日常の3『急に始まる猟奇的行為』

 それは決められた運命だったのだろうか。


 品行方正で頭脳明晰。

 神童、と呼ばれ、周囲からは常に褒め讃えられていた。

 温かい家庭の中で、自分の中に異質な衝動が存在していることを彼は認識していた。

 そして持ち前の頭の良さで、その異質さを表現することは他人から異様がられること、隠さなければならないことであるとも理解していた。


 十年と少し生きて、周囲が異性を意識し始め出した頃、彼の欲求は小動物へ向かっていた。

 学校で級友たちが異性のことでヒソヒソ色めき立っている下校途中に、彼は野良猫をつかまえ、近くの山で生きたまま解体していた。


 夢中だった。


 学校で画用紙に絵の具で塗りたくった赤い色とは違う、生きた赤。

 それがみるみる自身の内面のような黒に酸化し変化していく様子。

 脈打つ臓腑が自身の早鐘とは真逆に、だんだんとその拍動を弱めていく。

 湧き上がる得も言われぬ感情。興奮の二文字では全く足りぬ思考の爆発的飛散。


 何より、声。


 最初は彼の両手を引き千切らんとするかのような激しい抵抗が、ほとばしる血液と共に儚く細くなって消えていく。

 自身の手に、腕にできた傷が、対象の死に向かう赤と対比される。

 初めて生命を殺めた日、彼は生まれて初めて、性衝動の解放を迎えた。


 猫がヒトになるまでに、時間はかからなかった。





 その日、彼は自身の欲求を我慢することができなかった。


 辟易し続けるだけの退屈な日常。その我慢には対価が必要だった。


 適当に、と言っても守らなければならないルールがあるのだが、そのルール通りに選んだ家のチャイムを押す。ガチャリ、と開いたドアから滑るように押し入り、対象を一度眠らせる。


 まるで我が家のように戸締まりし、勝手知ったるとばかりに広い部屋へ速やかに移動。


 相手が眠っているうちに、対象の身体の一部を少々もらう。


 後で何度も耽るために。


 鞄にしまって、相手をしっかりと拘束し、意識が戻るのを待つ。


 この時間も愉楽。


 だんだんと自身の内側から奈落の衝動が広がっていく。

 対象が目を覚ますと同時に、彼は作業に取り掛かった。

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