1ー2ー10
拉致される前の世界で起こっていることなど露知らず、渦中の天神和輝はといえば。
「あのー、和輝さーん? 終わりましたよー?」
アスモの放った魔法を見て、呆然としていた。
そんな和輝の眼前で手を振り私何かしたっけかと首を傾げるアスモがいたのだが。
「今のは、ティロ・フィナー……」
「違います」
和輝の声を遮るようにして言葉を被せ、若干落胆したかのような表情を浮かべる和輝を半眼で見つめて呆れたような声を響かせる。
「何露骨に嫌そうな顔してるんですか……」
そんな和輝に息を吐くアスモは、ふと思い出したかのような顔をして表情を戻し体を前に乗り出すと、人差し指を口の前に立て囁いた。
「私があんな魔法使ったのは、内緒ですよ♪」
「あ、はい……」
そんなアスモに息を飲む和輝は、即座に視線を逸らして息を吐くと首を振り。
「あんな魔法、使えたら楽しいだろうな……」
「え?」
寂しげな声を響かすが、対するアスモは戸惑ったような表情を浮かべ掠れた声を微かに紡ぎ。
アスモの表情が変わったその瞬間、驚愕の表情を浮かべる和輝は手を伸ばす。
「あの、ごめ……」
「和輝さん、私よりもっと凄いの使えるじゃないですか」
だが、続くアスモの声にその手は止まり空を切り。
何を言っているんだ、この子は。
一切冗談味のないその声に、そうとでも言いたげな表情を浮かべる和輝は掠れた息を吐いてアスモを見つめ。
そんな和輝の様子にふと気づいたような表情をするアスモは、驚愕に目を見開き和輝を見つめ。
「まさか……!」
「何を……」
「黙って!」
その瞳を黄金に染め必死の形相で和輝の心臓がある位置へと手を伸ばし、困惑したような声を響かす和輝に鋭く言い放つと目を瞑り。
〈
小さくそう呟くと同時に目を開けて、黄金に輝く瞳を和輝に向けその瞳に鋭い眼差しを突き刺して。
「そんな……」
視線を外し蒼白な顔で言葉を紡ぐアスモは信じられないと呟きながら徐に和輝より距離を取る。
「因果も成果も、存在しない……?」
「……え、えと……?」
瞳の色を戻して頭を振るアスモに手を伸ばす和輝だが、その手はアスモに触れることなくただただ困惑の声が空虚に木霊して。
「とりあえず、ここを出ましょう……」
「いや、何があったよ……」
蒼白な顔を和輝から背けるアスモは入口へと歩き扉を開けて、遠慮がちに問いかける和輝の声に何を言うこともなく扉を抑え。
「いつかきっと、分かることを願ってます。……解らない方がいいかもしれませんが」
どんなことになろうとも、私たちは私たちですから。
ただそれだけを告げるとアスモは口を噤んで押し黙り、そんな様子に不思議そうな表情を浮かべる和輝は何を言うこともなく建物より離れ。
「今度は全部、消えたのか……」
震える小声で呟かれた声は、微かに木霊し掻き消えた。
一方その頃、リィネとサクラはといえば。
祭り会場の片隅で、異質な空気纏うマナに剣呑な視線を向けていた。
「あなた、何者?」
「ご挨拶ね。今はそんなことどうでもいいでしょ、面倒くさい」
無機質で感情のない声を響かせ問いかけるリィネの声に、対するマナは世捨人が如く諦観に満ちた感情籠もらぬ声を響かせて。
「じゃあ、こう聞けばいいのかしら? なぜ私たちを、知っている」
警戒心を隠さぬサクラも同じく低く威圧するような声で問いかけるが、そんな2人の様子にマナはどうしたものかと息を吐き。
「いずれ解るから、祭り回らない?」
「あんたの血祭りに?」
「それは困る」
「じゃあ吐け。私たちが生かす価値無しと判断する前に」
「はぁ、面倒くさい」
疲れたように息を吐くと手を伸ばし、目を見開く2人にただ告げる。
〈跪け〉
「あんた、何を……!」
その瞳を深紅に輝かせるリィネは手を伸ばし、雷電をマナの頭部へと放つも弾かれて。
目を見開き地を蹴る2人だが、目を見開き膝を就く。
「「かはっ!」」
「何なら殺してあげてもいいんだけど、面倒くさいからいいや」
血を吐く2人は忌々しげな視線をマナへと向けると地に倒れ、そんな2人を一切の感情を浮かばぬ顔で見下ろすマナは嘲るような声を響かせて。
「私の正体探ろうとしたら、殺すよ」
そう告げるマナは、宙に浮かぶとこの場所より離脱する。
片隅でそんなことが起こる中、周りに漂う祭りの熱気は留まることを知らず上昇していた。
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