1ー2ー6
戦闘から暫し時間が経ち、神帝王国王城にある医務室では。
「……何か、ごめん」
「いいよ、死んでくれれば♪」
「落ち着きなさいよ」
広い医務室を占拠して、力比べをするかのように手を押し合うサナと女王がいた。
表情に合わぬ声を響かせる2人を嘆息しながら見るは、文官に閣下と呼ばれた少女で。
「あのね、サナ、フェリシア。もういい年なんだから、大人しく……」
「「へぇ? マリナはそんなこと言えるほど年取ったんだ」」
「何でそこだけ重なるの!?」
閣下と呼ばれた
「てか、今回はフェリシアが悪かったでしょ」
まるで親友であるかのように話しかけ、対するフェリシアも気にした様子を見せることなく言葉を返す。
「う、そこは……悪かったけど、サナだってあの返し方はなかったんじゃないの!?」
「確かに、理性飛ばしたサナも悪い」
「マリナまで……」
そんな、責任の堂々巡りをしている時だった。
全く同じ顔をした少女2人が天井から頭を覗かせて、3人の後方へと忍び込み。
「やぁやぁお三方、落としてやるって息巻いてた男に幻滅された気分はどうかな?」
「「まだされとらんわ!」」
「私に至っては関わりすらないわよ!?」
飄々とした声を響かせて、肩を震わす3人の反応に悪戯が成功したかのような笑み浮かべ。
髪色が鮮やかな青か金か以外共通点しかない2人は、マリナの方へと視線を動かし言葉を紡ぐ。
「でも、時間の問題でしょ?」
「そうそう、残るマリナもすぐに性癖晒すんだから観念しなって!」
「性癖って何「「あー、確かに」」……って、何納得してんのあんたら!」
手足を無駄に動かし抗議の声響かすマリナに、他の者たちは小動物でも見るが如く穏やかな表情を浮かべて和んでいて。
「で、実際これからどうすんの?」
マリナが落ち着き始めたところで、青髪がふと思い出したかのような顔をして問いかける。
「これからって……何のこと?」
「決まってんでしょ、
当然でしょと言いながら腕を組む金髪は、それ以外何があるのかと視線だけで問いかけて。
「解ってるよね? 一応天界の顔を建ててるけど、信用できる保証ないってこと」
「……ええ、そうね」
そんな金髪の声に、フェリシアは逆らえない上司に面倒極まりない仕事を押し付けられたが如く陰鬱で苦渋に満ちた表情をしては額を押さえて息を吐き。
そんなフェリシアを他所に、サナは疲れたような表情をして窓より未だ明るい空見上げ。
「でも、逃げられないようにはするべきだと思うよ」
「何で?」
「あの人が連れてきた、妖精のような物……あれ、異質だった」
あの人自体も何かありそうだし。
そう淡々と呟くサナの声に、他の者たちは首を傾げてどういうことかとサナを見て。
「異質?」
「うん。証拠はないんだけど、例えるなら……少しでも制御を間違えたら、国が吹っ飛ぶような兵器のような……」
一切冗談味を纏わぬその声に、場の空気は迂闊な発言は許されぬとばかりの重苦しいものへと豹変する。
「……どういうこと?」
「……ごめん、わからない」
「止めよ。まずは、あの人の処遇を決めましょうか」
マリナが追求しようとしたその瞬間、唐突に手を打つフェリシアは、これ以上の推測を避けるかの如く議論を打ち切りそう告げる。
「……ええ、そうね」
そんなフェリシアの様子に、対するマリナも渋々といった様子で引き下がり。
「……そうだ、帝国軍作ろう」
マリナへと視線を向けていたフェリシアは、ふと思いついたような顔をして、良いことを思いついたとでも言いたげにそう言った。
「いきなりどうしたの?」
頭沸いたの?
そんな視線が、唐突に議題を飛ばした発言者フェリシアへと降り注ぎ。
「いいじゃん、この機会に作って乗っ取っちゃおうよぉ……」
「あー、まぁ言いたいことは解ったけど……」
涙目で抗議する羽目となったフェリシアに向け、唐突すぎないかと訴えかける視線が突き刺さり。
そんな視線が突き刺さる中、仏が如く慈愛に満ちた顔で肩に手を置かれたフェリシアは、さめざめと泣くしかなかったという。
「でも、サナの直感は無視できないし……誰か、監視つけた方がいいよね?」
だが、そう時間の経過を要することなくフェリシアは捨て置かれ、表情を戻した青髪が切り出した。
「うん、それが良いと思う」
「……確かに。無駄だったら、後で盛大に愚痴ればいいだけだし」
そんな青髪に頷く金髪とサナだが、ふと思い付いたかのような顔をしたフェリシアは目を上げて。
「じゃあ、あなた達お願いね」
目を輝かせながら仕事を2人に押し付けて、なるほどと手を打つ他の者たちも他も追随する。
「もちろん
「可愛いご奉仕待ってまーす!」
言いたい放題言ってから、フェリシア、マリナ、サナは部屋を出て。
唐突な展開に残された青髪と金髪の2人は口を開けてはまた閉じて、声にならぬ息を微かに紡ぎただ呆然と立ち尽くす。
「「……ちょっとぉぉ!?」」
暫し時間が経ち、ふざけるなどでも言いたげに叫び声が響くも、最早後の祭だった。
悲痛な叫び声が響き渡ってから暫くして。
渋々と言った様子で
「……起こすか」
だが、十秒後には既に早くも痺れを切らしていて。
「早すぎない!?」
「いや、でも、このまま待つってのも暇じゃん?」
「うん、まぁ、確かに?」
「だからさ、殺っちゃわない?」
「うん、脈絡が分かんないな」
和輝が寝返りを打ったその瞬間、叩いていた軽口を投げ飛ばして土下座する。
「「ごめんなさい!」」
今の会話聞かれてたらどうしよう!
そんな表情をして慌てた様子で居ずまいを正すも、聞こえるのは寝息だけ。
暫し時間が経ってから、2人は大きく息を吐くと低い声で呟いた。
「……心臓に悪いわ」
「……解雇通知来たくらいの緊張感あったわ」
たかだか1秒足らずで冷や汗を流水が如く流した2人は、息を吐き互いを見つめて頷くと。
「……穏便に起こそ」
「……うん、それがいいね」
教官を落し穴に嵌めた以来の真剣な顔で、反省の弁を述べていた。
そのまま2人は大きく息を吸うと、鈴のように美しい声を響かせる。
〈〈伸ばした手 少しずつ 近づけさせてあげる あの空に誓うよ 夜空に流れ落ちた無数の瞬きを見ては 誰よりも あこがれ挑み続けたあの空の 希望の灯火失われ あなたは何を望むの 空虚な その瞳は 何を見つめているの 夜空に舞い降りた無数の星が 私を先へと導く 誰よりも近くにいる声を あなたの元へ届けたい さぁ行け振り向くな信じて進め あなたの信じる未来へと 誰よりも近くにいる私が あなたをきっと守るから〉〉
歌が終わると同時に部屋には羽が幾重にも舞い降りて、金色に光る輪が天井付近に現れる。
「我を召喚せし者は汝か」
「「あ、今さら威厳なんて必要ないんで、この人起こしてくれません?」」
荘厳な空気と共にそれが輪より現れたその瞬間、氷点下の視線と絶対零度の声音が響き。
「色々と酷くないですか!?」
それに釣られるかのように、威厳も荘厳な空気も張り詰めたような表情も、何もかもが軽快に吹っ飛んだ。
現れたのは、桜色の髪を肩まで伸ばして羽を広げる
気持ちよく変になった空気になぞ構うことなく、青髪と金髪の少女は悪びれた様子を見せることなく言い放つ。
「いや、だって」
「あたしらが文句言われたら面倒臭いし」
「私であれば問題ないと!?」
「「うん」」
「ちっくしょぉぉぉっっっ!!!」
普通に責任を押し付けられようとするラファエルは、そんな2人に腹から太い叫び声を響かすと。
「スラオシャせんぱー……むぐぅぅ!!」
神話級の疫病神を降ろそうとして、青髪に口を塞がれ首を絞められる。
そんなラファエルに手早く拘束具を付ける金髪の手際は、最早慣れの粋に達していて。
「手際良すぎません!?」
そんな2人に目を剥いて、拘束意味なしとばかりにあらぬ方向から驚愕に満ちた声を響かすラファエルは失敗したとでも言いたげな顔をして。
「「その手があったか」」
舌打ちをして暗い顔になった青髪と金髪は、さらに念入りに締め上げた。
「むぐー! むぐむぐ……」
一方その頃、天界にいるスラオシャは。
「……何やってるの、あの子は」
冷めた目で、事の推移を見守っていた。
何か呼ばれたと思ったけど、これどうすりゃいいの?
ラファエル映る画面を見上げ困惑したかのような表情を浮かべていたスラオシャだが、ふと気づいたような顔をすると振り向いて。
「おい、スラオシャの
綺羅びやかな服を着た、角度によって深い青色にも明るい水色にも見える、緩く曲げた髪を背中の半ばにまで伸ばす女に息を吐き。
「誰が
「ならあんたは末期患者か? あ"!?」
「やかましわアンドロメダ! こっちは忙し……」
スラオシャがお前の相手をしている暇はないと疲れた声を響かせたその瞬間、アンドロメダと呼ばれた青色の髪をした女は巻いた紙を突き出して。
「これ、何かよぅ分かるよな?」
あんたの所業、悔い改めい。
アンドロメダはそう言うと、紙を広げながら暗い笑みを浮かべて囁いた。
「あんたの顔見れんくなると思うと寂しいわぁ〜」
そんなアンドロメダに怪訝な視線を送るスラオシャは、突き出された書状へと目を落とすと動きを止めて。
それを読み進めるにつれて、上機嫌になるアンドロメダとは正反対に死人のような蒼白な体を震わせる。
この光景を偶然目撃した天使は、石灰水に二酸化炭素を吹き込んだようだったと後に語るのだが。
中身が何であったのかは、天界史の闇に葬り去られることとなる。
ただ言えるのは、それが、後に大きな事件を引き起こすということか。
「あんたを堕天させてやりたいのはやまやまなんなけどな、これで勘弁したると言うことや」
「……え?」
「まぁ頑張りや、事務官はん♪」
降格も堕天も魔王も神帝も、全く以て意味なし。
そんなスラオシャを素で固まらせたその内容の一部が、事務員転属命令だった。
天界で最も忙しく胃が痛くなる仕事は戦闘員に非ず、事務官なり。
誰もが就く事を恐れる天界の事務職は、そう語られるほど異様な存在感を放つ部署だった。
そこは、一人あたり一日に何万枚という書類を一身に背負うのみならず、自己主張の激しい関係各所の調整までをも押し付けられる
社畜なぞ生温いと体験者が語るその場所は、死ねぬ存在であるを良い事に
鬱になれども顧みられることすらされず仕事を押し付けられる、過労死寸前の生ける屍を量産させる外道の楽園であるという。
そんな
そんな反応を見て満面の笑みを浮かべるアンドロメダは、高笑いをしながら去っていく。
「私に事務仕事やらせるたぁ、どういう了見だぁ!!」
暫く経ちようやく事実を受け入れたスラオシャは慟哭するような叫び声を響かすも、聞き遂げるものは誰もおらず。
逃げるように下界に降り立ち、涙目で帰還することとなる。
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