて。
そんな2人を見るマリナは、サナとフェリシアを囃し立てる
「分かった。私がやってみるよ」
ただそれだけを告げると部屋を出て、魔道具並ぶ放送室へと足運ぶ。
「「……何やんだろ?」」
頭上に疑問符を浮かべる他の4人はそう呟くと、それ以上何を言うこともなくマリナを追いかけ放送室の後方を陣取って。
4対の視線を受けるマリナは深く息を吐くと最奥にある拡声器の前まで歩み、椅子に座り大きく息を吸い込むと。
「緊急放送! 緊急放送!! 現在狂王フェリシアと、嫉妬の軍団長サナの生存を確認! 直ちに馬鹿騒ぎを止めなさい!! 最悪、2人が乗り込み参加者全員が処刑されることもあります!!! 直ちに命を守る行動を!! 繰り返す!」
「「やかましい!!」」
鋭い声が響くと同時に、マリナの頭は2本の足により魔道具に埋まる。
「「そんなので終わるわけが……」」
「ちょっと、あれ……」
額に血管を浮かべて詰め寄るサナとフェリシアだが、震える手で窓の外を指差すサキの声に肩を震わせ掠れた笑い声を響かせて。
「いやいや、まさか……」
「そ、そうだよね……」
引き攣ったような笑いを浮かべて窓に近づき、緊張した面持ちで外を見ると蹲り。
「「何でだぁぁっ!!」」
祭りの勢いが消える状況に、腹の底より叫び声を震わせた。
マリナの声が響いた瞬間、祭りの会場では至るところから舌打ちの音がしたというのだが。
放送終了5秒後には既に、上りも音楽も花火も消え浮かれた空気は霧散して。
王宮周辺の喧騒は消え去り生物は皆息潜め、静寂が跋扈し恐怖は踊り。
そんな外の様子へと昏い視線を突き刺して、どうしてやろうかと呟く女王フェリシアと軍統括官サナがいた。
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