葉桜の君に
吉岡梅
春川葉桜は美少女だ
そういやあれから7年経ってんのかよ速すぎんだろ時の流れ少しは手加減してくれよ時間だけは誰にも平等とかいうけどあれウソだろ俺の時間全然ねーじゃんか絶対盗まれてるじゃんそもそも葉桜が将来は先生になりたいなんてぬかしたまま死んだもんだからそれ継がなきゃって思い込んで雨の日の前のツバメよろしく地を這う偏差値を誇る俺がムチャクチャ無理してハヤブサも二度見する奇跡の急上昇カマしたすえに受かった大学に通い続けるには金がねーからバイトしながら実習こなしてるうちに教免取れて卒業後すぐ赴任した母校で現国と漢文教えてるそばから部活の顧問が足りねーって言われた新任の俺は断りづらくてアッハイなんて言ったばっかりにやった事もねーバド部の練習に付き合ってるうちに外が真っ暗になってからのテストの採点片づけて家帰ってシャワー浴びてスト缶1本掲げたら意識が途切れて気が付くと次の日が始まってんのを繰り返してるだけじゃねーかなんで7年も進んでんだよホントふざけんなよカシオペア。
帰宅途中の公園前で突然その事実に気付き立ち止まって愕然とする俺の視界の正面にこれ見よがしに突っ立てる時計塔が当たり前ですけど何か問題でもありますかという顔をして夜の10時を指しているのを見て思わずおいウッソだろいい加減にしろよ今日もこれかよ鬼かよ時計塔これはもういっちょ蹴りのひとつでも入れておくべきですねと腕まくりをしてずんずん公園に入っていく俺を照らす外灯の薄明かりが桜の木の脇のベンチを照らすとそこに映し出されるひとりの人影がなんとなく葉桜っぽいシルエットと言うかルックで俺はえっなに怖い幽霊的なアレですかごめんなさいすぐ帰りますと正直かなりビクっとしたんだけどもあっちもあっちでビクッとした姿をよく見ると
「おい、
「あ、
「大丈夫なわけ……ん? 春川か。そういや近くに住んでるんだったな。そうか、それでか」
「え」
「いや、なんでもない。どうした。ご両親と喧嘩でもしたのか」
「あー……っと」
って言い淀んでるこいつは春川
「最近、何かするたびにお姉ちゃんと比べられて……」
「あー、葉桜と。それはキツいな」
俺がしみじみ漏らすと春川は伏せていた顔を上げちょっと嬉しそうな様子を見せたがすぐまた下を向いてしまったのでよっこらせーと隣に座ってしばらく黙ってるとぽつりぽつりと話し出した。
「秋田先生って、その、
「あー。あの頃春川は小学生だったっけ」
「はい。5年生でした。やっぱそうだったんだ。ずっとそうかなーって思ってたんですけど何も言ってこないから確信が無くて」
「言った所でどうなるわけでもないし、春川も困るだろうと思ってな」
「そんなこと。スッキリしました。ふふ、なんか味方が増えたみたいで嬉しいです」
「おー。葉桜は手ごわいからなー」
「そうなんです。お姉ちゃんって本当に凄くて。お母さんたちが比べるのも無理ないかなって思うんですけど……。でも、やっぱ私も負けないように頑張って……」
「いや無理だろ」
「え」
思わずポロリと口をついて出た言葉にしまったと思ったが時すでに遅しという奴で隣の春川の顔は見る間に驚きから涙目を経由しての怒りと悲しみがごちゃ混ぜになった泣き顔のままギッと俺を睨むやいなやすっくと立ち上がって声をかける暇もなく走り去ってしまう後姿をポカーンと見送りつつやっちまったなーどーすっかなーとりあえずきちんと話をしねーとまずいなーとグルグル考えているうちに手にはスト缶。そして朝。
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