第12話 蓋をあけるんじゃなかった3
メリルの様子に自分は何か、まずい事を言ったのだろうか? と
恐らく。
メリルはと言えば、突拍子もない事を聞かされ、混乱する頭をどうにか落ち着け、次に問う言葉を探す。
「えーーー……っと、その、戦う、とか、戦闘、とか、そういったものじゃなくて?」
いつのものかも定かでなく、その過程も定かではないが、何故か対峙した竜の腹の底に響くような声は鮮明に思い出せた。
「ケンカ、タノしい……?」
「それ、誰が言ったの?」
「……竜」
「……それで、喧嘩に勝って加護をもらったの?」
「………………?、ワカラない」
その辺りの記憶はどうやら曖昧らしい。
「因みにそれ、どれくらい前の事か、わかる?」
「………………ない」
「その竜の住処とか」
「………………ドウクツ?」
「そう」
だよねー、とメリルは心中で言葉を続けた。
竜の物語は古今東西様々あるが、実際のところで言えば、基本的に格下相手に喧嘩は売らない種である。
しかし、売られた喧嘩は喜んで買う。
例え、相手が真剣に命がけで戦いを挑もうとも。
そして竜は大概、人目のつかない洞窟を好む。
他にもいくつか竜や加護に関する質問をしてみたが、返って来た返答は芳しくないものだった。
色々とお手上げであった。
結局、手がかりらしい手がかりも掴めないまま、メリルの住む小屋に戻った一人と一体だったが、更なる手がかりを求めるべくメリルは行動を開始した。
動きやすい旅装に身を包み、鞄の中には必要なものを詰めていく。
といっても先代の魔女が死んでからは一人暮らしだ、荷物も大した量にはならない。
この森で暮らし始めてから溜め込んだ金貨は結構な重さになるが、嵩張る荷物と一緒に大きめの荷袋に詰め、
立ち上る瘴気はなくなったものの、やはり、この漆黒の巨躯は目立つ。
正直、夜を待ちたいところだが、
都市側もそろそろ調査に動き出してもいい頃合いと判断を下していてもおかしくはない。
メリルは外に漏れる瘴気が内側に引っ込んだ今なら可能ではないかと、認識阻害の術を施してみれば、かかりは悪いものの、どうにかなりそうだ。
そうして、都市の監視の目が重点的に村側に注意がいっているのを確認し、手薄な反対側から森を出た。
§
鬱蒼と茂る森の中、人目を避けるように獣道を進む大小二つの人影があった。
一つはメリル、もう一つは言わずもがな、
真昼間に
ここを知る者ならば、まず近付かない場所である。
メリルは何度となく通った道を迷いなく進み、その後ろを軋んだ音を立てながら
昼間にも拘わらず、異様な程の静けさは、恐らく彼女の後ろを歩く
そして、動物とはまた違った複数の視線がメリル達に注がれていた。
ゴブリンだ。
キィ……
「マジョ殿」
抑えた声で
「大丈夫よ。あいつらはこっちに危害を加えないわ」
「………………加えテきたラ?」
「ヤっちゃっても多分、大丈夫だと思う」
「ワカッた」
「………………」
心なしか、会話のやり取りがスムーズになった気がするが、メリルは気にしない事にした。
一々細かな変化を気にしていては、こちらの神経が保たない。
奥へと進むごとに視線が増える。
そこに含まれている感情は恐怖と警戒だ。
ほぼ、全ての視線が
何せ、滅多にお目にかかる事のない準災害級だ。
そうしてたどり着いた洞窟の入口ではゴブリン達が地にひれ伏していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます