1ー2ー5

天界で起こっていることなぞ露知らず、和輝たちが訪れている神帝王国王都の中で。

その入口が一つの門の付近で起こる絶賛世紀末中の修羅場では、とうとう戦闘が大詰めを迎えていた。

息を切らして体をふらつかせるサナは漆光黒くる漆黒の刃を、震える体を叱咤し苦悶の表情を浮かべながら立つ女王は呪文の効果によって魔改造された、怪しく光る槌矛メイスをそれぞれ構えて睨み合い。


「「死にさらせぇぇぇーーー!!!」」

太い声が響き渡ると同時に剣と槌矛メイスは交錯し、迸る白い光に包まれる街より音は消え。


「やっぱりこうなりますよねぇぇー!!」


その光に追随し衝撃波が襲い来るその瞬間、桜色の髪を肩まで伸ばす2枚羽の天使が舞い降りては頭を抱えて絶叫し。

迫る衝撃波に目を見開き呆然と佇む人々を金色の光で包み込み、白光が消え去る前にこの世界より消失する。

だが、町が吹き飛んだにも関わらず無傷で佇む者たちは、何を言うこともなくただただサナと女王を見つめていて。

強風が吹き終わると同時に、2人は互いを睨みながら武器を上げ。

群衆が震え上がったところで同時に倒れ、戦争は唐突に終わりを告げた。

暫し沈黙がこの場を支配するが、動かぬ2人を遠巻きに見つめる者たちは困惑したような表情を浮かべて辺りに視線を遣ると、その表情を驚愕へと変えて。

誰もが口を開いてはまた閉じ無言になる中、衛兵が2人を抱え唯一残った建物の中へと連行する。

こうして終わりを迎えた恐怖の祭りに、重苦しい空気から解放された者共は、晴々とした笑みを浮かべ城と人以外何もかもがなくなった王都を改めて見回し息を吸い。


「「何じゃこりゃあぁぁぁっっっ!!!」」

遮るものがなくなった地の中で、よく通る声が幾重にも重なり響いた。



一方その頃、天界では。


「せんぱーい、終わりましたよーぉ……」

「お疲れ……様……」


スラオシャとラファエルが、破れた衣服を纏いながら横たわっていた。

通りかかる天使はこの光景を見て目を剥くが、近くにある画面に映る和輝中心の画面を見て納得したかのように頷くと。


「ねぇ聞いた? あのスラオシャ様とラファエル様が人間の男に遊ばれたんだってー!」

「えー!? うっそー! 誰? お相手誰!?」


各方面に、測り知れぬ傷を与えたそうな。

しかし、そんなことに気づくほどの元気はなかったというスラオシャとラファエルは、疲れたような汚い声を放ちながらぼろ雑巾のような格好で地に横たわり。


「誰ですか、あんな馬鹿みたいに強力な魔法教えた大馬鹿野郎は」

「知らないわよ、そんなもん」

「今度、人間絞めます?」

「イヤ、疲れた、面倒臭い」

「それはありますねー」

「っていうか、先輩は何でそんなぼろ雑巾みたいになってるんですか?」

「あなただけで、あれが防げるわけがないでしょう……」

「あー、確かに、そう……」


そう呟きながら瞼が下がるラファエルは、目を閉じ寝息を響かせて。


「お休みなさい、ラファエル……」


そんなラファエルに慈愛に満ちた微笑みを浮かべるスラオシャも、そう時間を置くことなく深い眠りへと落ちる。


「ちょっと見て、あれ!」

「アッハハ! 写真写真~♪」


そんな2人を見て天使たちが笑う天界は、今日も平常運転だったそうな。



それと同時期、神帝王国王城にある国王執務室では。


「閣下! 失礼します!」


茶を基調としてゆったりとした服を着た者に敬礼されている、茶髪の少女の姿があった。

同じ茶を基調とした服を着る彼女だが、光沢を持つその服には地味ながらも目を奪わせる、力強く繊細な刺繍が施され。


「何です?」

透き通った茶の瞳を持つ彼女は、膨大な書類の山から顔を上げて面倒くさそうに目を向けると息を吐き。


「女王陛下と軍団長閣下のことなのですが……」

「医務室にでもぶちこんでおきなさい!」


用は済んだばかりに書類の決裁に戻ろうとした少女に、文官は素早く鋭い声を響かせる。


「は! 2点目ですが、天神和輝様方の扱いをどうすればよろしいでしょうか?」

「方? なぜ複数形なんです?」

「天神和輝様が従者をお連れに……」

「はぁ!? あの方、確か今日召喚されたんですよね!?」


驚愕の表情を浮かべた少女に対し、血の気が引く文官の顔から冷や汗は流れて体は震え。


「いえ、自分は存じ上げませんが……」

「……一応確認します。性別は?」

「は! 全員女性であります!」

「……ウソー」


そんな文官を半目で見つめる少女は悪い考えを追い出すかのように頭を振って、王城の見取り図を取り出して広げ額に手を当てながら息を吐き。


「分かりました。天神和輝様には、元から用意されていた個室を、他の方々には個室か集合部屋かの希望を聞き、個室だったらここからここまで、集合部屋であればここを与えなさい」

「はっ!直ちに!」


増築いるかしら。

そんなことを呟く少女にもう一度敬礼する直立不動の文官は、背筋を伸ばして踵を返し、さながら軍の行進のように手と足の角度を同じにして歩き去る。


「何で私と会うときだけ、みんな軍人の行進になるのかしら……」

暫し時間が経ってから、1人寂しく残された少女の不満げな声が微かに響いては掻き消えて。


「……仕事しよ」

そう呟き書類に向かう少女の目には、薄く涙が浮かんでいた。



そんなことがあり、応接室に通されていた和輝たち一行はようやく部屋に案内された。

途中、和輝たちが擦れ違う衛兵全員に同情に満ちた表情で敬礼されたことは、また別の話だろう。

そして、文官にも当然のごとく敬礼されたことも、また別の話だろう。

国家最上層部を除き勤務者全員に同情された和輝たちは、それぞれが豪勢を極めた部屋へと通され目を剥いた。

和輝たちが通された部屋は、全て金の刺繍入る真紅の絨毯が敷かれ用途に合わせた部屋が何個も繋がっていて。

白を基調とし金の装飾を入れた壁や大理石でできた机、茶色を基調とした上品な寝台ベッドなど、生活に必要な物などが入念に手入れされた様子で置かれていた。

ただ、和輝に宛がわれた部屋には王の権威を象徴するがごとく、薄く光る金色の天井があるという違いはあったのだが。

それぞれの色は調和して、決して財力だけでは叶わぬ美しさを誇っていた。


「……夢でも見てるのかな?」


これが、最初部屋に踏み込んだ時の、和輝の偽らざる本音だったという。

しかし、徹夜し度重なる厄介事に巻き込まれた一同は、ようやく訪れた安眠の誘いに逆うことなく寝台ベッドへと飛び込んで。

そう時間の経過を要することなく、安らかな顔で寝息を微かに響かせた。

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