第86話 しあわせになろうよ
入院生活が終わり、遂に退院した。
まだ少し腰は痛いが、日常生活に支障は無さそうだ。
「お兄ちゃん、退院おめでとう!」
華菜がお祝いの言葉を言いながら俺の手を握ってくる。
「おめでとう咲矢。この時を待っていたわよ」
俺の腕に抱き着き、もう一生離さないという目を向ける弓花。
「入院生活お疲れ様」
車で迎えに来てくれた母親からも労いの言葉をかけられる。
「……でも、ちょっと仲良過ぎない?」
弓花と華菜から愛されまくっている俺を奇異な目で見ている母親。
「家族が仲良い事に越したことはないと思うけど」
「まぁそうなんだけど」
「大切な家族を作ってくれてありがとうお母さん」
弓花や華菜がいなかったら俺の人生は退屈なものとなってしまっていただろう。
こんな幸せな環境を作ってくれた母親には感謝が尽きない。
「……咲矢、そんなこと言われると泣けてきちゃうわ」
結局、母親も俺の背中に抱き着き、まさに家族が一つになってしまった――
▲
久しぶりにが家へ足を踏み入れる。
病室とは異なる安心感。
もう十二月になったが、家は暖かい。
部屋に入ると、ベッドが不自然なほど綺麗になっていた。
「弓花、俺がいない時に部屋へ入ったか?」
「ええ。寂しくて咲矢の布団で毎日寝てたから」
少し恥ずかしそうに答えている弓花。
あまりの可愛さに思わず肩を抱き寄せてしまった。
「心配かけたり寂しい思いをさせてごめんな」
「あなたが悪いわけじゃないもの。謝らなくていいわ」
俺は被害者とはいえ、もしも自分の身に何かあったらと考えると弓花が絶望している姿を容易に想像できてしまう。
弓花を一人にさせたくないし、ずっと傍にいてあげたい。
「あたしもお兄ちゃんのベッドで寝ることあったよ」
「そうそう、華菜ちゃんと一緒に寝ることも多かったわ」
俺のベッドが妹たちの憩いの場になってしまっていたみたいだ。
「弓花と一緒に寝ててセクハラされなかったか華菜? ちなみに俺はいつもされてる気がする」
弓花は俺が寝ている時をチャンスだと思って、色んな場所を触られたり舐められたりとかしてたからな。
まぁ俺も寝ぼけたフリして胸に触れまくってはいたが。
「お兄ちゃんの布団で興奮してたのか、自分でセクハラしてたよ」
華菜がお姉ちゃんのとんでもないことを暴露してくれた。
「ちょっと華菜ちゃん、あの時は華菜ちゃんもセルフセクハラしてたはずよ」
「ば、バレてた!?」
いったい、この妹二人は俺のいないところで何をしてたんだか……
それだけ愛されていると思えば、ぜんぜん許せることだが。
「汚しまくってしまったシーツはちゃんと洗っておいたから安心して」
「それは助かる」
何をどう汚したのかは知らない方が良いと思うので聞かないでおこう。
「今日は三人で寝ようね」
「そうね、華菜ちゃんの言う通り今日は三人で寝ましょう」
俺と一緒に寝ようとしている二人。
せめて俺の意見も聞いてからにしてくれっての。
「三人だと狭いんだって」
「もう冬だし寒いから丁度いいじゃない。密着して温まれば」
「……そうだな」
二人にがっちりと両脇を固められる。
もう逃れられないけど、逃げるつもりもない。
ずっと弓花と二人で愛し合って、華菜といつまでも仲良く過ごしていたい。
死の危機を乗り越えたからこそ、素直に自分のしたいことをしようと思えるようになったかもしれない。
「冬とはいえ三人で寝たら暑くなりそうだから俺は裸でいいか?」
「咲矢が開き直ってる!?」
俺の発言に驚いている弓花。
「あなたも遂に覚悟を決めたの?」
「ああ。入院生活の時にこれからどうするかずっと考えてた」
「完全に決心したの?」
「そんな感じだ」
弓花は俺の発言を聞いて安堵した表情を見せている。
「私達の誕生日が楽しみね」
十日後の十二月十日は俺と弓花の誕生日だ。
きっとその日に俺達は、新たな境地へ進むことになる。
「弓花は覚悟できてるか?」
「とっくの昔にできているわよ」
自信満々な笑みを見せる弓花。
「でも、あなたが悩みに悩んだ末に選んだ答えだからこそ、そこに価値や重みが生まれるのよ。だからきっと、私はあなたに死ぬまで大切にされるのでしょうね」
「弓花もそうしてくれるだろ?」
「もちろん。あなたのために全てを捧げるわ」
もう俺に迷いはない。
覚悟も決めた。
あとは来るべき日を待つだけだ――
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