第74話 距離感
「おっす心春」
教室に入ると心春の後ろ姿が見えたので、両肩を掴んで声をかけた。
「咲矢君おはよー」
「おう、お父さんとはどうだ?」
俺はそのまま心春の身体を引き寄せて、お父さんとの近況を小声で尋ねた。
「進展なしだよ~」
「そっか……まぁ双子より難しい関係だもんな」
「うん、気長に頑張るよ」
心春に関しては俺にできることは少なそうだからな。
あまり力になれなくてもどかしい気持ちだ。
「あのさぁ咲矢君」
「どうした?」
「距離感バグってない?」
「ふぇ」
心春に言われて俺は心春の腰を抱き寄せ至近距離で話していることに気づいた。
「あっ、まじだ」
冷静になった俺は慌てて心春から離れた。
「弓花さんとイチャつき過ぎて人との距離感に変な癖ついてるよ」
「すまん、まじでごめん」
「いや別に咲矢君になら嫌じゃないから怒ってないよ」
「そう言ってくれると助かる」
きっと心春なら受け入れてくれると思って身体が自然に抱き寄せてしまったのだろう。
「勢いあまってキスとかしてこないでよね」
「流石にそこまでバグってねーよ」
「する時はするって言ってくれないと、心の準備とかできないからさ」
「おう」
まるで俺にならキスされても良いような言い方だな。
それにしても、ちょっと気を引き締めていかないと取り返しのつかないことを起こしてしまいそうだ。
いや、既に妹にもキスしたりと取り返しのつかないこと起こしまくってんだけどさ。
「あっ、弓花ちゃん」
弓花がのそのそと俺達の元に来て心春が嬉しそうにしている。
「心春さん、あなたのことは信頼しているとはいえ、あまり咲矢にベタベタしないでもらえるかしら」
二人は歩み寄ったためお互いに名前で呼び合っている。
弓花が信頼していると言っているので関係は良好みたいだ。
「ごめんね、馴れ馴れし過ぎた」
俺から触れ合いにいったというのに自ら謝っている心春。
本当に良い奴だな……
「心春は悪くない」
流石に俺が原因で怒られるのは胸が痛いので心春のフォローをする。
「じゃあ咲矢が全部悪いの?」
「俺も……そんなに悪くない」
「じゃあ誰が悪いのよ」
「俺かもしれない」
「はっきりしないわね」
心春は守りたいが俺は怒られたくないというあやふやな姿勢を貫く。
「情けないね咲矢君は」
「ああ言えばこう言う人なのよ」
心春と弓花が肩を並べて呆れた目で見てくる。
……まさかこんな光景が見られる日が来るとはな。
「咲矢君にイラついたりしないの?」
「そういうところも大好きなのよ」
「わかるそれ、あたしもお父さんの駄目な所が大好きになっちゃう」
「そうよね、流石は同志だわ」
互いに共感している二人。
こうなることを望んでいたが、いざ実現すると俺が仲間外れみたいな時間が増えてしまうな。
「木下さん後ろ通るね」
「はいよー、あっ」
心春の後ろをクラスメイトが通るので心春は移動しようとしたのだが、机の脚に引っかかってバランスを崩してしまった。
「あで」
倒れた先には弓花が立っていたので転ぶことはなかったのだが、心春は弓花の大きな胸の中に顔が埋もれていた。
「大丈夫?」
「う、うん。弓花ちゃんの大きな胸がエアバッグみたいに衝撃を吸収してくれたよ」
「そう、役に立てたのなら嬉しいわ。私の胸も咲矢を興奮させること以外に活躍する場面があったみたいね」
心春も胸は大きいが、弓花に比べるとやや見劣りしてしまうからな。
「こ、これは凄い……まさにグラビアアイドルの胸だね」
「ちょ、ちょっと」
弓花の胸をツンツンしている心春。
おいおい、彼氏の俺ですらまだ七ツンぐらいしかしてないというのに……
「あなたの胸の方が理想の大きさじゃない?」
「そ、そうかなぁ」
弓花に胸を揉まれて顔を赤くしている心春。
二人の間に俺も混ぜてくれよと介入したい気分だが、百合好きなクラスメイトから顔面がぐちゃぐちゃになるまで殴られそうなので我慢するしかない。
「おい、心春のことは信頼しているとはいえ、あまり弓花にベタベタしないでもらえるか」
先ほど弓花に言われた言葉をそのまま引用して注意した。
「ごめんなさい咲矢、私の胸は咲矢専用だったわね」
何故か心春が謝るのではなく弓花が謝ってきた。
「出たバカップル。あんまり専用とか言ってると、傍から見てイタいよ」
「そんなことないだろ……いや、でも確かに心春の口からあたしの胸はお父さん専用とか聞いちゃったらかなりイタいな」
「でしょでしょ」
「恋は盲目ってやつだな。弓花の胸にマジックで咲矢専用とか書こうとしてたけど止めておくか」
「しれっと何しようとしてんの!?」
心春にドン引きされたところで先生が教室に入ってきたので会話は終了した。
弓花と心春が仲良くなってくれたので俺の気苦労が一つ減ったな――
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