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王宮で一幕あってからのこと、祭りは大きな花火と共に幕を開けた。
そんな様を、王宮の国王執務室より冷たい目で見ている5人の人影があった。
「今どんな気持ちよ、サナとフェリシア」
「……聞いてくれるな」
「……この国滅ぼしたい」
憮然とした表情をする軍統括官サナと女王フェリシアは、からかうような声響かすサキに恨めしげな視線を向け吐き捨てるようにして言い放ち。
「あんたらの人望すごいな」
そんなサナとフェリシアを他所に、素直に感心するマリナがいた。
あまりの悪意の無さに、サナもフェリシアも黙るしかなかったというが。
「これ、歴史に残る規模の大祭じゃない?」
「しかも、名称が『暗国王と魔将軍の討伐祭』ってのが笑えるんですけど!!」
「アッハハハ!! それな!!」
「「……こいつら、超しばきてぇ」」
さらに煽りをかけるサキとナナに紡がれる怨嗟の声は、2人のばか笑いと1人の押し殺したような笑い声に掻き消され。
笑い声が収まってくる頃に、不機嫌を態度で表すフェリシアは昏い目をサキとナナの方へと向け問いかける。
「それで、あいつの情報は掴めたの?」
「勿論!!」
「その事教えるためだけに、わざわざ祭り放って淋しいあんた達の所に来てやったんだ、泣いて平伏し感謝を捧げよ!」
「「……殺すぞ」」
重圧に満ちたその声は、割と本気の殺意が籠もっていたというのだが。
そんな殺意なぞ意にも介した様子を見せず、サキとナナは上機嫌な表情を浮かべたまま腕を組み。
どこにそんな度胸があるのかとマリナは本気で驚嘆したと言うが、それはまた別の話だろう。
「本当に天界からの回し者だってさー!」
「しかも、本人は何故か知らないらしいけど、凄く偉い天使達から気に入られてたよー!」
「えぇ、今天界のお偉いさん方には興味津々ですよ!」
「へー、そうなんだ!」
だが、何気ない様子で言葉を紡いでいた者たちは、ふと気づいたように口を噤んで時間を止め。
顔を見合わせ辺りを見渡すと、さりげなくいる6人目の影に視線を重ね。
「「え?」」
何これ?
視線の先にいる桜色の髪を肩まで伸ばす
「あー、どうもどうも! 和輝さんの守護天使、可愛い可愛いラファエルちゃんです♪」
「……は? まさか、あの大天使の?」
そんな人間たちの反応に悪戯が成功したかのような笑みを浮かべるラファエルだが、信じられないものでも見るかのような表情を浮かべるはマリナとフェリシアだけで。
呆れたような表情を浮かべ蔑むような視線を向ける他の者たちの反応に、口を尖らせると腕を組み。
「むぅー、私、これでも大天使ですよ? 下界に降り立つだなんて滅多にないんですよ?」
全く以て威厳のない抗議を口にするが、そんなラファエルは捨て置かれ。
マリナとフェリシアがサキとナナへと視線を遣ると、二人は頷きラファエルに近づいて手を翳し。
「「……ね?」」
「……何ですか?」
疲れた声と共に落胆したかのような溜め息を重ねる人間たちに、頬を膨らますラファエルは半目で視線を突き刺して。
そんなラファエルから視線を外す周りの人間たちは、揃って口を開くと呟いた。
「「……ありがたみねぇー」」
重なる一切の悪意含まぬ平坦な声は、ラファエルの心を深く抉ったといい。
「……泣きそう」
天を仰ぎそう呟くラファエルは、私何かしたっけかと呟いて。
「天界のお偉いさん方から、帝国軍作ってまえとの伝令ありましたが、私傷心中なんで帰りますね……」
頬に落ちる涙を拭い、ただそれだけを言い残して消えてゆく。
「「いやいやいや!! ちょっと待って!?」」
「今何て言った帝国軍!?」
「本気でやっちまえってか!?」
「てか天界使い物になんねぇなおい!」
「傷心中とかふざけたことほざいてないで、ちゃんと説明しろよ!」
「書類が……書類が……!!」
後に、王宮を大混乱に陥れたことを知ったラファエルは、満面の笑みを浮かべて言い放ったという。
「ざまぁみろ!!」
「な、中々荒れ果ててきたわね……」
そんなラファエルにスラオシャは冷や汗を流すことになるのだが。
その一方で、単身で祭りに乗り込んだ和輝はといえば、祭りの規模に呆然としていた。
祭りの名に相応しく人々は歌い踊り麻薬を打って狂乱し、怪しい夜店もそこかしこに並び。
「……この国、本当に大丈夫か?」
一般的な高校生を自負する和輝にこう思わせるほど、異様な風景だったという。
そんな和輝の方へと目を動かす桃色を基調とする華やかな浴衣を着た少女は、和輝の姿をその瞳に捉えるや驚愕に目を見開き呆然とその場に立ち尽くし。
「……見つけた」
微かに息を吐き出して、何度も手を伸ばしては下ろして首を振り。
目を閉じ大きく息を吸い、意を決したような表情をして顔を上げると和輝の後方に移動して。
「これはこれは、サナ閣下の安全盤様ではありませんか」
明るい声を響かせて、和輝の眼前にまで移動する。
漆黒の髪を背中まで伸ばす少女は、透き通った漆黒の瞳を和輝の顔へと向け微笑んで。
「おいこら、俺はいつからそんな拷問みたいな役職押し付けられてんだよ」
半目で抗議される声に口を開いては虚空を見つめ、そう時間が経たぬうちに諦めたような顔をして。
「アハハハハー、それより、祭りは楽しんでますか?」
何もかもを虚空に投げ話を変える、和輝と同い年の風貌をした少女だが。
そんな少女を問い詰めたい気持ちと関わりたくない気持ちが鬩(せめ)ぎ合ったという和輝は息を吐き。
「どこに何があるのか解らなくて呆然としてたけど、祭りっていつもこんな感じなの?」
少女と同じく何もかもを放り投げ、考えることを辞めたそうな。
だって、絶対面倒くさいことになりそうだったから。
和輝は後にそう語るが、そんな和輝に満面の笑みを浮かべた少女は口を開いてはまた閉じて。
目を逸らして顔を伏せ、和輝の視線から逃れるかのように一歩引いて重々しい声を響かせる。
「いえ、女王陛下とサナ閣下の討伐成功祭ということで、気合いはいつもの10倍、規模はいつもの100倍という、王国史初の例を見ない規模ですね」
ここまで人望のない政府を見たのは初めてだと嘆く少女の顔に浮かぶは憐れみで。
昨日大災害が起こったというのに、どこにこんな資材や元気があるのかと戦慄しながら呟いた。
「あいつらって一体……」
そんな少女を和輝が冷や汗を垂らして見つめること暫し、固まる空気の中少女は虚空を見つめると息を吐き、虚ろな声を微かに紡ぐ。
「私、何やってんだろ……」
「おーい、戻ってこーい」
何か逝ってないかと呟く和輝が少女の前で手を振ること暫し、ようやく目の焦点を和輝に合わす少女はふと思い出したかのような顔をして。
「そうだ、一緒に祭り回りませんか?」
「そっちが良ければ、ぜひ」
そんな少女に一瞬戸惑ったかのような顔をした和輝だが、次の瞬間爽やかな笑みを浮かべる和輝はそう返し。
「あ、私はアスモです。よろしくお願いしますね♪」
そう名乗る少女は、和輝曰く一度見たら忘れられない、月の光に当てられ佇む夜桜のような美しく静かな笑顔を向けた。
それは、夢でも見ているのではないかと思わせるほど幻想的だったといい。
「まずは食べ物でも買いません?」
「あ、うん。じゃあ、たこ焼きとかお好み焼き買いに行くか!」
固まる和輝に得意げな顔をした少女は、胸を張ると手を差し出しふと気づいたような顔をして。
「たこ焼き? 何ですか、それ。 美味しいんですか?」
そう問いかけるアスモだが、行き場を失う右足を強引に留める和輝は信じられない物でも見るかのような目を向けて。
「え? ないの? たこ焼き」
「タコって何です? タコって物を丸焼きにするんですか?」
アスモが冗談を言っているわけではないと悟ったという和輝は、嘆き憐れむような表情を浮かべては涙を流し、顔を覆って呟いた。
「かわいそう……」
「え……?」
まさか本気の同情を買おうなどとは思ってもいなかったというアスモは、そんな和輝の様子に困惑したかなような表情を浮かべて所在なさげに手を下ろし。
「いないの? 球状の頭に8本の足が生えてて、骨がないやつ」
憐れみ混じるその声に暫く思案してからのこと、一瞬だけ閃いたような顔をするアスモは信じられないとばかりに絶句する。
「え? あの、気持ち悪い
そして、こいつ正気かと戦慄しながら心配そうな目で和輝を見つめ。
そんな反応に傷ついたような表情を浮かべる和輝は、何度か口を開いてはまた閉じて。
「ま、まぁ食文化の違いと考えれば……」
「え、えぇ、そうですね……」
絞り出すような声を響かせたこの後に、和輝はひっそりと涙を流したという。
「……とりあえず、歩きましょうか」
「……うん」
奇妙な空気の中歩き始めた2人だが、10分ほど歩いてからのこと。
完全に表通りから外れ離れた道を歩いている2人は、古びた民家が立ち並ぶ場所へと踏み入って。
ねぇ、道大丈夫?
そんな視線を和輝が向けた瞬間に、アスモは目を輝かせて民家の1つを指差した。
「あ、あそこ入りません?
そこは、見るからに廃墟の様相を誇る、幽霊屋敷と言われても問題ないほど不気味な様相の建物で。
片仮名で表わすとそうでもないのに、漢字に直すと一気に怖さが増すのは何故だろうと、ふと和輝は真剣に考え込んだという。
しかし視線を上げれば橙色の球体が多数空中を彷徨っていて。
顔浮かび和輝を見つめる球体を見つめ返す和輝は虚ろな笑い声を微かに紡ぎ。
「アスモ、俺に何の恨みが……」
強張った声音でそう呟くが、そんな縋り付くような抗議の声は届かずに。
「まぁまぁ、入りましょう!」
笑顔を浮かべるアスモは和輝の腕を捕み、有無を言わさず屋敷の方へと引き摺って。
「明らかに不法侵入ですよねこれ!?」
「さー! 行きますよー!!」
激しく突っ込むが和輝の声を華麗に流し、和輝は後に曰く恐ろしいほど元気なアスモに連行された。
一方、和輝が拉致される前にいた世界では。
「和輝ぃー」
「和輝がいないよぉー」
虚ろな瞳を虚空に向けて座り込む、薬が切れたような佇まいをした
「お、おい天桜どうするよ」
「い、いや天安よ、儂らにどうにかできる物でもなしに……」
そして、そんな娘達を見て困惑している、死期を乗り越えた父親たちがいた。
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