久遠の空、伽藍の鬼(旧版)
恋犬
悪鬼討滅篇
第壱話 失敗作(修正版)
「失敗作か」
ただ淡々と、普段と変わらぬ口調で父上は言った。
感情の入り込む隙間など一切ない。
ただ事実を述べただけ。
父上にとってはそうなのだろう。
父上がそういう人間であると分かっていたはずなのに、心の何処かで甘い考えを抱いていた。
もしかしたら、優しい言葉をかけてくれるのではないか。
お前のせいではないのだと情けをかけてくれるのではないかと。
だが事の次第を聞いた父上の口から出た言葉は、まるで真逆の言葉だった。
「
無駄。
俺の生涯は意味がなかったと言うのか。
これまでの努力や苦しみは何だったのか。
その言葉を聞いて怒りよりも無力感が心を苛んだ。
「申し訳、御座いません。父上のご期待に添えず、このような有様となってしまい……」
額を押し付けた床はひどく冷たい。
だがそれでも今自分の胸を吹き抜けるような絶望感と焦燥感に比べれば幾分か暖かく感じた。
「俺は、世継ぎ足り得ぬ者でした……!」
血を吐くような思いでその一言を絞り出す。
不意に、胸にどろりとした不愉快な脈動を感じた。
己の胸を見下ろしてみると、心臓がある左胸を中心に黒い黒い亀裂が全身に広がっていた。
そこからはどくどくと血が溢れ出し、体の奥から漏れてはならぬものが赤黒い糸を引いて零れ落ちていく。
慌てて手で塞げどもそれは止めどなく溢れ、流れ出していく。
命が体から消え去っていく。
嗚呼、確かにこんな身体ではもはや世継ぎになどなれるはずがない。
いや、それは錯覚だ。
実際には亀裂など無い。
そう見える痣が広がっているだけだ。
それを自覚した瞬間、これが夢であることに気付き、急速に意識が覚醒へと向かっていった。
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