第91話 一線
「そろそろね」
弓花はスマホを見て時間を確認し、俺の首元にキスをしてくる。
時刻は夜の十一時を過ぎ、母と妹が寝静まる時間となった。
俺と弓花は部屋でかれこれ二十分ほど立ったまま話している。
「覚悟を決めていたとはいえ、その時が来てしまうと流石にビビるな」
「それはどこのカップルだって同じでしょ。初めては誰だって緊張する」
「確かに」
相変わらず弓花は言葉で俺を安心させてくれる。
心強い存在であり、俺を支えてくれる。
それにしても、遂にこの時が訪れたか……
「ちゃんとできるかな」
「あなたのあそこは何のためについているのよ」
「えっ、それはだなぁ」
「私と一つになるためでしょ」
弓花の言葉を聞いて、俺の身体にスイッチが入る。
身体も熱くなってきて、弓花が欲しくなっていく。
「ちゃんと俺を受け入れてくれよ」
「もちろんよ。優しく包んであげるわ」
耳元でそう囁いてくるから、身体がぴくついてしまう。
自然と手は弓花の身体に吸い寄せられていて、柔らかそうなところに触れている。
弓花は嫌な顔一つ見せず、俺を見つめている。
「私のこと好き?」
「大好きに決まってるだろ」
「知ってるわ」
当たり前のことを聞いて、当然の返事をする弓花。
彼女も俺と同様に、表には出さないが緊張しているのだろう。
「あなたの全てが好きよ」
「それは盛ってるだろ、脇とかは普通だろ」
「そんなことない」
嬉しそうに服の上から脇辺りを甘噛みしてくる弓花。
全てが好きという言葉に偽りは無いみたいだ。
「電気とか消すか?」
「明るい方が良い。あなたのことちゃんと見ていたいから」
「恥ずかしかったりしないか?」
「多少ね。でも、あなたに私の全部を見てほしいの」
そう言いながら上着を脱いで、下着姿になる弓花。
穢れ一つ無い透き通るような肌に、思わず目が奪われてしまう。
「ガン見されると流石に恥ずかしいのだけど」
「……まじで綺麗だよな」
「この日まで大事にしてたもの」
今まで誰にも触れられることのなかった弓花の地肌。
その前人未到の地に、俺は手を伸ばす。
「俺以外の男に触らせたりしたら駄目だぞ」
「当たり前じゃない、ずっとあなただけのものよ。あなたの名前をペンで書いたっていいのだし」
「そこまではしないよ」
「私はするけど」
首元を力強く吸ってくる弓花。
強く求められていて、痛いより興奮が勝るな。
「はい、完成」
「おいおい」
首元には大きなキスマークがついてしまっている。
「首はみんなに見られちゃうだろ」
「ちょっとぐらいの我儘は許してよ。あなたのことが好き過ぎて制御できないんだから」
「そんなこと言われたら許すしかないだろ」
「ほんと、あなたって私にはちょろいわよね」
キスマークをつけて満足した弓花はベッドで寝転がって仰向けになる。
「おいで」
両手を広げて、俺を招く弓花。
そんなこと言われたら迷わず行くしかないだろ。
「お邪魔します」
弓花の胸の中へゆっくり飛び込むと、両手で抱きしめられる。
そしてそのまま、頭をよしよしと撫でられてしまう。
「こういうことされるの好きでしょ?」
「別に、めっちゃ好きだし」
「一瞬だけ強がったわね」
まさか弓花がここまでリードしてくれる展開になるとはな。
度胸があるというか、頼りになるというか……
弓花と一緒なら、きっとこの先に何があっても大丈夫そうだな。
「さて、そろそろしましょうか」
「まじでやるんだな」
「もうね、私のお腹の下辺りが、とんでもないことになっちゃってるの」
「そ、そうなのか?」
「ええ、あなたを受け入れる準備が完了してしまっているわ」
その言葉の意味を確かめるように、手を伸ばす。
水溜まりに手を伸ばすような心構えだったが、実際にはオアシスだった。
「す、凄いことになってるな」
「きっと気持ち良いわよ」
弓花の言葉を聞いて、俺はごっくんと唾を飲み込む。
もう止めることはできない。
ここで全てをさらけ出してしまおう。
「あら、立派ね」
弓花は俺がさらけ出したものを見て、称えてくれている。
「……俺たち双子なんだぞ」
最後の躊躇。
意味のない悪あがき。
「安心して。たとえ社会から弾き出されたとしても、あなたのこと私が一生幸せにしてあげるから」
「俺も弓花とずっと一緒にいるし、何があっても護るから」
この状況に一切の後悔はない。
人生を犠牲にしてでも、弓花を愛したいと思ってしまったからな。
「一つになりたい」
「なりましょう」
近づけてからはあっという間だった。
まるで吸い込まれるように包まれてしまう。
そこで、弓花の本当の温もりを初めて味わった。
「繋がったわね」
双子として生まれた絶望と希望を抱きしめ合うように、俺と弓花は一つになった。
互いの等しい優しさを見せつけ合って、愛情の受け渡しを続けた。
そして、止められなくなった俺の熱い想いが飛び出して、弓花の中で広がった。
全てが終わった後に湧き出た感情は、
恐れていた後悔ではなく、
体感したことのない安堵に満ちた幸福だった――
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