第84話 しちゃった
入院生活は十日目となった。
あと二日で退院できるみたいだが、腰は相変わらず痛いままだ。
とはいえ俺には弓花がいるので、何か後遺症があったとしても命さえあれば安心できるな。
「やほ。元気~?」
弓花と一緒に病室へ入ってきた心春。
「入院してて元気なわけないだろ」
「そだよね。でもそんな時だからこそ元気出しなよ、うぇいうぇい」
何故かやけにテンションが高い心春。
最後に見た時よりも肌ツヤが良くなっている気がするし、何か良い事でもあったのだろうか……
「最近の心春、本当に変よ。咲矢も不気味がってる」
弓花は前に学校で心春の様子がおかしいと口にしていた。
その変化は今も続いているみたいだ。
「もうここまで来たら言っちゃおうかなぁ~」
幸せそうな表情でもったいぶっている心春。
その様子から悪い話ではないと予想できる。
「ここだけの秘密だよ。絶対に誰にも言わないでね」
「言うわけないわ。それに、心春は私達のヤバい秘密も知っているわけだし、そんなことできるはずがない」
「なら安心だね」
弓花の言葉を聞いて話す決心をした心春。
「実はあたし……もうお父さんとしちゃった」
「えっ!?」
心春の告白に俺は驚きを隠せない。
何をしたかは具体的に言っていないのだが、きっとアレだろ。
アレしちゃったんだろ。
「何で言わなかったのよ」
「弓花の彼氏が不幸な目に遭ったから、あたしの幸せ自慢が言い辛くて」
「そこは気を使わなくてもいいのに」
弓花はもっと早く伝えて欲しかったみたいだな。
いや冷静に考えて父と娘がするとかヤバくないか?
俺が言えた義理じゃないんだが心配になる。
「先を越されたわね。それで、どういった経緯でそうなったのよ」
「どうしても気持ちが抑えきれなくなって、シンプルにベッドでお父さんのことが大好きだからしたいって言ったの。最初はお父さんも躊躇してたけど、服脱いで両膝抱えて、受け入れる姿勢を見せたらお父さん止まらなくなっちゃった」
お父さん見損なったよ! 俺は我慢してるのに!
「感想は?」
弓花が心春に食い気味で聞いている。
「めっちゃヤバかった」
「そう。まぁヤバいに決まっているわね」
「お父さんも今までで一番だったって」
心春が俺を見ながらお父さんの感想を教えてくれる。
「背徳感とかえげつなさそうだな」
「それもあるし、大好きな人だからってのも相まってね」
まるで世界一周してきたかのような、満足気な笑みを見せる心春。
弓花と一つになれば、俺も心春のように幸せになれるのだろうか……
「なんかもうね、身体が馬鹿になって全部出ちゃったよ。ぜんぜん止まらなくて、それがちょっと恥ずかしかった。お父さんはそういうところも可愛いって言ってくれたけど」
「羨ましい限りね」
「弓花ちゃんもきっとヤバいことになると思うから覚悟しておいた方がいいよ」
両手の拳を握って気合を入れている弓花。
やる気満々じゃねーか……
「その後の関係性は? 気まずくなって変な距離感とかは生まれてない?」
「むしろその逆! めっちゃラブラブになった。毎日してる。今日の朝もした」
「無事に愛し合っているということね」
「うん。お父さんもあたしのこと大好きだって言ってくれた。あたしの好きな気持ちが溢れ出過ぎてたから、もうけっこう前から気づかれてたみたい」
心春が幸せそうな理由がはっきりしたな。
大好きな人と結ばれて最高の日常を手にした。
だが、もちろんその日常にはリスクも潜んでいる。
ただ楽しいだけではない。
「でも、気をつけなさい。あなたのお父さんは相当思い悩んでいるはずよ。あなたの前では笑顔でも、大きな負担を抱えていると思う」
「わかってる。お父さんを安心させるために、あたしが悪い子だって言い聞かせてる。お父さんは何も悪くないよって」
何があっても自分で責任を負うという覚悟を言い聞かせているみたいだが、それでもお父さんの不安は拭えないはずだ。
俺も似たような立場だからお父さんの気持ちがわかるな。
「二人も早くしちゃえば? 最初のふんぎりが大変なだけで一度しちゃえば後は止まらないし、もっと早くしてればよかったって後悔するよ」
自分のことよりも俺達のことに気を使いだした心春。
「年内にはするつもりよ」
「おいおい、そんなこと聞いてないぞ」
「残念だけど、あなたが拒否しても問答無用でするつもりだから」
弓花は心春の話を聞いて興奮して燃えているのか、やる気が溢れまくっている。
「……本気みたいだな」
「もう逃げ道は無いの」
まぁ俺も覚悟を決める寸前まできているからな。
弓花からは逃げられない。
なら、受け入れるしかない。
「優しくしたいから、無理やりとかは止めてくれ。二人のために初めては大事にしなきゃ」
「……あなたのそういうところ、狂おしいほど大好きよ」
社会の秩序、ルールや常識、人としての倫理観。
みんなそれを守って生活している。
それが守れない人は悪い子と言われてしまう。
でも、俺はもう守れそうにない。
俺も悪い子なんだ。
そして、双子の弓花も俺と同じ悪い子だ。
悪い子が集まったら悪さをする。
でも、たとえ世の中に𠮟られてでも、
弓花と結ばれたいと思ってしまった――
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