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天界で屍が積み上がっている頃、和輝たちはと言えば。
王都に繋がる道の果て、田園風景と城壁が広がる景色の中で、門の前に立っていた。
優雅に城門を越えられると思っていたと後に語る和輝だが、その意に反し城門は固く閉ざされ、さらに武器を構えた憲兵に囲まれていて。
自分等何かしたっけかと、自身らの扱いに戸惑う和輝たちがいた。
「おいサナ! どういうことだよ!? まさか違う国に着いたとかじゃないよな!?」
「ち、違いますよ! ちょっとそこの憲兵!! どういうことか説明しなさい!!!」
ふざけるなと叫ぶ和輝にそんなわけあるかと叫び返すサナは、王国兵に向け悲鳴混じりの叫び声を突き刺すが。
「夜間外出禁止令違反で死刑に処す」
「「は?」」
何それ。
響く機械が如く温度の含まぬ声に、誰もが意味不明だと態度で示しながらサナの方を仰ぎ見て。
「いやいや! 私の方を見られても困りますよ!?」
私だって知らないんだから!!
目だけで用件を察したというサナは、勘弁してくれと首を振る。
「これは、あそこで野宿した方が良かったのです?」
だが、響く鋭鈍を可憐で包み込むが如く声に、サナは肩を震わせマナの方を仰ぎ見て。
「え……?」
瞳を真紅に輝かせて薄く笑うマナの様子に、目を見開き絶句する。
「もう一度聞くのですよ。通す気はないのです?」
だが、最後通牒とばかりに憲兵に詰め寄るマナを見て、慌てたように近づくと。
「私は王国直属部隊特殊兵団兵団長、光剣院紗菜です!そこを通しなさい!」
お願いだから、どうか通して。
懇願混じる視線を突き刺すも、王国兵は表情を変えずに頷き剣を構えてただ告げる。
「女王陛下の命により、お通しすることができません」
「兵団長閣下、誠に申し訳ありませんが女王陛下の命により処刑します」
一切の慈悲も感情も含まぬ声に、何この人使えないと微かに呟く声もあったというのだが。
「私たちは、あなた方の言う女王陛下の命令でここまで来たのですよ♪」
打ち拉がれるサナを尻目に、薄暗い笑みを浮かべたマナは腕を組み憲兵を見据えて見下ろして。
「着いたら深夜だったから死刑とか、女王陛下の面子潰して泥を塗りつけているようなものなのですよー♪」
薄く嗤いながら1音1音を文字通り叩きつけるように紡ぎ、嘲るような声を響かせる。
「あれ? 俺たちは何を……」
「そういやこの人たちをどうするかと……」
「あぁそういえば……」
「じゃあどうする?」
そんな声に、ふと気づいたような顔をした憲兵たちは剣を下ろしながら困惑した様子で言葉を交わし。
「後は、気楽に見てるのですよ♪」
戸惑う憲兵たちの様子に瞳の色を戻したマナは、和輝の肩に座り興味を失ったかの如く視線を前方へと向け息を吐き。
指を伸ばしたその瞬間、微かな破裂音が鳴り響く。
だが、そんなことに気づいた様子もない憲兵たちは首を傾けながら互いに顔を見合わせて。
「まず夜間外出禁止令なんてあったか?」
「そういや俺、記憶にないんだが……」
「でも何かあるような気も……」
「じゃあどうするよ?」
「でも陛下の命令らしいし……」
「向こうも陛下の命令だったら……」
「じゃあここは何も見なかったことにして、しれっと通せば……」
話が纏まりかけていた、その時だった。
「ち、ちょっと待て! こいつら直属の特殊兵団関係者って言ってなかったか!?」
「え、あの人類を辞めた狂団!? そういや、団長とか言ってたような!」
「あの
「お、おい! あれ見ろ! あの紋章は頭の逝った兵団じゃねぇか!?」
「しかも団長の紋章だ!! 嫉妬の団長だ!」
「すいませんした! 今までの非礼、地に伏しお詫び申し上げます!!」
「「どうぞお通りください、そして命だけはお助けくださいぃ!」」
一人がサナの服に着いている紋章に目を止めるや、凄まじい早さで話は進み。
その結果、門は開き非常用の鑼(どら)も鳴り、非番も駆り出し駐屯兵全員の土下座を得たわけだが。
「サナってすげー」
「なのです」
「なのだ」
「ですね」
サナ以外は全員、揃って十歩引いていた。
「ち、ちょっと皆さん!? む、昔の話ですよ!?」
『思い返してみると、全くもって否定できないこの不思議』と誰もが冷たい目で涙目になるサナを見て、『出会って1日も経っていないのに、何てもんに確信持たせてくれてんだ』と心が1つになったことは、また別の話だろう。
「み、みなさん! は、早く中に入りましょうよ!」
サナは一生懸命話を変えようとするが、土下座の道は時間を追うごとに増えてゆき。
憲兵や門番、兵隊に加え今や一般人の姿まである有様に、和輝たちは蒼白な顔を引き攣らせ、黙って土下座の道が増えるのを虚ろな笑い声を響かせながら見つめていた。
「ち、ちょっと……みんな……」
お前、本当に何をした。
至る所からそんな視線が突き刺さり、次第にその目が病的に濁り始めるサナだが、その瞳がサナの顔を大々的に写す横断幕を捉えた瞬間顔を引き攣らせ。
「は、ハハ、アッハハハハ! アーッハハハ! 和輝さん♪ 皆さん♪ 死んでください♪」
それの存在を悟らせまいとするかのように、狂気を振り撒き叫び声を響かせる。
そんなサナの様子を見て、誰もが示し合わせることもなく一点を見つめ。
珍妙な服を着てサナを拝み奉る光景から目を離し、誰もがサナから目を背け。
「同情するなら一緒に死んでぇ!」
これを悲劇と言わずして、何と言おう。
そうとでも言いたげに目頭を押さえる和輝たちへと向けて、サナは泣き叫ぶような声を響かせて。
「お、おいサナ!?」
白銀の光が煌めいたその瞬間、サナは地を蹴り剣を振り上げその手を下ろし。
「死ぬのなら、1人で勝手に死にやがれ、なのです」
マナの目が怪しく光るその瞬間、突如吹き飛ぶサナを襲う者が複数現れる。
闇夜に紛れ現れたそれらは、ただただ手を伸ばしてサナを襲い。
「うわぁぁんん!!」
虚ろな声を響かすそれらは、成す術もなく豆腐が如く切り裂かれ。
サナが和輝に視線を向けたその瞬間、和輝は蒼白な顔を肩に向けて呟いた。
「ま、マナちゃん?」
「わ、私でも、さ、さすがに無理なのです……」
「え……誰か……?」
一縷の願いを託すかのように息を絞り出す和輝だが、そんな声に誰もが蒼白な顔で首を振り。
そんな様子もなど気にした様子もなく迫るサナは、真正面にいる和輝目掛けて剣を薙ぐ。
死んだ。
和輝と目撃者誰もが同じことを思ったというその瞬間、誰からも視線が逸らされた瞬間に幼女たちは妖しく嗤い。
「あなたを殺して、私も死んでやる!」
斬撃が和輝に届こうとする刹那の距離で、壁に触れたが如くサナの剣閃が跳ね返される。
驚愕に目を見開くサナだが、和輝の真後ろまで飛んだマナの目は光り。
サナの動きが鈍ったところで、マナはそっと和輝の背中を押しその体をサナの方へと倒れさせ。
「え?」
「え……キャァッ!!」
疑問げな表情を浮かべる和輝に向けてその手を伸ばし、受け止めようとしたサナも体勢を崩して地に倒れ。
結果、和輝はサナを押し倒すような形で地に手足を着いていた。
「エ、ウワッ! ご、ごめん! サナ!」
暫し時間が経ち状況を認識するにつれ、青褪めながら飛び退く和輝は体中を震わせ恐怖に染まる声を響かせて。
「何ですか? 私じゃ不満なんですか? 何ならどこが不満なのか教えてくださいよ」
対するサナは、立ち上がりながら和輝の方へと絶対零度を誇る視線を突き刺し冷徹な声を響かせる。
「え、えと……」
追い詰めるように問い詰めるサナに怯える和輝は助けを求めるかの如く視線を彷徨わせるが、それを見咎めるが如くサナの視線は鋭く刺さり。
「何ですか、ほら早く言ってくださいよ。私だって乙女なんですよ? そんな反応されると傷つくなぁ」
「ひ、ひぃっ……!!」
「まあまあ、サナさん。早く門通るのですよ♪」
怯える和輝に弾けんばかりの笑みを浮かべるマナは、和輝に近づきながら
さりげなくサナから距離を取るのはご愛嬌か。
自身の頬に冷や汗が浮かんでいたことに気づかなかったという幼女たちだが、そんな事実は脇道にでも捨て置かれ。
そんな中、サナは一向に近づこうとしない和輝の従者たちへと視線を向け不思議そうな顔をして問いかけた。
「マナさん? 皆さん? 何でそんに離れてるんですか?」
「アハハハハー」
そんな声に、対する3人は乾いた笑い声を響かせて。
増殖する土下座の列と増え続ける退魔を祈る人々に、どうしたらこうなるのかと震撼したそうな。
そんな3人の視線の先を悟ったサナの目が若干病むが、疲れたように息を吐くと剣を拾って鞘へと収め。
「あんまりその話題引っ張るんだったら、私の狂気度をここで余すことなくご覧いただくことになりますよ?」
もう良いでしょと首を振りながら紡がれるサナの声に、和輝もこれ以上は勘弁してくれと呟きながら従者たちの方へと体を向けて。
「サナの頭がおかしいのはもう解ってることだし、放っとこう!」
さりげなく従者たちの後ろに隠れてそう言った。
そんな和輝の言葉に、それもそうだ、と全員が頷いたことに、サナの人徳が伺えると語るは和輝談。
「ご主人様がそう言うなら従うのですよ♪」
「まぁ、そうですね。ここで騒いでも今さらです。サナの頭のおかしさは、今に始まったことじゃなさそうです」
「そうだ! サナの異常度は今さらなのだ!」
「「アハハハハー」」
もう一度乾いた笑いを響かせると、和輝とその従者たちは一人呆然とするサナを置いて門を潜り。
「ち、ちょっと皆さん!? 私精神異常者じゃありませんよ!? しかも私を危険物扱いしないでくださいー! ゆ、ゆっくり話し合いませんか? ねえ!」
「……私を置いて行かないでーーー!!!!!」
暫し呆然とした後にサナの悲痛な叫びが木霊し続けるこの頃は、日も登り始めたある晴れた日のことで。
サナが斬り倒したはずの『人』は、死骸が見つからず、時を追うに連れて人々の記憶から綺麗に全て消え去った。
「異世界に来ても、やっぱり真剣で追い回されるのか……」
そんな呟きもあったというが、誰に届くこともなく、時間が経つに連れ増える退魔の祈りに掻き消されたそうな。
一方その頃、天神家地下室では。
「しぶてぇなコラ!」
「男受けしねぇ筋肉ばかりで随分と寂しいこったなぁ!」
「ハッ! だから一生男できねぇんだよ!」
「あぁそうだ! 筋肉剥いでまともな女の体にしてやるよ!!」
「アッハそれ最っ高!!」
「じゃかあしいわ戦闘狂! てめぇら達磨からの串刺しになる覚悟できてるんだろうなぁっっ!!」
煽るミクとルナの声に瞳孔を見開き怒り狂う燕尾服が虚空より取り出した剣で斬りかかり、熱気冷めることなく戦闘が続いていた。
「ど、どうするよ天桜」
「ど、土下座して謝れば許してくれるかな……?」
「そんなんで許してくれるなら、こんなことになっとらんぞ!」
どちらも娘に土下座するという選択肢に一切の躊躇いを見せない中で、修羅場が延々と続くのかと思いきや。
「はぁ、そろそろ見てて飽きました」
唐突に退屈げな声を響かせた
「「え……?」」
「時間が来ましたんでお先に上がりまーす。全責任はこの筋肉達磨にお願いしますねー」
固まる空気の中そう言うと、
唐突に静まり返った部屋の中、殴られた方も見ていた方も狐につままれたような顔をして。
「……とりあえず、和輝をどうやって見つけるか話し合おうか」
「……うん、それがいいね」
微かに響く平坦な声に促されるようにして、疲れたような顔をしながら無言で帰路に就く。
父親たちが生を実感したのは、それから暫く経ってからのことだったそうな。
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