第92話 未完
カーテンの隙間から朝陽が差し込み、目が覚める。
昨日は天国のような時間を過ごした。
温かくて気持ち良くて、生きてて良かったと思えるような夜。
今はやけに清々しい気持ちだ。
きっと、弓花とようやく一つになったからかもしれない。
むしろここからが始まりであり、ここからが大変なんだ。
それにしても昨日のことはまるで夢のようだな。
まさか夢オチだったりしないよな――
「……おはよう」
横を見ると、裸の弓花が目を覚ましていた。
夢じゃなくて安心した。
「昨日の夜に何があった?」
「あなたと一つになったわ」
「だよな」
見るからに事後だったけど、ちゃんと言葉で確かめた。
「しちゃったわね」
布団を下腹部辺りまでめくり、裸体を見せつけつつ俺を見つめてくる弓花。
自分にとっての理想の女性が、目の前で無防備になってしまっている。
「まだ時間も少し早いし、みんなが起きてくる前にもう一度する?」
「えっ、いや、流石にまずいだろ」
「あなたのはやる気マックスみたいだけど」
「こ、これは朝だからな」
生理現象を言い訳にしたが、確実に弓花を求める上での興奮だった。
「じゃあ、こっちはどう?」
自らの口元を指さしながら別の提案する弓花。
そんなこと言われたら断れるわけない。
「……お願いします」
「素直ね。大好きだから、全力でしてあげる」
どうやら天国は昨日の夜だけでなく、これからもずっとのようだ――
「……ふぅ」
果ての先に辿り着いた虚無感。
今はもう何も手につかない。
「お疲れ様、美味しかったわ」
「ありがとう弓花」
俺はただ感謝することしかできない。
こんなことをしてくれる人は弓花しかいないからな。
「そういえば、どうなの?」
「何が?」
「一線を越えた気分は?」
「うーん……幸せでしかない」
「そうよね。もっと早くこうすべきだったと思うでしょ?」
「そうだな。でも、たくさん悩んだ分、満足感はあった気がする」
「それもそうね」
もう俺と弓花は後戻りできない。
大人になれば社会から外れて、二人でひっそりと暮らしていくしかない。
「弓花はどんな気分なんだ?」
「ずっと追いかけていた夢を叶えたような気分ね」
「そうなのか。でも、それじゃあ達成感があって、俺に興味薄れたりしないか?」
「薄れるわけないじゃない。夢を叶えたら、また次の夢を叶えるために行動するだけ」
まだまだこれからといった表情の弓花。
俺も弓花としたいことはまだたくさんあるからな。
「もっと望むものがあるのか」
「ええ。例えば裸のまんまで暮らせるような愛の巣窟が欲しいわ」
「……それなら、頑張ってアルバイトして二人で暮らすためにお金を溜めないとな」
「そうね。二人の隠れ家が的な居場所があれば、もっと楽になれると思うし」
「昨日、なんか苦しかったのか?」
「……声を我慢するのが大変過ぎてヤバかったのよ」
「そ、それはすまんな」
頬を赤らめて、昨日のことを思い出している弓花。
そういえば、弓花が両手で口を抑えている光景が多かったかもしれない。
「やっぱり高校卒業したら二人で暮らして一緒の大学へ通おう」
「そうね。ちゃんと人生設計もしていかないと」
「大学は外国語を学んで、誰にも邪魔されないように海外で暮らそう」
「あなたに一生ついていくわ」
抱き着いて、もう離れないといった様子の弓花。
弓花とずっと一緒なら、きっとどんな困難も乗り越えられるはずだ。
「弓花のプランは?」
「具体的なのは一つ。海外でウェディングドレスを着たいわね。二人で模擬結婚式みたいなことをしたいの」
「わかった。ちゃんと叶える」
「ありがとう……あなたのこと愛しているわ」
弓花と向き合って、キスをする。
まるで鏡を見ているかのような、生き写しの存在。
だからこそ信頼できるし、全てを委ねられる。
「きっとこの道の先には幸せしかないな」
「そうね。私達が選んだ道だもの、きっと間違ってなんかない」
この道の先に何が待っているかは、まだ知らない。
どんなことになろうとも弓花と手を放さずにいよう――
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