1ー1ー4

和輝の慟哭がある場所で響いている一方、天神家地下室に集められたミクとルナは。


「何で私達が連れてこられなきゃいけないのよ!」

「和輝に言いたいことがあったのに!」


連行されるや、早速大暴れしていた。

ミクとルナを連れてきた者たちが旦那様方と呼んでいた、中年の男2人は悲壮感溢れる哀愁を漂わせながら手で顔を覆っていて。

後の会合で、『どこで間違えたんだろう』と涙ぐんでいたことは別の話か。

騒々しい音が物々しい音に変わってきた頃、燕尾服を着た女性が冥府の使者を彷彿とさせる死の空気を放ち低く迫力に満ちた声を響かせる。


「……遺言ということであれば、聞きますよ?」

「「ヒイッ!」」


一瞬にして、室内には処刑場のような不気味な空気が立ち込めて。

それは、1秒が永遠に感じられるほど重苦しい空気だったという。



 時は、10年ほど前にまで遡る。

以前にも幾度となく繰り返してきた、またもミクとルナが和輝や他の者たちを暫し再起不能にまで陥れた時だった。

そのことで天桜家や天安院家で2人を説教していた親父2人は、同時に気づいたという。


「「和輝くん、かなり危ないんじゃね?」」


娘の将来をかなり鬱になりながら案じている父親たちは、離れた場所にいながらも同時に娘に付きまとわれてる1人の男の姿を思い浮かべたといい。

娘にまとわりつく害虫という認識ではもちろんなくて、死神に見初められた哀れな子羊という認識だったという。

付きまとわれてるだけならまだ良い方だが武器とかで脅されてたらどうしようか。

なまじ経済力と権力がある家だから、こんなこと簡単にできよう。

血の気が引く中そう思ったという親父2人は手を取り合い、もしも娘達が何かしでかした時のために、秘密裏に天神家の地下室を建造し。

もちろん秘密裏であるために本来天神家の住人には伝えらることのないまま建造されたその結果。

現代の科学技術を大きく超え、どこぞの大統領府や軍事施設よりも堅牢な施設へと変貌し。

ここは、並大抵では済まない重罪犯を収用する、脱獄不可という言葉が似合う牢獄の様相を誇っていた。

そこから、ここは父親たちが寿命を削る覚悟でミクとルナに説教をする時に使われるようになり、現在へと至っていて。


「で、話って何よ」

そんな中、『さっさと終わらせて』とでも言いたげに、ミクが口火を切る。


「あぁ、名前もよく知らん男の子のことだがな……」

「今朝、血祭りにあげたんだって?」

「挙げてないわよ!」


父親たちがこの思考回路となるほど、自分たちの認識が酷いものになっている事実にミクとルナは腹から叫び。


「旦那様、血祭りではなく集団暴行リンチで止まっております。血に飢えた思考回路を早く直してくださいませ」

続く燕尾服を着た女性の言葉に、涙を浮かべて崩れ落ちる。


「「そこまではしてないよ……」」

だが、そんなことはどうでもいいとばかりに流されて。


「あのな、和輝くんが好きすぎてしょうがないのは分かるが……和輝くんに格好いいところ見せようとして、逆に幻滅されとるぞ……?」


ミクとルナへ向けて、ミクの父親は諭すようにそう告げた。

対するミクとルナは、茹で上がったかのように真っ赤に染まる顔を上げ勢いよく立ち上がり詰め寄ると。


「な、何を言ってるの!? とうとう呆けたボケた? 認知症じゃない? お父さんそろそろ安楽死考えた方がいいんじゃないの!?」

「お、おじ様! 以前から精神状態がおかしいと思ってはおりましたがとうとう頭のネジが外れましたか!? わ、私達が和輝をす、すすす好きなどと……」


顔と声がここまで合ってないのはある意味奇跡、と後の証言者に語らせしめるほど言葉の毒刃を突き刺した。


「……かなり傷ついたんだが」

「……お疲れ」


心を刺されて斬られてすり鉢で卸された挙げ句、絶望の海にばらまかれ今にも泣きそうになっている天桜の親父に、天安院の親父は肩に優しく手を置いて。

もてる勇気を全てかき集めたと後に語るほど、悲壮な声を響かせる。


「2人とも、不可抗力を除いて1週間和輝くんに近づかないように! 破ったらここで1週間過ごしてもらう!」


そして、言うことは言いきったという顔で2人揃って安らかに気絶した。

後に、この時『寿命が縮みすぎてお迎えが来たかと思った』と語ったことは別の話だろう。


「そんな……」

「1週間……」


破ったら、1週間ここに収監される。

その意味を、噛み締めるようにミクとルナは呟いて。

ミクとルナが問題を起こさぬよう燕尾服を着た女が2人の監視に就いたため、和輝周辺に張られていた護衛網は一旦解除され。

このことにより、和輝の拉致は発覚が1週間遅れ。

大変な騒動に巻き込まれることになるとは、まだ誰も知らなかったという。

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